竹信三恵子著「賃金破壊」
この本が新聞の書評などで話題になっています。
(上野千鶴子さん、内田樹さん、浜矩子さん、松尾匡さんなどが推薦文を寄せています)
(朝日新聞の書評)
「賃労働の系譜学」/「賃金破壊」 壊れた社会で働く者を守るには 朝日新聞書評から|好書好日
『賃金破壊』は、数年前に起こった関西生コン事件を取材して、国家による「組織つぶし」の実態を暴く。生コン職場で働く組合員が次々に逮捕され、長期勾留の末、重い刑を科される。正当なはずのストライキばかりか、ビラまきや保育園入園のための就労証明書の要求まで刑事事件にされた。
背景には、共謀罪を拡大解釈し、暴力団やテロ集団と同様のレッテル貼りをして、「分を超える」労組を狙い撃ちした警察や司法の意思が透けて見える。戦前の治安維持法の暴走と見紛(まが)う、労働基本権の「解釈改憲」が進む。SNSやヘイト集団の攻撃に萎縮し、沈黙したメディアも共犯者だった。
そして、この本の内容のダイジェスト版とも言える動画がアップされています。
この動画の主な部分をご紹介します。
零細生コン運送会社と労働者を大手セメント会社やゼネコンの「買いたたき」から守るための「協同組合」
生コン運送会社は零細が多い。そこに働く労働者も低賃金。
その運送会社に生コンを供給する生コン会社も立場が弱く、「大手セメント」「ゼネコン」に買いたたかれ、「安売り競争」をせざるを得ない。
そこで生コン会社が結束して協同組合(下図の赤線で囲った部分)をつくり、大手セメントに対し、「これ以上安くは売れない」と主張できるようにする。そういう画期的な仕組みを作ったのが、生コン労働者の組合「連帯ユニオン関西地区生コン支部」、通称「関生(かんなま)」です。
阪神大震災の時、ビルや高速道路が壊れたのは「質の悪いコンクリート」を使ったせいではないか、ということで通産省(現経産省)が認めた「協同組合」
この協同組合の考え方は、もともとは、生コン会社が乱立して、あまりにも質の悪い生コンが出回っているのを何とかしようとした通産省(現経産省)の発想。
阪神大震災の時に建築物とか高速道路とかものすごく壊れ、倒壊した。「安売り競争の値崩れで質の悪い生コン(水をいっぱい入れて耐久性が弱くなった生コン。業界では「シャブコン」と呼ばれる。)を使ったせいじゃないか」と組合は見ている。
原料や運賃にかかった費用ぐらいの値段で売らなければ粗悪なものを作り始めて危ない。
そこで通産省(現経産省)が「独占禁止法」の適用除外として、協同組合を作って価格協定してもいい、と認めた。
あまりにも零細乱立でシャブコンが作られたら危ないし、どんどんその会社がつぶれたら雇用の面でも問題、昔の通産省は(今と違って)もっと安定社会を期待していたので、関西生コンという労働組合が主導してこの協同組合を作った。それがスゴい、面白いんです。
自分らの安全な労働環境や暮らしていける賃金を確保するためには、自分らを雇っている会社側の経営が安定しなければいけない、という考え方。
➀雇う側もたたき合いしないように、そして➁自分たちも企業横断的な組合をつくる、という2つの「買いたたき防止」をやったわけです。
➂「正規も非正規も入れる組合」としたのも、非正規をいっぱい雇って労働力の買いたたきをする、というのを防ぐため、そうしました。
日本だけ賃金が下がり続けている
先進国で日本だけが賃金が下がり続け、韓国より低くなった、と言われています。
しかし関生労働者の賃金は、上のような仕組みをつくったおかげで、他の地域の労働者より高い。
正当な組合活動を「犯罪」として、次々に逮捕
政府や経済界が、この関生を何とかつぶそうと、「異様な」組合潰しの弾圧を行ってきた。それが以下の事件。
コンプライアンス活動(法律を守れ、という活動)やストライキをやったら逮捕された
コンプライアンス活動で逮捕
関生がやっているコンプライアンス活動(関生支部役員が現場を回って法律違反を直させたり、行政に通報したりして、現場全体を良くしていく活動。タイヤがすり減っているよ、とか)。
日本ではあまりやっていないけど、海外では普通にやっています。
「フジタ事件」では、「協同組合に入っている企業の方が安心だから、そちらから生コンを買ってください」と協同組合の人たちが営業に行ったことが「恐喝」とされた。
「組合外の会社は安いけれど、あとで問題が起きてもアフターフォローしてくれませんよ。大変なことになりますよ」と「つぶやいた」ことが、「大変なことになる、とスゴんだ」ことにされてしまい、協同組合に入っている会社の経営者を逮捕。一緒に行った関生組合員もそれに加勢した、として逮捕された。
ストライキをやったら逮捕
それより先に2017年、賃上げの約束を守らない経営側に約束を守るよう要求してストライキ。会社の前で生コン運転手にスト破りをせず、ストライキに参加するよう説得活動をしていたら、100人ぐらい警察が来て、経営側もいっぱい来ていた。弾圧の口実を見つけようと、「待っていた」んじゃないか。
異常ですね。でもその時は何事もなかったのに、数か月後に「あの時威力業務妨害をやった」として逮捕が始まった。
団体交渉に行ったら逮捕
加茂生コンで組合ができ、「非正規の運転手を正規で雇って」と会社側に要求したところ、お子さんを保育所に通わせるための「就労証明書」を会社側が出してくれなくなった。今までは出していたのに…
「出してくれ」と強く言って出させたら「強要」にされる、でも結局出してくれなかったから「強要未遂」にされた(笑い)
抗議活動に行ったら逮捕
協同組合に入っていない会社で組合を作ったら事務所の周りに暴力団風の人が出没した。会社側が指し向けたんじゃないか、と抗議に行ったら、その行為が「強要未遂・威力業務妨害」で逮捕された。しかもこの時行った5人のうち2人は事務所の中に入ってもいなかったのに逮捕された。
労働法用語を刑事事件の用語にすり替え(ダブルスピーク)
ジョージ・オーウェルが「1984年」という全体主義国家の恐ろしさを描いた小説で、「オールド・スピーク」から「ニュー・スピーク」にすり替えるやり口のことを書いています。
この小説の中で、「戦争をするための政府機関」を「平和省」、歴史を改ざんする政府機関を「真理省」と呼んでいます。(「オールド・スピーク」と「ニュー・スピーク」の「ダブルスピーク」)
今回の弾圧でも「団体交渉は強要」「ストライキは威力業務妨害」「コンプライアンス活動は恐喝」という「すり替え」を行っている。
⇒第2次安倍政権でも政府は同じ「すり替え」を行った。
「徴用工」を「朝鮮半島出身の労働者」、「集団的自衛権行使の安保法制(戦争法)」を「平和安全法制」、「カジノ法」を「統合型リゾート(IR)実施法」、「オスプレイの墜落事故」は「オスプレイの不時着水」など。
委員長と副委員長を再逮捕の繰り返しで600日以上勾留!
異常な弾圧。例えば上の表は副委員長(現在の委員長)に対する弾圧ですが、まずコンプライアンス活動で逮捕された。何もしていないのに、「指示した」として逮捕されました。まるで「共謀罪」のやり方です。
次には他の組合活動で再逮捕、が延々と続き、644日勾留されていた。委員長の武(たけ)さんも641日。これが「読み替え=すり替え」の結果です。信じられない。
「ねらいは組合つぶし」と公言する警察
警察は「委員長を逮捕して関生の今をおさえた。君(副委員長)を逮捕して関生の未来をおさえた。もう関生は終わりだ」と言ったそうです。
「維新の会」が「もっと弾圧しろ」と国会で発言
国会で維新の会の足立康史議員が「関生に破防法を適用しろ」と言っている。
ヘイトスピーチグループと警察・検察と維新の会の足立議員が同じことを言っています。
会社横断的な組合が日本では一般的でない、というところにつけこんでいる。
第一次大戦後政府は「産業別組合はだめだが企業別組合だけ認める」とした。これが日本にだけ「企業別組合」が存在するようになった理由
明治以降、労働組合は関生や今の海外の組合のような「産業別の企業横断組合」が普通だった。じゃないと会社の息がかかって、ちゃんとした要求ができない。
これに対して政府が「治安警察法」という弾圧法で「ストライキを扇動してはならない」とした。
ところが第一次大戦後日本が国際連盟に入るための条件は「文明国なら労働組合を認める」ことだった。
そこで「企業内組合は認めるが、企業横断型組合は認めない」という二枚舌を使う。(外国に対しては「労働組合を認めてますよ」、国内に対しては「外国で認めているような産業別組合は認めないよ」)
第二次大戦後、外国のような産業別組合ができたが、解体されてしまう
第二次大戦後は企業横断型の産業別組合ができた。例えば「電産(日本電機産業労働組合)」という強い組合があったが電力会社の9分割、労働組合の分裂で解体されてしまう。そこで労働側も知恵をしぼって、「企業別組合だが一緒に闘う」という「春闘」が始まった。
今は「成果主義」とかが入って来て春闘もバラけてる。
そうして組合の連携が断たれてていくと同時に「暴力団を取り締まるだけだ」とごまかして、「組織犯罪等処罰法」や「共謀罪」を通してしまう。そして「計画したらダメ」だとか「頭の中」を取り締まっていく。強めていく、その歴史がまた始まったわけです。
今回の関生みたいに「計画した」とか「指示した」とか、彼らは労働組合ではなく暴力団みたいなもんですよ、と読み替えていく。
戦前のやり方が復活
「明るい民主警察を作る会」というのをやっている元警察官の方が「暴力団を取り締まる、と言えば誰も文句を言わない。そうすると、市民団体や共産党とかを取り締まる武器になって行きましたよね。戦後は根拠になる法律がなかったので、順々に作っていった。これは使えるな、と思った」と言ってました。
「労働協約適用率」が低く、労働者が守られない日本
昔は社会党なんかも強くて、何かあれば議員が現地調査に入る、など抵抗力があった。
今はそれがない。
上の表で黒い棒は組合への組織率、灰色の棒は「労働協約適用率」です。
労働協約適用率、というのは、ある会社で労使が結んだ労働協約が他の労働者にも適用される率です。
北欧は労働組合の組織率も「労働協約適用率」も高い。
それ以外のヨーロッパは、労働組合の組織率は高くなくても「労働協約適用率」が高く、労使で交わした約束が法律に近い拘束力を持っている社会。
一方日本は組織率も低いし、「労働協約適用率」はもっと低い。
イギリス、アメリカ、韓国は市民運動やNPOが労働者のための闘いをやるが、日本は弱い。それが「日本だけ低賃金」の理由
イギリス、アメリカ、韓国も日本と同じように組織率や「労働協約適用率」は低い。だけどイギリス、アメリカ、韓国では市民運動やNPOが強く、労働者の闘いに参加し、労働者のための闘いをやっている。でも日本はそれが弱い。それが日本だけ賃金が下がっている理由。
しかし関生はそれをやっているから、賃金も上がったし、週休2日も完備させ、生理休暇も有給にした。
月70万円もらってSNSに「関生の悪口、誹謗中傷」の、ヤラセ書き込みをする「仕事」
月70万円もらってSNSに「関生の悪口、誹謗中傷」の書き込みをする「仕事」をやった、という人がいたが、下の表のような書き込みが行なわれています。「関生は暴力団」という、ヘイトスピーチ側の動画も大量にアップされ、「関生」で検索すると、そんな動画ばかりしか出て来ないようになった。
労働法学者78人が抗議声明を発表
産経新聞は旗振り役。京都新聞も最初は警察の言い分だけ書いていたが、労働法学者78人の弾圧抗議声明が出てからは記者の人たちも頑張ってちゃんと書くようになった。
労働法学者78人が抗議声明を発表
12月9日、労働法学会の有志が厚労省記者クラブで会見をひらき、関西生コン支部に対する類例をみない弾圧事件について、「組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない」とする声明を公表した。会見には、吉田美喜夫(立命館大学名誉教授)、山田順三(中央大学名誉教授)、深谷信夫(茨城大学名誉教授)、毛塚勝利(元中央大学教授)ら労働法研究者が出席した。
無罪判決が出て来るようになった
三池闘争、国鉄分割民営化に次ぐ戦後3番目の労働運動への大攻撃だが、無罪判決を勝ち取り始めている。
タイヨー生コン事件
コンプライアンス活動で会社に要求した、という事件。「根拠が薄弱」で無罪。
加茂生コン事件
お子さんの保育所に提出する「就労証明書」を会社が出さなかったので、出すよう求めた、という事件。
「会社は出す義務があるので、出すよう要求するのは問題ない」と事実上無罪
(結論)
これが日本の現実。こういう流れが賃金の上がらない日本をつくっています。
(関連する動画や記事)
関西生コン労働組合が国賠訴訟
関西の生コン業界で、いまなにがおきているのか
三井三池争議(会社側が雇った暴力団により組合員の久保清さんが刺殺される)
明日23日(木・祝)「棘(とげ)2」上映会。関西生コンからも参加。 - 住みたい習志野
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