隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1344.雨降りだからミステリーの勉強でもしよう

2013年04月25日 | エッセイ
雨降りだからミステリーでも勉強しよう
読 了 日 2013/04/15
著  者 植草甚一
出 版 社 晶文社
形  態 単行本
ページ数 437数
発 行 日 1972/09/30
分類番号 0097-5506-3091

 

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和47年となっている本書の発行日から、当時の僕を振り返ると、12年勤めた外房大原(現在のいすみ市大原)の会社から、千葉市の会社に移って2年後の頃だ。
まだ1時間以上かけて列車通勤をしており、給料はいくらかよくはなったが、それほど余裕のある生活とは言い難かった時代だ。新聞広告か、雑誌で見たかして、本書のことを知り、欲しいと思いながらも本のために1,200円の支出はかなわず、あきらめていた。ちなみにその頃の給与の額はおよそ5万円くらいではなかったか?
今の1,200円とは比較にならないほどの高額な値段だったのだ。
著者の植草甚一氏については、雑誌「スイング・ジャーナル」などのジャズ批評で、大橋巨泉氏とともによく見かけていたので、知っていた。そうした所に名前の出る批評家たちについては、彼らのモダンな、そして優雅な生活を想像していたから、僕はある種の憧れを抱いていたのだ。

 

 

そんな植草氏がミステリーについてのエッセイを出したのだから、僕が読みたいと思うのは当然のことだった。
この本を手に入れたのはいつ頃だったか?かなり前のことだと思うが、ようやく欲しかった本を手にした時の喜びは、今のように欲しい本が比較的簡単に手に入る時代とは比べるべくもない。
大昔、中学生の頃文学に目覚めて、夏目漱石や、志賀直哉、山本有三といった人たちの文庫を手に入れて、ページを開いた時に、かすかに感じる印刷インキの匂いを嗅いだときの喜びが、蘇る。
折に触れてページを開き独特の感性を基に書かれたミステリーエッセイ・評論は、読む都度僕をわくわくとさせる。貧乏だった若き日(今も大して変わらないが・・・)の憧れとともに、自由に読みたいミステリーを読める日を夢見ていたことが懐かしい。
この本を読みたいと思っていたのは、もちろん憧れの著者がどんなミステリーを読むのか、といった興味のほかに、少しでも著者の考え方に近づくことができるのではないか、などという希望のようなものもあったのだ。

 

 

て、本書の内容はフラグランテ・デリクト(現行犯)と名付けられた部分と、クライムクラブという後半の部分と、大きく二つに分かれており、先の部分は「1.1960年前後の推理小説の状況」から始まって「29.推理小説を書くためのジョン・クリーシーのアドバイス」まで29のエッセイが収録されており、後半は「1.サスペンス・ドラマで異彩を放つフランスの新人カトリーヌ・アルレェ」から始まり、「38.イギリス名門出のヴェテラン推理小説作家(ウェイド)」まで、38編が収まっている。
どこからでも読み始めることのできる構成で、もっとも一つ一つが独立した話だから当たり前のことなのだが、ぼくも順序良く初めから読んだわけではない。折に触れて、一つ二つ読んでは、またほかの小説を読むといった具合に読んできた。それでも中には関連するものもあって、例えば前半の最後に出てくる、推理作家のジョン・クリーシーについては、9番目に「9.四百冊以上もミステリーを書いたジョン・クリーシー」というエピソードが出てくるといった具合だ。
まあ、口八丁手八丁というのか、博覧強記といえばいいのか、とにかく才気の迸るようなこのおじさんの文章は、時々難しいカタカナ語が出てきて、辞書を片手にしてないと、意味の分からないところもあるが、「わからん奴は読まなくて結構」とでも言われているような気がしてくる。
おじさんと書いたが、今の僕は著者が亡くなった時の年齢よりもはるかに年寄になっている。それでもこうした本を読んでいると、やはり、おじさんと呼びたくなるのだ。
後半の最初に出てくるカトリーヌ・アルレェ女史は、今や押しも押されぬサスペンスの女王とでもいうべき存在だが、この当時は著者の目からは新人作家だったのかと、時代を感じる。

僕はこうした本は、「ミステリーの文献」といった分類を自分の中でしており、本来はいついつ読み終わったということではないのだが、このブログの形式上記事にするときは、読了日を書くが、あくまで記事を書いた時の日付だ。
前にも「蔵の中から」のところでも書いたが、何冊か文献をここで紹介していきたいと思っている。小説の記事を載せる合間に、順次入れておこうと思うが、まあ、例によって僕の予定は未定にして、あまりあてにはならない。

 

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