goo blog サービス終了のお知らせ 

隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1321.絵の中の殺人

2013年02月12日 | ハードボイルド
絵の中の殺人
読 了 日 2013/02/08
著  者 奥田哲也
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 332
発 行 日 1996/11/15
I S B N 4-06-263026-5

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

となく目についたのは、やはりタイトルからか?どんな内容だろうと思って読む気になった。初めての作家ということもあり、興味がわいたのだ。
そんなことがつい最近になって2度目か3度目となる。本当は読みたいと思っている本は他にたくさんあるのに、それらを置いてこうした初めての作家の本を読むというのは、新しい作家を開拓?することがすなわち面白く読める本を探すということに繋がらないかと、かすかな望みを持つからだ。
好みの作家の本が少なくとも十数冊は手元にありながら、こうして新しい本を探すのは、よくばり以外の何物でもない。そうした自覚はあるのだが、欲望を抑えることは難しいものだ。(ヤダネー)

 

 

こうしたブログの記事は普通読み終わってから書くものだが、僕の場合、このような前置きは読み始める前から書くこともある。今書いているこの記事も未だ読み始めて間もなく書き始めた。これから先この本が僕の好みに合うか、面白く読めるのか、などと期待と少しの不安が入り混じったような気分で、書き始めるのだ。といっても僕の場合は、大学ノートに記した本の基本的なデータや、簡単なメモをもとにWordで書く。もともと、Wordでブログの体裁を考えてデザインし、それを基にブログのテンプレートをカスタマイズしたものが現在のブログとなっている。
アップロードするときは、HTMLであらかじめ作っておいたいくつかのテンプレートに文章をはめ込んで、そっくりぷららのシンプルエディタモードにペーストする。ぷららというNTTのプロバイダーが提供するブログサービスは、時々実行速度が遅くなったりするトラブルがあるものの、同じNTTのOCNなどと比べると、初心者から上級者までの幅広いブロガーのについての要求を満たすものだと思っている。僕が本格的にHTML言語を学習できたのもこのブログサービスのおかげだ。

しかし、振り返ってみると僕の話は肝心の本の話よりも横道の方が大分が多い。 実生活ではどっちかといえば無口の方に入ると思うが、ブログでは無口というわけにはいかないから、自然と無駄話が多くなるのか。
2007年4月から読書記録をブログで公開するようになって、もうじき丸6年となる。その間、いくらかでもブログの見栄えを良くしようと、老人の手習いが始まり、プロバイダーが提供するお仕着せのテンプレートに飽き足らず、いろいろと先人の知恵を借りながら、カスタマイズにも手を染めたが、まだまだブログについてもやりたいことは沢山あって、よくは限りない。だいぶ余分な話が長くなってしまった。

 

 

書は、1軍のポジションを維持することが難しく、現役を引退したプロ野球選手を主人公としたストーリー。 彼、天矢輝彦は野球選手を退いた後、故郷の北海道に帰り、絵里村美術学院の事務員という全くの畑違いの場所に職を求めた。ところが彼の新入社員歓迎会の夜、事件は起きた。
彼の上司がアトリエで殺害されるという事件だった。この学院では1年前には理事長が殺害されるという事件が起こっており、未解決のままだった。今度の事件は前の事件と関係があるのか?
そんな中での新入社員の天矢輝彦の事件解明への挑戦が始まるのだが、どうも僕はこの主人公が元プロ野球の選手だったことが、何か事件解明への手がかりになるのかと思っていたが、そういう気配は全くなく進んでいく。同じ事務職員の仲間への警察の疑惑を払拭しようと、働きかける天矢の原動力もよくわからなく、一応本格推理の形をとっているものの、キャラクターの言動や背景の描写とストーリー展開がかみ合っていないようなちぐはぐな感じを受けたのだが・・・・。単に僕の受容力の不足か?
捜査を担当する県警から応援としてやってきた警部と、所轄の刑事との関係も説明不足で、中途半端な形で終わってしまったような感じだ。読みやすくスムーズに読めたのに、あれはどうなったのだろう?というような小さな疑問をいくつか残しているような思いを持たせる作品だ。期待していたのにちょっと残念。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

1282.レイン・フォール

2012年08月15日 | ハードボイルド
レイン・フォール/雨の牙
Rain Fall
読了日 2012/08/15
著 者 バリー・アイスラー
訳 者 池田真紀子
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 493
発行日 2009/03/25
ISBN 978-4-15-178151-3

 

上の著者名をクリックす ると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

 

に読んだ「傷痕」や、「報復」のヴィレッジ・ブックスが同じ作品を出しており、「報復」の後ろの方に広告が載っており、目を引いたのがついこの前のことだった。
そんな折、市内のBOOKOFFで105円の文庫棚を見ていたら、本書を見かけた。これも何かの縁かと思い、レジに持っていった。
公告を見たばかりだったから、僕はてっきりヴィレッジ・ブックスだとばかり思い込んでいたが、帰宅してよく見たら、早川ミステリ文庫だった。
最近は同じ作品が複数の出版社から文庫で出ることが珍しくなくなっているが、ちょっと驚いた。
ジョン・レインという日米のハーフの男が主人公のシリーズ作品らしく、Wikipediaを見るとすでに10冊近く出ているようだ。著者のアイスラー氏はCIAの戦略スタッフを務めていた時期もあるそうで、大の親日家だとのこと。
そんな著者が日本を舞台に描いた、殺し屋ジョン・レインの物語である。

 

 

昔から海外の作家が日本を描いたり、あるいは日本を舞台にしたストーリーを書くとき、おかしな日本人が出てきたり、江戸時代かと思うような舞台が描かれたりすることもあったりして、感心しないものもあったが、最近はそういうことがなくなってきている。
この著者も何年か日本に滞在していたこともあるらしく、東京の地理などもある面では日本人以上に詳しい描写があって、感心させられる。そうしたところで、多少説明過多と思われるところもあるが、それは僕が日本人だから仕方がない。アメリカ人にとっては、微にいる説明が必要なのかもしれない。
トラウマを抱えたベトナム戦争の経験者を、主人公に据えたストーリーはいくつか、どこかで読んだかあるいは映画で見たか、しているが、本編の主人公も過去に負った心の傷を癒せないままに、殺し屋稼業を続けているという設定だ。

 

 

タートで請け負ったターゲットは、政権政党の重要人物だったが、後にその娘を愛するようになるという展開が、どのように収束するのかという興味も、ストーリーを飽かせずに読み進ませる。
前に読んだ「深夜プラス1」を思わせるようなところも多少あるが、舞台が日本ということで、若しかしたらこんなことも全くの絵空事ではないかもしれない、と思わせて読ませる。
しかし、どちらかと言えば僕の好みからは多少外れていることが少し残念。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

1281.動く標的

2012年08月12日 | ハードボイルド
動く標的
THE MOVING TARGET
読了日 2012/08/12
著 者 ロス・マクドナルド
訳 者 井上一夫
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 331
発行日 1966/06/03
ISBN 4-488-13204-9

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

つか読もうと思いながらなかなか手につかなかった1冊だ。ポール・ニューマン氏の主演で映画化されて、そちらの方はテレビでも何度か放映されたので、その都度見ているが、その割には内容をおぼろげにしか覚えていないのはどうしたことか。
いや映画の方は、続編もあって両方見ているので、ごっちゃになっているのかもしれない。
しかも僕の頭の中では、ポール・ニューマン氏が売れない弁護士を演じた、「評決」などの印象から、どれもがいっしょくたになっており、これを読み終ったら、DVDに録画してある「動く標的」や、「評決」をもう一度見て、頭を整理しようかとも思っている。
映画では、私立探偵リュー・アーチャーは、ルー・ハーパーと名前を変えてあるが、これはニューマン氏の要望だったとか。それはともかく、続編も作られている。続編が同じロス・マクドナル氏の原作によるものかどうかは知らない。もしかしたら、映画の評判とポール・ニューマン氏の人気にあやかって制作されたのか?
映画やドラマの世界では、二匹目のどじょうを狙うのは、当たり前の業界で、そのために昔当たった映画は時を経て、リメークされることも多い。

 

 

映画館へ通うことも無くなった今、映画ファンなどとは言えないかもしれないが、ミステリー映画は相変わらず好きで、テレビ番組誌などで、そうした映画番組をチェックしている。最近のハリウッド映画は、想像を絶するような莫大な費用をかけたものが多い。金をかければ良いというわけではないが、映画製作にはとにかく金がかかるようだ。
この場でも再三書いてきたことだが、僕はほかの映画ファン同様、気に入った映画は何度でも見る。ミステリー映画は結末がわかると二度と見ることは無い、という人も結構いる。だが僕は、そこに至る経過や、巧みに張られた伏線などが、二度、三度と見るうちにわかってきて、その都度新しい発見を楽しむ。もうかなりの昔になるが、「羊たちの沈黙」、「ペリカン文書」、「ボーン・コレクター」などは、優れた原作とともに愛してやまない映画だ。
「羊たちの沈黙」は、アンソニー・ホプキンス氏や、ジョディー・フォスター氏の名演技に魅せられて、5―6回は見ているだろう。「ペリカン文書」、「ボーン・コレクター」はともにデンゼル・ワシントン氏が主人公を演じているが、シドニー・ポワチエ氏以来の好きな黒人俳優だ。「あれ?何の話だっけ」

 

 

うも映画やドラマの話になると止まらなくなってしまう。
世の中には幾つものことを難なくこなしていく人がいる。僕はできもしないのに、いろいろと手を出しては中途半端に投げ出してしまうことがあって、時々思い出しては続きを始めたりするのだが、そんなことではなかなか出来上がらないのは必至た。
実は映画ドラマの話のついでにもう少し、以前僕はAccessというMicrosoftのデータベースソフトで、見たドラマのデータベース作りを目指した。自分のためだけのものだから、映像の一部をキャプチャーしたり、キャストや放送局、放送日時に加え、あらすじなども入れたりと、ある程度満足できるものが出来上がった。
だがそれも途中から、見たドラマが増えるたびに入力するのが億劫となって、続かなくなっている。
ドラマのデータベースについては、すでに何年も前からネットに公開していて、半ばプロともいえるようなサイトがあるから、僕の作ったちゃちなものは公開する予定は全くないのだが、またいつか続けたいと思っている。

 

 

さて、ほんの少し本に義理立てして、あらすじだけでも書いておかないと。
離婚専門の探偵などと陰口をたたかれるリュー・アーチャーだが、半分は本当のことだからと、本人も認めている。そんな彼のところへ、大富豪の行方不明を探すようにとの依頼が入る。家を空けてまだ数日だが、石油王のラルフ・サンプスンの後妻であるイレインは、周囲の人間の思惑もあって、お抱え弁護士アルバート・グレイブスの紹介もあって、リュー・アーチャーを屋敷に呼んだのだ。
屋敷内はさほど差し迫った感じもなく、特にイレインはまたどこかで若い女性と一緒なのでは、と軽く考えているようだ。
だが、散布スン本人からの手紙が届いて、様相は一変する。どうやら誘拐事件のようだった。

ダシール・ハメットの後を継ぐハードボイルドの正統派と言われる、ロス・マクドナルド作品をちょっと長い時間をかけて読み終ったが、主人公のストイックさや、彼を支える主義主張の根源がどこからきているのか、といった納得しかねるところもある。現代とは少し時間の流れが異なる世界が、僕の読書の流れも遅くしたような感じだ。何というか悲しい結末?は、ハードボイルドたるゆえんか?

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

1277.深夜プラス1

2012年08月02日 | ハードボイルド
深夜プラス1
MIDNIGHT PLUS ONE
読了日 yyyy/mm/dd
著 者 ギャビン・ライアル
Gavin Lyall
訳 者 菊池光
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 380
発行日 1976/04/30
ISBN 4-15-071051-1

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

回で次に読む本を「報復」(ジリアン・ホフマン著)にすると書いたが、強烈なサイコサスペンスでスタミナを消耗した感じなので、カバー裏に記されたあらすじを見て、同様のサイコサスペンスだということなので、予定を変更して、一度他のジャンルの本を読むことにした。
歳は取りたくない、この読書記録を始めたころなら、いやもっと若かったころは読書でスタミナを消耗するなんて考えられなかったことだ。これからはますますそうした傾向が強くなるのかな。困ったことだ。

さて、本書の発行日は1976年(初版)となっているが、僕が読んだのは1998年発行の32版だった。まだサラリーマン現役の最後の頃で、当時勤めていた会社の近くにあった、千葉市中央区の中島書店のカバーがかかっているから、買ったのもその頃だろう。だが、著者がこの作品を発表したのは1965年とのことで、ずいぶん昔の作品だ。
そんな本を僕がどこで知ったのかは、例によって記憶があいまいで、多分書評家の誰かが雑誌か新聞で紹介していたのを読んだのか? そんなところだろう。書店のカバーがかかったままだったので、読むのを忘れていたのかもしれない。7月から翻訳ものを少しまとめて読んでおこうと思って読んでいるが、その間国内作品で気になる新作が次々と出ており、そっちの方にも目移りして、どうにか自分を抑えている状態だ。もう少し翻訳ものを読んだら、今度はそれらの新作にもあたってみたい、なんて思っている。

 

 

ところで、どのような経緯でこの本を買ったのかが気になり、週刊文春編の「傑作ミステリーベスト10」をめくってみたが、残念ながら1977年から2000年にかけてのミステリーを扱っているので、1965年作品の本書については載っていなかった。
次に「このミステリーを読め!海外編」(郷原宏著 三笠書房王様文庫 2000年刊)“海外ミステリー史上、最高の100冊”という副題のついた紹介本をを見ると、本書は冒険&スパイという分類で、93番目に紹介されている。
僕はこの本に、長いことハードボイルドの傑作という感じ抱いていた。だから冒険小説という分類に、あれ、そうだったのか、と僕の見当違いの思い込みをただす。
そんなことから、当時の記憶がほんの少し蘇ってきた。いろいろなところで、この本は傑作だという評価を得ていたことで、僕も一度は読んでおこうと思ったことも。

 

 

おざっぱに言ってしまえば、ビジネスエイジェントとなっている主人公の、ルイス・ケインが、旧知の弁護士から依頼された、事業家をブルターニュからリヒテンシュタインへと護送する話だ。

ルイス・ケインはレジスタンス時代、一緒に行動した友人の弁護士アンリ・メルランから、オーストリアの事業家マガンハルトという人物をフランス・ブルターニュから、スイス・リヒテンシュタインまで移送する件を依頼される。期日までに目的地に着かないと、莫大な損失を生じるということの他、詳しい事情は弁護士から聞き出せなかったが、1万2千フランという報酬を呈示される。
途中邪魔が入って打ち合いになる可能性もあり、もう一人ガンマンも同行するという。こうした言わばロード・ムービーを思わせるようなストーリーは、舞台となる国々の地理を知ることも、面白さを増す要因だと思い、世界地図をわきに読み始める。欧州の国々は地続きだが不法に国境を超えて、目的地に向かうことの難しさ、またそれを阻止しようとする勢力の出現など、簡単な道中ではないことが、このストーリーをスリリングなものにしている。
ルイス・ケインがレジスタンス時代に培った、友情やロマンスも盛り込まれて、単調になりがちな筋運びにサスペンスを漂わせる。
僕はストーリーのスタートを飾る、主人公が旧友との出会いの面白さに、一気に惹かれて物語に突入した。
年代から言えばもう古典と言っていいほどの作品だが、長く読み継がれる要因は、その収束場面にあるのかもしれない。他にもこれはせりふ劇かと思われるような、主人公の哲学的な思いが随所に表れて、それが難しい理屈ではなく、読み手に納得させるような成り行きを示すところも、物語の特徴だろう。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

1272.マルタの鷹

2012年07月18日 | ハードボイルド
マルタの鷹
THE MALTESE FALCON
読了日 2012/07/15
著 者 ダシール・ハメット
Dashiel Hammett
訳 者 村上哲夫
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 345
発行日 1961/08/25
ISBN 4-488-13002-X

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

 

なり前にハンフリー・ボガード氏の映画を見ているのだが、どんな内容だったのか全く覚えていない。一つだけ記憶にあるのは、タイトルの「マルタの鷹」とは置物だったということだけだ。
もちろん僕が見たのは田舎の映画館でのリバイバル上映だった。多分、同じころだったと思うが同氏の主演した「三つ数えろ」も見ている。
後の方は後にロバート・ミッチャム氏の「大いなる眠り」を見て、同じ原作(レイモンド・チャンドラー氏のThe Big Sleep)を映画化したものだと知った。
本書の主人公で私立探偵のサム(サミュエル)・スペイドや、チャンドラー氏の生み出したフィリップ・マーロウがボガード氏の嵌り役と言われているが、フィリップ・マーロウに関しては、僕は年代の違いからか、ロバート・ミッチャム氏の方が好きだ。ミッチャム氏は長い俳優生活の中で悪役を始め、実に様々な役柄をこなしているが、中年を過ぎてからその物憂い雰囲気が、ハードボイルドの私立探偵にぴったりだと思っていた。

 

 

どうも映画やドラマの話になるとつい夢中になってしまう。
本書の著者、ダシール・ハメット氏は、ミステリー界にハードボイルドを確立した作家として知られているが、自身が私立探偵社で働いていたこともあってか、彼ハメット氏が映画にもなっているほどだ。
主人公のサム(サミュエル)・スペイドのネーミングも、ハメット氏の本名(サミュエル)からとったようだ。しかし、写真を見ればスマートで、見るからに映画の中の人物を思わせるようなハメット氏に対して、サム・スペイドの容姿と言ったら、V字型の顔とV字型の顎、垂れ下がった鉤鼻といった顔つきに、6フィートあまりの逆三角形の体ときている。逆三角形と言っても胸板が厚く、文中では円錐形を逆さにしたような、という表現となっている。
映画のボガード氏とはちょっとかけ離れた様相を示しているが、冒険活劇風の様相を呈すところもあって、映画になっているという先入観があるせいか、映像を意識して書かれたような気もする。
アメリカのミステリー評論家として名高いハワード・ヘイクラフト氏によれば、このダシール・ハメット氏の「マルタの鷹」は「全探偵小説を通じ高い地位を占めるものである」と評している。(探偵小説・成長と時代:ハワード・ヘイクラフト著 林峻一郎訳 1961年桃源社) 面白いことに、巻末の中島河太郎氏の紹介によれば、江戸川乱歩氏は「退屈しながら、無理に読み終ったようなもの」と言っていたそうだ。1941年に3度目の映画化だというボガード氏の「マルタの鷹」が、ハードボイルド映画の手本となったことで、原作ともども後々高く評価される要因になったことも否めないだろうと、僕は勝手な解釈をしている。

 

 

はそれほど昔の探偵小説に詳しくはないので、それまでになかった文体や筋運びに、ハメット氏の本作がハードボイルドというジャンルを確立したことや、新しいミステリーの潮流を作ったことに偽を唱えるつもりは毛頭ない。現在の多くのハードボイルドの、どちらかと言えば速い展開を示す作品と比べて(比べることにあまり意味があるとは思えないが)、多少退屈なところがあるとはいえ、乱歩氏ほどの悪い印象はない。
イタリアのシチリア島の南に浮かぶ小さなマルタ島やゴツォ島、トリポリの三つの島がドイツ皇帝カール五世から騎士団に送られた見返りに、騎士団が公邸に毎年贈ることを義務付けられたというのが、黄金の鷹の彫像だったというのが、本編の底流であり、残されたその鷹を巡る争奪戦が本筋だ。
サム・スペイドは訪れた若い女性の依頼人により、その騒動に巻き込まれるといった展開で、その冷めた言動で立ち回る姿が、ハードボイルドを形作ったというわけだ。
しかし映画はともかく、現代のミステリー界の流れから見れば、確かに本作は乱歩氏の評にうなずけないこともない。あくまで僕個人の思いだが、背景はどうあろうと、自分なりの感覚で楽しめればそれでいい。なんだかわけのわからない理屈っぽい話になった。
つまりは、ヘイクラフト氏の賞賛と、乱歩氏の酷評との中間くらいが僕の印象と言えばいいのか。僕の読書はこれからもあまり周囲の動向に惑わされ過ぎることを気を付けて行きたいものだ。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

1270.アリバイの’A’

2012年07月12日 | ハードボイルド
アリバイの"A"
“A” IS FOR ALIBI
読了日 2012/07/04
著 者 スー・グラフトン
Sue Grafton
訳 者 嵯峨静江
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 349
発行日 1987/03/31
ISBN 4-15-076351-8

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

めて本書を読んだのは1998年10月だから、もう14年になるのか!
物忘れのひどい僕が14年前のことを憶えていたわけではない。この読書記録を始める前2年ほどの読書については、簡単なメモがあるのだ。
そのころ読んで印象深かったものについては、いずれ再読してこの記録に加えておこうと思っている。しかし例によって、「いずれ」とか「今度」というのはあまりあてにはできない。それでなくたって、近頃は魅力的と思われる新作が、目まぐるしいほど次々と出てくるから、あっちこっち目移りがして、思うに任せない状況だ。

テレビの書評番組でも読んでみたいと思う新作海外ミステリーが紹介されているが、当分は手持ちの古典的な名作を読むのを先にしないと!
エラリイ・クイーン、アガサ・クリスティ、ジョルジュ・シムノン、ヴァン・ダイン、ディクスン・カー、P.D.ジェイムス、ルース・レンデル、E.S.ガードナー、G.K.チェスタートン、ウィリアム・アイリッシュ、レイモンド・チャンドラー、ガストン・ルルー、F.W.クロフツ、A.A.ミルン、ドロシイ・セイヤーズetc. etc.とざっと著者を数えただけでもかなりの数になる。
じっくりと楽しみながら、消化していこう。まだ少し時間は残っているだろうから。

 

さて、著者のスー・グラフトン女史は、サラ・パレツキー女史とともに、3F時代を築き上げた作家だ。今回再読のこの記事のために、改めてお二方の著者の頁を作るため、顔写真をネットで検索してみたら、近影が見つかった。
本書のカバーに添えられた若き日のグラフトン女史や、前に読んだパレツキー女史も以前とは違って(当たり前のことだが)、歳を経てなお魅力的になった写真でページを飾った。
余分なことだが、僕の変なこだわりというか、ブログの記事と同様に、著者のどんな作品を読んだかというページに、できるだけ著者の写真を添えようとして、そっちこっち写真を探している。大体は本のカバーにある写真を利用するので、図書館を探してはキャプチャーしたり、テレビの書評番組に出演した時の映像を切り取ったりする。 それでも、意識して顔を見せない作家さんもいるから、顔写真のないページが結構あるのは仕方がない。
また、僕のブログを閲覧して、たまにコメントをいただく方から、過去の記事を検索するため、タイトルや、著者名から検索できないか、という問い合わせがあったので、コメントのレスで方法を書いておいたが、他にもそういう方がいるかどうかはわからないが、ここでも書いておこう。

 

ログのタイトル(隅の老人のミステリー読書雑感=グリーンのバック)の下に、グレーの帯(ナビゲーションバー)がある。
そこに左から、タイトル索引、著者索引、文学賞というボタンを設置してある。
それぞれのボタンをクリックすると、タイトル、著者についてはイニシャルの一覧へ、文学賞については名称の一覧のページにジャンプする。そこから必要なイニシャルや、名称をクリックすることにより目指すページに移動するようにリンクが張ってある。
これらの頁を作った目的は、ブログの記事が多くなるので、自分のためにネット上でミニ・データベースを作ろうということだった。これを作るにあたっては、当時まだHTML初心者だったことから、同じぷららのブロガーだったハンドルネームMild7さん他の方に大変お世話になった。もう3-4年ほどになるか。

余分な話が長くなった。
スー・グラフトン女史の作品は、本書の「”A” IS FOR ALIBI」から始まって、「”B” IS FOR BURGLAR」、「"C” IS FOR CORPSE」とアルファベット順に発表されている。サラ・パレツキー女史とともに、精力的な執筆活動をして多くの作品を発表している。
英米では古今、多くの女性ミステリー作家が活躍しており、その多くが我が国へも翻訳されて紹介されている。どれを選んだらいいのか判断に通うほどだが、できるだけたくさんの作品を読みたいものだ。
グラフトン女史の生み出した主人公は、私立探偵のキンジー・ミルホーン。
カリフォルニア州の架空の都市サンタ・テレサに住む、離婚歴2回、No Kids(この言い方は、昔、DINKS:ディンクスという生き方がもてはやされたことがあった。Double Income No Kids=の略で、子供のいない共稼ぎ夫婦の意味、からとった)の独身女性だ。面白いことにこの架空の都市サンタ・テレサとはロス・マクドナルド氏(私立探偵リュー・アーチャーが活躍するハードボイルド、「動く標的」などでおなじみの作家だが、僕は未読)が作り出した都市名で、グラフトン女史はロス・マクドナルド氏に尊敬の念を込めて使ったのだそうだ。(Wikipediaより)
こういう例は他にもあるのかな?さしずめ我が国で言えば、金田一が活躍した八つ墓村を舞台にして、十津川警部が事件を解決するといった具合か。そういうのも面白いかもしれない。
どうも話があっちこっち飛んでしまう。

 

さて、カリフォルニア州のライセンスを持つ私立探偵・キンジー・ミルホーンの初登場作、オフィスに現れた依頼人は、夫殺しの容疑で有罪が確定し、刑期を務め上げて釈放されたニッキ・ファイフという女性だった。
彼女は罪状について一切釈明せずに刑期を務めていたのだが、無罪だと言うのだ。そして、事件の真相を突き止めてほしい、というのがミルホーンに対する依頼内容だった。 キンジーも裁判の行方が気になっていた一人で、ニッキが夫殺しの犯人とは思えないでいたから、依頼を引き受けることにした。
被害者であるニッキの夫、ローレンス・ファイフは、チャーリー・スコルソーニと共同で法律事務所を経営する主に離婚を取り扱う腕利きの弁護士だった。そんなことから、キンジーは手始めに被害者の周辺人物たちから、恨みを買った可能性を引き出すための調査を始めるが、奇妙な事柄が続発するようになり、揚句殺人事件まで発生する始末だ。

ハードボイルド特有のある面でストイックな主人公は、男性主人公の場合と同様だが、登場人物と男女の関係に発展するところまで、1970年代後半から80年代前半のこのころからすでに、女性の先進的な行動を表している。そういったところが当時の女性読者たちに受けたのであろうか?
といったところで、タイトルはキンジー・ミルホーンが常に頭の隅に引っかかっていたある人物への疑問だ。結果から言えば彼女はもう少し自分の勘を信ずべきだったのだが…。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

1213.Q.O.L.

2011年12月26日 | ハードボイルド
Q.O.L.
読 了 日 2011/11/25
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 単行本
ページ数 285
発 行 :日 2004/08/30
ISBN 978-4-08-775337-9

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

月6日に袖ケ浦市立図書館で借りてきた。前に読んだ東京バンドワゴンの第6作「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」の巻末の広告ページに載っていた本だ。
東京バンドワゴンともかかわりのある旨が書いてあった?ので、後で読もうと思い木更津図書館を検索したら残念ながらなかったので、袖ケ浦市まで赴いたのだ。だが、おしまいまで読んでもどこが東京バンドワゴンと関係があるのかさっぱりわからない。しかし物語そのものは面白く読めたから、まあ、いいとしよう。
袖ケ浦図書館は、木更津から旧国道16号線を通って、15分くらい千葉方面に向かって走ると右側にちょっと入ったところに位置している。
袖ケ浦市は君津地区の中でも1番新しい市で、市原市から続く海浜工業地帯を有する新興都市だ。それだけに図書館の活動も活発に行っており、市民の期待も高まっているようだ。そこへ行くと、わが木更津市は袖ケ浦、君津に次いで3番手のようで、こと文化方面において後れを取っているようで心もとない。
家のカミさんに言わせると木更津市は遅れているという。

 

 

そういえば君津市民会館では、音楽や演劇などのイベントが盛んに行われている。何年か前にカミさんに誘われて、「アルフレッド・ハウゼ楽団」の公演に行ったこともあったナ。 まあ、それはともかく図書館の蔵書もそれぞれ個性があるのだろうが、たぶん蔵書数においても君津や、袖ケ浦の方が多いだろうと思われる。近くだから、僕は両方の図書館を便利に利用させてもらっているのだが。

さて、本書はアメリカ映画を思わせるような3人の若者?の物語だ。海辺で出会った3人の若者男女が一緒に暮らすようになるスタートから、スピーディーな展開を示す。
二人の男はかつて高校時代に剣道の試合で戦った良きライバルの三崎龍哉と酒井光平だった。三崎は海の家で見事なまでにおいしそうな食べっぷりを示す若い女性・千田くるみの、その食べる姿に見とれていた。そうした三崎をまた遠くから見ていた酒井光平は剣道で戦った相手だと気付いて話しかける。こんな風にして出会った3人だが、父親が残したという葉山の別荘だった屋敷に、三崎は二人に一緒暮らさないかと提案するのだった。

 

 

三崎の北海道行きに、千田くるみと酒井光平は同行を頼み込むのだが。二人にはそれぞれ目的があった。
その辺から話は穏やかだった3人の日常から一転することになっていくのだが、何ということのない青春物語がミステリアスな方向に向かっていくところがクライマックスだ。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

1129.赤い闇

2011年01月06日 | ハードボイルド
赤い闇
読了日 2010/12/30
著 者 祐未みらの
出版社 角川春樹事務所
形 態 新書
ページ数 199
発行日 1998/02/08
ISBN 4-89456-208-1

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

の著者の本も、今のところこれで最後のようだ。
僕は一つの作品が気に入ると、同じ作者の本を次々と読みたくなるのだが、まあ、それは僕に限ったことではないだろう。
読書の好きな人なら、大なり小なりそういった傾向はあるのではないか。この作者については、今はもう廃止されてしまったが、サントリーミステリー大賞の第11回の読者賞を受賞した「緋の風―スカーレットウィンド」を読んで、海外を舞台としたロマンティックな雰囲気に見せられて、読み続けてきた。といっても2冊目を読むまでの間5年もあいてしまったのだが・・・。
しかも2冊目に読んだのが、著者の集大成とも思える大作で最新作?だった。海外を舞台としたミステリー・ロマンは平岩弓枝女史の著作に、テレビドラマにもなった多くの作品が有り、一時期僕は夢中で読んだが、祐未みらの氏の作品に惹かれるのも、それに影響されたのかもしれない。

 

 

ところが今回のこの最後(今のところ)の作品は、従来とは全く違う傾向の内容で、びっくり。
若い女性のスナイパーの話だ。狙撃に感情を持ち込まないというキャラクターは今までに多くの作品に登場したと思うが、有名なところでは、コミックのゴルゴ13(サーティーン)か。
それでも、女性の狙撃者の作品はそう多くないだろう? 
この作品を読みながら、僕は以前読んだ芦原すなお氏の「ハート・オブ・スティール」(文庫化の際は、「雪のマズルカ」【東京創元社】と改題された)を思い浮かべた。女性の私立探偵の話だが、タイトルの示すごとく、鋼鉄の意志を持った女探偵は、躊躇することなく拳銃の引き金を引くというストーリーなのだ・・・。

 

 

 

ちろんストーリーの成り立ちは全く違い、この「赤い闇」の方は、かつて藤田まこと氏らの主演で人気を呼んだ時代劇「必殺シリーズ」のようなシチュエーションで、殺しを請け負うというか、依頼人を探す役目を負う人物がいるのである。
主人公には原体験とも言うべき、幼い頃の両親の死に意識の裏側に、トラウマのように植えつけられたものがあるようだが、その主人公より相棒の男性の方が、どちらかといえばデリケートな神経の持ち主に設定されているところも面白い。

こうした物語は、書いている著者が一番楽しんでいるのではないかと思われる。
ストレスを発散させるような、ビールでも飲みながら(残念ながら、僕はアルコールが飲めなくなったので、コーヒーだ)気軽に読めるネオ・ハードボイルドか。

 

に    ほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほん ブログ村

 


1122.異花受粉

2010年12月03日 | ハードボイルド
異花受粉
読了日 2010/11/27
著 者 祐未みらの
出版社 講談社
形 態 単行本
ページ数 314
発行日 1995/05/30
ISBN 4-06-207450-8

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

に読んだ「苦い血」と一緒のamazonで仕入れた単行本。
著者の本はデビュー作「緋の風」を含めて4冊目となる。一貫して海外を主な舞台とするミステリー・ロマンという感じがしていたが、「苦い血」と本書「異花受粉」で、これはハードボイルドだという思いが強くなった。
どれも職業をもち自立した女性を主人公として、しかも海外へ新天地を求める、といった行動的な面は、私立探偵ではなくともまさにハードボイルドと言っていいのではないか?
ブログに書く都合上、便宜的にカテゴリーに分類しているが、僕にとってはどうでもいいことかもしれない。単に娯楽としての読書なのだから。
それはともかくとして、僕はこの作者の海外を舞台としたある意味ロマンチックともいえるなストーリーが好きだ。僕は順を追って読んでいるわけではないので、先に読んでしまった「マンダレーの夕日」は、この「異花受粉」や、この前の「苦い血」などの集大成のような気がする。
それと、もうひとつ僕が感じている不思議な感覚と云おうか、紹介されている著者の写真から受ける感じと、作品の内容が一致しないところにも、変な話だが魅力を感じている。写真を見て、この人のどこからこのようなストーリーが生まれてくるのか?という感覚をもつのだ。

 

 

実際に逢ったこともないから写真だけで著者の印象を決めつけるのは、早計かもしれないが・・・。
僕は読み終わるたびに、もっとこの人の作品を読んでみたいと思う。そう思う作家に限って寡作なのだ。
本書は僕の偏見かもしれないが、ウイリアム・アイリッシュ氏の代表作「幻の女」の変形とも思えるストーリーだ。アイリッシュ氏自身も短編で幾つも「幻の女」探しと言うシチュエーションを使っているが、これほど後の作家に影響を与えた作品は数少ないだろう。
特にハードボイルド作品に多いような気がする。僕が本書をあえてハードボイルドだと言ったのは、そういう意味も含んでのことだ。
ハードボイルドの定義については、いろいろと言われているが、僕のような一読者にとっては定義はどうあれ、これはハードボイルドだと思って読めばそうなるだけのことで、どうということはない、のだが・・・。

 

 

 

幸な結果を迎えた短い結婚生活を終えて、響子は新たな人生を求めて勤務先の香港支社への転勤に応じた。そこで、人気俳優のジェームスと知り合って、つかず離れずの関係をもつようになる。
前任者のルーズだった管理体制を立て直すのは容易ではなかったが、遮二無二仕事に打ち込む響子の努力が実り、スタッフも入れ替わり支社は軌道に乗り始める。そんな彼女に気の許せる女友達がルリだったが、そのルリが突然姿を消して、日本からルリの母だという老女が現れて、響子にルリの行方を捜してほしいという依頼をするのだった。
怖い裏の世界をもつ香港での人探しがいかに無謀なことであるかを承知の上で、響子は老母の依頼を引き受けてしまった。

人探しのプロセスで、知っていると思っていたのと違う人物の裏面が見えてくるというのは、これまたハードボイルドに限らず、ミステリーに見られる一つのパターンともなっているシチュエーションだが、このストーリーではそれとともに垣間見せる香港の裏の怖さが、ちょっと物足らなさを感じさせる。
結末の意外性にしても、いささかあっけない感じもするが、僕はこうした物語を好きなせいもあって、全体的には面白く読んだ。
このあともう1冊、「赤い闇」という著者の本をamazonに注文してある。

 

に    ほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほん ブログ村

 


1102.野獣死すべし

2010年10月03日 | ハードボイルド
野獣死すべし
読了日 2010/09/04
著 者 大藪春彦
出版社 角川書店
形 態 文庫
ページ数 294
発行日 1979/06/10
ISBN 4-04-136224-5

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

 

の本を読みだして、多分高校を卒業してからだと思うが、著者の作品にわずかな期間傾倒していたことを思い出した。
その銃器類の細かな記述に、ある種の憧れを持っていたのだ。男なら誰でもなんてことは云わないが、少なくともその頃僕は拳銃をほしいと思っていた。もちろん本物は法に触れるし、第一僕などの手に入る見込みはまずもってないから、僕はアメ横で精巧なモデルガンを手に入れることになる。
今になって振り返れば、ずいぶん子供だったと苦い思い出だが、「ワルサーP38オートマチック」と、「コルト・ディティクティブ・スペシャル」を買い込んで、日夜早打ちの練習をした。特にコルトの方は一般的にスナップ・ノーズと呼ばれる銃身の極端に短い銃で、扱いやすかった。
そう云ったようなことで、僕がこの本を読んだのはその頃ではなかったかと思う。だが、著者・大藪春彦氏のことはそれより前から知っていた。高校3年の時だったか、早稲田大学の同人誌にとてつもない小説が載ったという話を漏れ聞いていたのだ。その後、「宝石」誌に転載されたのも読んではいないが見ている。

 

 

本文2


今回何十年振りかで再読したが、当時ほどの感慨はないものの、大学在学中にこれほどの小説を発表したことに、改めて著者に敬意を表したい。だが、ストーリーそのものは決して僕の好みではない。
反社会的な内容であるとか、反道徳的だなどと云う理由からでは決してないが、この作品に限って言えば、主人公に同調できないと云うのが一番に理由だろう。
僕が善人であるからなどと云う理由ではないのだが、人は誰しも多面的な心情を持ち合わせているから、こうした主人公のあくまでもクールで、自分の目的のためには、邪魔なものを何であろうと排除する、といった気持も多少の差はあれ持っているだろう。
しかし、そうであるにしても、こうしたストーリーで、カタルシスを感じたり、ストレスを発散させるには、僕が年をとりすぎたのかもしれない。
若いころは、このほかにも著者の作品はいくつか読んでいることを考えれば、理由はどうあれ面白く読んでいたことは間違いないだろうから・・・。

 

 

の善悪を考慮のほかにすれば、これほどのスーパー・ヒーローとも呼ぶべき主人公を創造したことについては、やはり作者の力量に脱帽だ。
この後書かれた、「蘇る金狼」の映画が今なおテレビで放映されていることを見れば、主人公を演じている松田優作氏への懐古ばかりではなく、作品の価値が認められている証拠?かもしれない。
日本的なピカレスク・ロマンあるいはハードボイルドの一つの形を形作ったのだから。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

 


1067.パラダイスの針

2010年04月18日 | ハードボイルド
パラダイスの針
The Web
読了日 2010/4/19
著 者 ジョナサン・ケラーマン
訳 者 北澤和彦
出版社 新潮社
形 態 文庫
ページ数 318(上)
317(下)
発行日 1998/4/1
ISBN 4-10-229613-1(上)
4-10-229614-X(下)

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

後に読んだ著者の作品は、2000年11月の「クリニック」だから、10年も前のことになる。
こうして目標を掲げてミステリーを読み始める直前の1999年11月1日に読み終えた「大きな枝が折れるとき」で、初めて著者と作品の主人公である臨床心理医アレックス・デラウェアを知り、その面白さの虜になった僕は1年ほどでシリーズ8作を読んだ。
出版事情に疎かったせいもあって、初めて知る作家のほとんどは既に多くの作品を発表していたから、間をおくことなく次々と読むことができるのが唯一のメリットともいえた。
それは10年を経た今でも僕にとっては変わることなく、魅力的な作品を生み出している作家に初めて出会うということは続いている。
著者を知ったのは当時メディカル・サスペンス作品に傾倒していた一環で、雑誌か何かの紹介だと思うが、サンケイ出版から扶桑社、その後新潮社へと移っていった作品の刊行に、不思議な思いを抱いたものだった。今回しばらくぶりに本書を読み始めた時、その後のシリーズ作品はどうなっているのだろうと、検索したらシリーズの新作が今度は講談社に移っていることを知って、またかと思いながらも驚いた。
作品の主人公と同様、自身も小児臨床心理医であるケラーマン氏の近況は知らないが、今でも医師としての活動も続けているのだろうか?

 

 

本書は今まで読んだ作品とはひと味もふた味も違う趣で、読んでいて「アレッ!?」と思わせるような展開を見せる。巻末のエッセイスト・高橋直子氏も書いているように、虐待されるような幼児も、トラウマを抱えた小児も登場せず、下巻に至るまで事件らしい事件も起こらない。
ミクロネシアの北に位置する太平洋上の小さな島アルークが舞台だ。地図にも載らないとあるが、なるほど世界地図を見て確認したがどこにもそれらしい島は見つけられなかった。
あるときアレックス・デラウェアは、この島に暮らすビル・モアランドという老医師から手紙をもらった。たまった臨床データの整理を頼みたいという依頼だった。データについてアレックスも興味を持てるだろうという内容に惹かれたアレックスは、腱炎で楽器製作を休んでいる恋人のロビンを伴って、かつて大戦中日本軍が本部を置いたという南海の孤島を訪れる。
人口3千の島の半分はアメリカ海軍の基地が占めていた。ダイビングなどで楽園とも思われる南の島の休暇を楽しむ二人だったが、ドクター・モアランドからの、ビキニ環礁における核実験のエピソードや、その昔島で起きたカニバリズムを思わせる殺人事件の話を聞くうちに、アレックスはモアランドや島の過去に秘密が隠されていることを感じるようになる。

 

 

とのタイトルは「The Web」で、インターネットでも使われているWorld Wide Web(蜘蛛の巣のように世界中に張り巡らされた通信網)のWebだ。蜘蛛の巣を意味するWebは、作中ドクター・モアランドが研究のために飼っているタランチュラなどの蜘蛛の大群にかけた複雑なストーリーの様相を示しているのだが、邦題の「パラダイスの針」の意味は、ストーリー終盤に明らかになる。
そこで初めてアレックスの登場の意味が、明かされるのだが・・・なんともいえない後味を残す作品だ。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

1064.昼なき男

2010年03月27日 | ハードボイルド
昼なき男
読 了 日 2010/3/26
著  者 島田一男
出 版 社 徳間書店
形  態 文庫
ページ数 315
発 行 日 1989/8/15
ISBN 4-19-568839-6

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

 

うだいぶ昔の話になるが、昭和32年頃に僕は春陽堂の文庫?で本書を読んでいる。
島田一男氏の著作をはじめて読んだのではないかと思っているが、講談社の日本探偵小説全集の1冊「上を見るな」とどっちが早かったかが曖昧になっている。
今おぼろげな昔の記憶を探ると、タイトルも内容も忘れてしまったが、その当時、あるいはもっと前に見た東映の映画に、何かの組織から逃げ出した男が、追っ手から逃れるために闇の中をさまよう、あるいは一度踏み入れた闇の組織から抜け出せずに苦しむ男、というようなストーリー?で、当時子供心に真剣に怖かったという思いが後々まで残り、後に本書のタイトルからその映画を連想して読もうとしたのではないかと思っている。

多分その映画の逃げる男は、徳大寺伸氏が演じていたのではないかと思うが、定かではない。他のところでも書いたが、中学から高校にかけての時代は、近くの東映専門の映画館によく通ったもので、その頃のスター俳優とは別の形で徳大寺氏も印象深い俳優だった。
著者の作品は数多く映画化されており、そのうち何本かに徳大寺氏も出演しているが、曖昧な記憶から探し出そうとしても無理だろう。大方忘れてしまった本書を今回読もうとしたのも、懐かしさ半分といったところだ。
こうなるともう、昔を懐かしむノスタル爺さんだ・・・。

 

現在のようにパソコンの技術が発達して、記憶容量の飛躍的な増大を示す手軽なUSBメモリーなどがあれば、あらゆるデータを記録しておけるから、昔を懐かしむなどということも無くなるのだろうか?
それはそれで、反面味気ないような気もするが・・・。
切れ切れの記憶をたどって懐かしむことで良いのかも知れない。

 

て、本書は戦後10年という長い期間、シベリアに抑留されていた外池洋祐という青年が主人公だ。ということだけで、かなり古い物語だということがわかるだろう。
というより、最近の若い人にはぴんと来ないかもしれない。
舞台は昭和30年代初めの東京である。しかも主人公はさらにその10年前の東京しか知らないという設定だから、僕のような年齢の者ならどちらも思い浮かべることができるだろうが・・・。
外池洋祐が抑留先から、夢にまで見た故国日本への帰国には、過酷な条件が付されていた。闇の組織に命じられる狙撃者となることだった。だが東京湾岸近くに停泊した船から、泳いで上陸した外池の前に現れたのは、彼を待つ連絡員ではなかった。暗闇で誰何された彼はとっさに拳銃を撃ってしまった。

著者の作品の魅力の一つは、テンポの速いストーリー展開と、登場人物たちの、特に女性との会話や、刑事たちの会話だ。さらには、即座に場面が頭に浮かんでくるような、映像的なダイナミックな描写である。
1958年から10年近くに及んだNHKテレビドラマ「事件記者」がその典型ともいえるが、それも今となっては大昔のことになってしまった。
暗い犯罪を扱いながらも、そこここにユーモアをちりばめた会話や、いかにもといった古手の刑事の登場とかが、読んでいて楽しさを感じるところでもある。そうなると映像を見ているような本書を読みながら、登場人物たちを誰にしようかと考える。もちろん俳優のキャスティングである。

子供の頃貧しく、物のない時代を過ごしてきたから、そうした時代に還りたいなどとは露ほども思わないのに、泣きたくなるほどの懐かしさを思い起こさせてくれる、昭和30年代初めの物語だ。
ところどころに描写されたその当時の風俗がストーリーとは無関係の思いをめぐらせる。ちょっと感傷的になりすぎたか?

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

0992.果てしなき渇き

2009年06月01日 | ハードボイルド
果てしなき渇き
読 了 日 2009/6/1
著    者 深町秋生
出 版 社 宝島社
形    態 文庫
ページ数 509
発 行 日 2007/6/26
ISBN 978-4-7966-5839-3

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

 

ーフェクト・プラン」と一緒に、復活書房で購入した文庫。第3回「このミス大賞」受賞作ということで、期待して読んだのだが、今の僕の好みからは少し外れた感じで、残念!

過去に、妻の浮気相手に対して暴力を振るったかどで、警察を追われることになり、妻の桐子に娘・加奈子の親権を奪われた末に、別れることになった、元刑事の藤島秋弘が主人公。
刑事を辞めた藤島は、何とか警備会社の仕事につくことが出来たが、まだ別れた妻に未練を感じていた。そんな藤島の許に別れた妻の桐子から「加奈子がいなくなった」という電話が入る。娘の加奈子は高校3年生。桐子が夜遅く外出から帰ると、いなくなっていたという話を聞いて、藤島は男と会っていたらしい桐子にまたもや乱暴を働く。
手掛かりを捜そうと娘の部屋を探ると、通学かばんの底から見つかったのは覚せい剤だった。警察に知らせず娘は自分で探すしかなくなった・・・。だが、学校での友達や教師などからの聞き込みを続けるうち、次第に藤島の知らない娘の実像が浮かび上がってくる。

 

 

これも一つの「幻の女」探しの変形かとも思われるが、加奈子の学校で行われていたいじめを受けた少年の独白が章ごとに現れて、最初は全く無関係と思われる様な記述が、回を追うごとに藤代の娘探しとは別に、少年と加奈子の関係が明らかになって、別の角度からの加奈子像が浮き彫りになる。
しかし、この作品の特徴は始めから終わりまで、圧倒的なボリュームで迫りくる暴力だ。冒頭でも書いたように、今の僕には受け入れがたい描写が各所にあって、途中でやめようかとも思ったが・・・。
だが、できるだけ広い範囲でのミステリーを読もうという意味からも、止めずにとにかく終りまで読んだ。
もう少し若ければ僕も多少なりとも物語りに入り込むことも出来たのだろうが、残念ながら半ば拒絶反応を覚えながらの読書は、かなりのエネルギーを必要とした。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

 


0990.臨床真理

2009年05月26日 | ハードボイルド

 

臨床真理
読 了 日 2009/5/26
著    者 柚月裕子
出 版 社 宝島社
形    態 単行本
ページ数 341
発 行 日 2009/1/24
ISBN 978-4-7966-6779-1

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

 

し前になるが、日経BP社から思いがけないボーナスをもらったので、普段は買えないような新刊の単行本や、HTML、CSSなどのwebに関連する参考書などをまとめて購入した。本書はその中の1冊だ。
何年か前に日経BP社のアンケートモニターになって、時々メールでくるアンケートの募集に答えていたら、NICOSのギフト券が送られてきたのだ。
籤運には全くといって良いほど縁のない僕だから、ちょっと驚いたが、単行本を5冊、新書を3冊、web参考書を2冊に、半分ほどをありがたく使わせていただいた。

内容を確かめもせずに、タイトルだけに惹かれて買ったのだが、前回に続いて偶然にも宝島社の「このミス大賞」受賞作が続いた。しかも、ともに女性作家の作品だ。
ということで、かなり期待を持って読み始めたのだが・・・。

 

結論から言ってしまうと、小説とはいうものの僕にとっては、気持ちの良い読後感とはいえなかった。主だったテーマが、知的障害者への性的虐待を描いたものだったからだ。
今までに何度かこのブログにも書いてきたが、僕は知的障害者の息子を持ち、彼が養護学校の高校の部を出た後、木更津市の社会福祉協議会を通して、富津市の知的障害者成人入所施設である豊岡光生園に入所させた。
障害者の子を持つ親たちが自ら立ち上げた施設で、昭和55年当時にはそれまでには見られなかった、近代的な設備や、清潔な環境は障害者の施設とは思えない楽園に思えた。施設利用者(障害者)の親たちも、働く職員たちも素人同然だったから、施設の存続、利用者の安寧のために試行錯誤を繰り返す努力をしてきた。
何かにつけて、利用者の親族たち(主として親たち)は、働く職員とのコミュニケーションをとったり、施設の環境整備等の労働奉仕をするなど、利用者である知的障害者の安全で快適な生活を守るために努力を重ねてきた。その上、二人の障害児を施設に預けている理事長が、施設に常任していたから、施設内で虐待行為が発生することなど、微塵も考えられなかった。

 

うした環境は30年を経た今でも全く同じで、というより年々良くなっているといって良いだろう。
本書は小説であり、あくまでフィクションの世界であることは承知しているが、それにしても、僕の関わる社会福祉法人の関係者にはあまり読ませたくない作品だ。
ミステリーとしては、前半が割りと興味をそそる展開で、共感覚者との関係が僅かずつ進んでいく中で、事の真相がおぼろげながら浮かんでくる様子が描かれる。だが、ストーリーが進むに連れて僕のような勘の鈍い者でも、凡その事件の黒幕が予想出来てしまうことや、終盤の主人公への性的暴力の描写はちょっといただけない感じだ。
臨床心理士の女性の活躍を描いたストーリーで、僕にとっては興味深い内容ながら、終盤でそうした興味を半減させるような表現があったことは残念だった。もう少し違う表現方法があったのではないかと思うが・・・。 一応、メディカルというカテゴリーに分類したが、ちょっと違うような気もして。。。

 


0977.サマータイム・ブルース

2009年04月10日 | ハードボイルド
サマ-タイム・ブルース
INDEMNITY ONLY
読了日 2009/04/12
著 者 サラ・ パレツキー
SARA PARETSKY
訳 者 山本やよい
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 359
発行日 1985/06/15
ISBN 4-15-075351-2

 

上の著者名をクリックすると、今まで読んだ著者の作品一覧へ移動します。

 

日読んだ、ハードボイルドの傑作といわれる「さらば愛しき女よ」の余韻が残っている うちに、昔一度読んでいる本書を読み返してみたいという気になった。
スー・グラフトン女史の「アリバイのA」と相前後して読んだ3F(いまさら解説するまでも無いが、作者 、主人公、読者と三者が女性=Female)の走りといわれる女流ハードボイルドである。当時僕は、パトリ シア・コーンウェル氏の「検屍官」シリーズを立て続けに読んだ余波で、女性作家による女性を主人公と した作品を好んで探しては読んでいた。
それが、今こうして目標を掲げて読書を続けているきっかけとなったことは、何度か書いてきたが、今年 (平成21年)11月2日で丸10年を迎え、1000冊の目標もまもなく達成できそうになってきたから、当初の 気持ちに立ち返るべく、その頃読んだものを再度読んでみようという気になったのかもしれない。

 

 

特に本書については、その後ここに初登場した私立探偵V.I.ウォーショースキーを主人公とした「私がウ ォーシャウスキー(V.I.WARSHAWSKI)」という映画も出来て、ビデオやDVDで数回見ているので、懐かしさ もある。映画そのものは、「キャスリーン・ターナー扮するとうの経ったVI(ウォーシャウスキー)」な どという口の悪い批評もあり、それほど傑作とはいえないものの、オリジナルの脚本ながら、第1作の本 書のいくつかのシチュエーションを取り入れたりして、原作の雰囲気はいくらか出ていたのではないかと 思う。
それはさておき、著者のHPに拠ればシリーズ作品は現在までに9作ほどが発表されているようだが、翻訳 が出ているのは7作くらいか?いずれ、グラフトン氏のアルファベット・シリーズと共に順を追って読も うかと思うが、何時になることやら・・。

 

 

ころで、本書は1981年に発表された作品で、江口寿史氏の表紙イラストが主人公の雰囲 気をよく捕らえているように(ちょっとスマート過ぎるような気もするが・・・)タフな女性探偵の活躍 が多くの女性読者に支持されたのも無理は無い。今でこそこのような女性を女性作家が描いた作品は、ミ ステリーに限らずわが国でも当たり前のように多く見られるようになった。歓迎すべきことだ。
元弁護士をしていたウォーショスキーは、その頃知り合った同じ弁護士仲間と結婚をしたが、蜜月は長く 続かず、1年半ほどで解消している。空手の特技を持つとは言いながら、女性の体では屈強な男たちを手 玉に取るというわけにも行かず、悪玉たちに痛めつけられる場面もあるが、女性ながらタフなところを見 せて弱音をはかないところも、女性読者のカタルシスを満足させたのだろうか?
タイトル(原題)が暗示するように、保険金詐取に関わる話を中心に、ウォーショスキーの敵と味方とい う割とはっきりとした構図を見せて、展開するストーリーはわかりやすく、少女との交流や、彼女を支持 する女性医師などの協力を得ながら勧善懲悪の大団円を迎えるさまは、単調の嫌いは多少あるものの、爽 快な読後感をもたらす。

 

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村