果たしてどうなる、「下工弁慶号」。

三岐鉄道北勢線阿下喜駅で月一回、走行している「下工弁慶号」。
この「下工弁慶号」を巡って、「北勢線とまち育みを考える会」と「北勢線対策推進協議会」の間で対立が続いていることは既報のとおり。

このまま対立が続く中、どうなるのだろうと思っていた矢先、「下工弁慶号」を巡る情勢に触れた記事を見つけた。

「ＳＬレンタル契約の終了期限迫る　三岐鉄道北勢線阿下喜駅」(中日新聞、2/16)

いつも通り要点を整理してみる。
○「北勢線とまち育みを考える会(以下「考える会」)」は、「北勢線対策推進協議会(以下「協議会」)」から「下工弁慶号」の管理委託契約を解除されている。
○しかし、協議会から管理委託契約を解除された後も、毎月1回、火入れ走行を続けている。
○協議会と「下工弁慶号」の所有者である山口県下松市とのレンタル契約は今年3月末に迫ったが、考える会と協議会との主張は平行線のまま。返還のめどは立っていない。
○考える会の主張は次のとおり。
・協議会側は現場を見に来たこともない。
・火入れ運転は強行ではなく、契約を解除された後も取りに来ないSLを代わりに管理しているだけ。
・SLを渡さないとは言っていない。ただし、その場合は運搬費や修理代、保管費は有償になるため話し合いが必要。
なお、契約上はこれらの経費は「考える会」の負担となっていた模様。
○協議会の主張は次のとおり。
・契約解除は協議会での決定事項。早期返還を求める。
・返還方法についても幹事会の場で詳細を決めることは可能であり、考える会との協議は必要ないとする。

本当に議論が平行線にあり、交わる気配もないことがよくわかる。
信頼関係も感じられない。
ただ、一歩引いた目で見ると管理委託契約を解除されている「下工弁慶号」を「代わりに管理しているだけ」という考える会の主張が世間に通じるとはちょっと考えにくいのではないか、と思う。
協議会の方も協議会で、幹事会の場で詳細を決めることが可能であれば、早く方針を定めて事態を収束させようとはしないのだろうか。
それをしないのは何故だろうか、ここまで事態がこじれきってしまった以上、一方の当事者として、「下工弁慶号」の借り主としての説明責任はあるのではなかろうかと思う。

「下工弁慶号」は「協議会」が本来の所有者である山口県下松市から今年3月までの期限で借りている。
考える会が「下工弁慶号」の動態保存に拘る理由の一つに「自分たちの手で動くようになった100年前の機関車を、貴重な文化遺産として動く状態で下松市に返したい」というものがある。
しかし、当の下松市は「有資格者がいないため動態保存は考えていない」としており、こちらでも意思の齟齬が見られる。

いずれにしても、「下工弁慶号」の返還について協議会の2007年度予算で必要経費が計上されている。
最終的には下松市の意向が大きくなってくるが、同市の意向は「契約更新は考えていない」とのこと。
貸し出した側にしてみれば、市の財産が不安定な状況にあることを放置することを許容する訳がない。
そう考えると、3月が阿下喜駅で見られる「動く下工弁慶号」の最後の機会になるのかもしれない。

ただ、今後の禍根として残るのは、鉄道車両の保存を考えた市民団体と行政・鉄道事業者の関係。
今回の事例でも当初はお互いが協力する良好な形で始まっているが、現状は対立した挙句に信頼関係も失せてしまっている。
今回の事例は後に残るだけに、全国各地で地域おこし、沿線振興策の一環として保存車両の活用を考える人々と行政との関係に影響が及ばなければ良いが、と思う。