森岡 周のブログ

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図書館だよりのフライング

2014年02月28日 12時30分15秒 | 日記
大学図書館から以下のテーマで依頼がきて、ずっと放置してました。悩みに悩み、これにしました。

大切な私の1冊 「心理学(上)」「心理学(下)」

健康科学部 理学療法学科 教授 森岡  周

 「大切な私の1冊」というテーマは厄介だ。依頼を受けた時、そう思ったのが率直なところである。だから、短文でありながらも締切日まで書くことができなかった。というのは、私の志向性に影響を与えた本は数多い。ギブソン、バレラ、ジェームズ、フッサール、メルロー=ポンティ、ピアジェ、ヴィゴツキー、ルリア、サックス、佐伯胖等々、ここには挙げきれない。その中で最終的にこの本に決断した(決断された)。
 私の研究は代謝、生体力学、知覚、そして脳とこころと、これまでその移り気な性格から変遷してきた。内蔵や力学を対象としていた頃は、現象は全て数値で示すべきと豪語していた。しかし、ある身体現象を眼前にした時、私は還元的な数値にはかられない世界観に心奪われたのである。だから、知覚を対象に研究しようと決断し、現象学、心理学を中心に手当たり次第に本や論文を読んだりした。しかし、それまでの価値観の自分にとっては曖昧かつ難解で悶々とする日々をすごしていた。その迷走中の自分にレールを敷いたのが、このウィリアム・ジェームズの「心理学」である。
 彼は「生理学と心理学・哲学の間の最初の思想家」と称されるように、この本は感覚、神経、意識、自我、注意、概念、弁別、記憶、想像、知覚、推理、情動、本能、意志等、驚くべきことに現代の学際的な脳科学の方向性を暗示していたような目次に分かれている。こう考えれば、この本に出会ったことが今の自分の脳-身体-環境をシステムで捉えるといった志向性、そして脳科学とリハビリテーション・教育の間の自己意識を生み出したのではないかと、この原稿を書きながら思う次第である。






大切な私の一冊
「心理学(上)」「心理学(下)」
W・ジェームズ著(今田 寛訳)
岩波文庫,1992




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