森岡 周のブログ

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若田君、無事に発表終了!

2014年03月03日 20時19分59秒 | 日記
本日は、本学大学院の博士後期課程の若田哲史君の博士学位論文に関する研究の公開発表会と審査会が行われました。私は彼の指導教員ですので、主査や副査などにはなれずですが、彼の発表(成長した姿)を見させてもらいました。

彼の学位論文のタイトルは「Brain activity and the perception of self-agency while viewing a video of tool manipulation: an fNIRS study」です。この研究で新規に明らかになった点は、道具の機能部の動きの映像を自己の上肢の延長上に提示し、それを観察した場合、映像の観察のみで運動主体感が生じることが明らかになったこと、そして、NIRSにて様々な分析(トレンド除去、標準化、effect size、NIRS-SPM、条件内比較、条件間比較、相関分析)を試み、その結果として、道具の機能部の動きを観察した際に生じる運動主体感の責任領域は右下前頭回であることです。

元来、道具操作に関連する神経活動は、自己の運動実行、他者の運動観察に問わず左半球優位でしたが、道具の動き観察による自己の運動錯覚の惹起には、身体知覚を司る右の下前頭回が責任領域であることが、今回の研究で新たにわかりました。この知見は、今後いくつかの研究上の問題をクリアすることによって、道具機能部の観察により、運動主体感を任意的に起こすことで、道具操作、運動意図、身体知覚に障害を持つ高次脳機能障害患者に対する治療への応用が期待できます。

若田君は修士課程からNIRS研究を継続し、修士・博士課程の計5年間で無事に修了?することが可能なようです。明日の大学院委員会をまたないといけませんが、まずは臨床を続けながらも、空いた時間に大学の脳機能実験室にきて、基礎研究を続けた彼のその自己意識に敬意を表します。臨床ベースでない基礎研究データをよく分析し、その成果をそれなりの学術雑誌に掲載させたことは、今後の彼の研究人生の道しるべをつくる経験になったことでしょう。修士課程から一貫して、本日まで彼を叱咤激励、いや叱責し続けました。机を叩いたり、椅子を蹴飛ばしたり、と私も感情をぶつけ、彼と向き合ってきました。最終的には、博士・学者の責任を感じることができたのではないでしょうか。関係してくれているすべての人々を肩にのせるという責任の意識が必要です。

いずれにしても、「All's Well That Ends Well」少し休んで、次の研究を早速スタートしてください。「Ending is Beginning」です。

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