森岡 周のブログ

脳の講座や講演スケジュールなど・・・

日記:それなりに進行

2011年05月26日 00時46分33秒 | 日記
昨年度終了の科研費研究の実績報告書,そして今年度新規の科研費研究の交付申請書と支払請求書を完成させ,
総務部の担当者に手渡しました.
終了と新規があるとごちゃごちゃになります.
今年度は特に新規内定が遅れた関係で一緒の時期になりました.
残るは成果報告書です.
可及的速やかに書かないといけません.
宮崎で行うことにします.

宮崎でのオープニングセミナーの講演資料がほぼ完成しました.
同時に理学療法学掲載原稿も.
珍しく遅延せずに原稿が仕上がりました.
これもさまざまな書籍の学会後の原稿締め切りに対応するためです.

宮崎ではほとんどが運動学習の脳内機構について話しますが,
後半15分ほど機能回復について話します.

理学療法学に提出する原稿の最後の見出しのみ,
先行でブログに載せたいと思います.

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一次運動野の機能解剖に基づく運動機能回復手続き
一次運動野は吻側部(rostral)と尾側部(caudal)に分けられるが,吻側部は系統発生的に古く,Old M1あるいは4a野と称されている(以下4a).一方,尾側部は高度な霊長類,特にヒトで発達させた領域でありNew M1あるいは4p野と称される(以下4p).4aは運動実行の性質が強く,その出力は皮質脊髄路や脊髄介在細胞を経由して行う.一方,4pは脊髄運動神経細胞上に直接シナプス結合するものであり,高度にスキル化された運動に関係し,単なる出力系ではなく,知覚を含めた複雑な運動に関与することが報告されている13).最近になって,損傷側4pの活動の大きさおよび損傷後の活動変化と運動機能回復に正の相関がみられることが明らかになり,皮質下脳卒中の4pの活動は,対象者の運動機能を予測する手段として注目されている14).この際,4pの活動を調べる際に用いられた手段が運動イメージの想起であった.すなわち,運動イメージ想起に伴い4pの活性化が起こる脳卒中患者は運動機能回復が起こりやすいことを言及している.
4aは筋・関節の固有感覚の入力を豊富に受けるが,4pは皮膚感覚の入力を豊富に受ける15).特に4pは手指の神経細胞が豊富である.手指は道具に接触し巧緻的に把持し操作するために大事な身体であるが,脳卒中後の手の機能回復が乏しい理由として,手指が道具に接触し,それを能動的に知覚する機会が極めて少ないといった環境要因があるのではないかと推論立てることが可能である.またここ最近,脳卒中後の4pの組織化に伴う運動機能回復に影響を与える要因として1)麻痺側への体性感覚フィードバック,2)運動イメージや運動観察に伴う運動予測型の脳活動, 3)運動発現における皮質脊髄路経由の発火の3つが挙げられたが,3)が有効になるためには,1)と2)の神経ネットワークの組み合わせが必要であることが示された16).すなわち,運動実行に先立ち,麻痺側での感覚情報処理,そして運動イメージを伴うシミュレーション過程が臨床に含まれなければならないことを示唆している.これを先の成果と併せて考察すると,脳卒中後の手の機能回復を促進するためには,手指の能動的な触知覚課題,そして道具を接触し操作するといったイメージ課題を併せて臨床導入することが4pの興奮性を高める手続きになるのかもしれない.脳卒中後の上肢機能回復の一つの挑戦はこのような臨床仮説から生まれるであろう.


13) Rathelot JA, Strick PL: Subdivisions of primary motor cortex based on cortico-motoneuronal cells. Proc Natl Acad Sci U S A 106: 918-923, 2009
14) Sharma N, Simmons LH, et al: Motor imagery after subcortical stroke: a functional magnetic resonance imaging study. Stroke 40: 1315-1324, 2009
15) Strick PL, Preston JB: Multiple representation in the primate motor cortex. Brain Res 154: 366-370, 1978
16) Sharma N, Cohen LG: Recovery of motor function after stroke. Dev Psychobiol. 2010 Nov 17. [Epub ahead of print]