なんと、ローマ軍が「最も恐れた兵器」をつくった天才は、人類史上「最も偉大な発明」もつくった…!その原理と発想が現代的すぎる…
8/30(金) 6:00配信
現代ビジネス
あの時代になぜそんな技術が!?
ピラミッドやストーンヘンジに兵馬俑、三内丸山遺跡や五重塔に隠された、現代人もびっくりの「驚異のウルトラテクノロジー」はなぜ、どのように可能だったのか?
【画像】「紀元前1世紀の沈没船」にコンピュータが積まれていた…!天体を測る精巧さ
現代のハイテクを知り尽くす実験物理学者・志村史夫さんによる、ブルーバックスを代表するロング&ベストセラー「現代科学で読み解く技術史ミステリー」シリーズの最新刊、『古代日本の超技術〈新装改訂版〉』と『古代世界の超技術〈改訂新版〉』が同時刊行されました。
それを記念して、残念ながら新刊には収録できなかったエピソードを短期集中連載でお届けします。第4回のテーマは「アルキメデスの爪」。この連載の第1回で登場を予告した「ローマ軍が最も恐れた兵器」の正体とは?
紀元前1世紀に「クレーン」があった!
ウィトゥルウィウスが記述した「二股クレーン」
梃子(てこ)、滑車、クレーンが古代エジプトのピラミッド建造に用いられたであろうことは、このほど刊行した『古代世界の超技術〈改訂新版〉』で述べた。
これらについての記述は、ローマの建築家・ウィトゥルウィウスの紀元前1世紀の著作や、紀元1世紀頃にアレクサンドリアで数学者・技術家として活躍したヘロン(生没年不詳)の著作『メカニカ(機械学)』に見られる。
ウィトゥルウィウスが記述したクレーンは、次の図に示すような「二股クレーン」で、現在でもこれとまったく同じ型のものが石材業者によって一般的に使われている。
一方のヘロンは、『メカニカ』のほかに、『プネウマティカ(圧力機構)』『メトリカ(測量学)』『ジオメトリカ(幾何学)』など多数の著作を遺しており、アルキメデスに匹敵する科学者、技術者である。
ローマ軍が最も恐れた兵器
アルキメデスの爪
梃子、クレーン、滑車の働きを熟知していたアルキメデスがつくった大型兵器に、“アルキメデスの爪”とよばれるものがある。
ローマ軍が、シラクサを要塞化していたアルキメデスのさまざまな兵器の中で最も恐れたのが、この“アルキメデスの爪”だった。
接近する船を爪に引っかけて、持ち上げて転覆させたり、滑車に張っていたロープを突然放して船を水面に叩きつけて破壊する兵器である。引っ張る力は「動滑車」の働きで軽減され、持ち上げられる船の重さ自体が「アルキメデスの浮力の原理」によって軽くなるという優れものである。
アルキメデス自身は、自らの兵器について書き遺していないが、ローマの歴史家・プルタルコスに次のような記述がある。
内側にある大型機械は、船を引っ張り、ぐるぐる巻き上げ、壁の下に突き出た険しい岩場にたたきつけた。乗船していた多数の兵士が死亡した。多くの船は、空中に相当高くまで持ち上げられ──見るも恐ろしい光景だ──大型機械は、乗組員がすべて投げ出されるまで、あちこちに転がし、揺さぶり続けた。最後は、船を岩場に落とし、たたきつけた。
(P・ジェームズ、N・ソープ著、矢島文夫監訳 『事典 古代の発明』東洋書林、2005年)
現代ではもちろん、図に示したような“アルキメデスの爪”が兵器として使われることはないが、高層ビルの建築現場や港湾の荷役現場で多用されている大型クレーンの基本的構造はアルキメデス時代とまったく同じである。
動力源が、人と家畜からモーターに変わっただけである。
人類史上「最も偉大な発明」
人類は古来、さまざまなものを発明してきたが、私が最も偉大な発明と思うものが「歯車」と「ネジ」である。
きわめて簡単な構造でありながら、その応用範囲と有用性が多大なものはネジと歯車をおいて他にあるまい。ネジが、自然界に存在するさまざまな螺旋構造、たとえば巻き貝をヒントにして発明されたものであることは間違いない。
このネジの発明者が誰であるかについては諸説あるが、有力な候補として登場するのがアルキメデスである。ネジ、つまり螺旋構造を応用したものの1つが、以下に述べる「螺旋型ポンプ」である。
この螺旋型ポンプは“アルキメディアン・スクリュー”とよばれているので、その発明者はアルキメデスと考えるのが一般的である。アルキメデスの数学分野の研究テーマの1つに螺旋があるので、アルキメデスがネジ、さらには螺旋型ポンプの発明者であることには説得力がある。
佐渡金山でも使われた
螺旋型ポンプ(アルキメディアン・スクリュー)
螺旋型ポンプ(アルキメディアン・スクリュー)の概略を図に示す。
円筒の中の螺旋状に取りつけられたブレードをもつ軸を回転させると、ブレード上に取り込まれた水が順次、下から上へ運ばれるしくみになっている。
ブレードは、ヤナギかキヌヤナギを平らな帯板状にし、耐水性を上げるために松ヤニを塗って、回転軸のまわりに斜めに巻きつけられた。回転軸の外側には円筒状の踏み車が取りつけられ、人間がこの上に乗って両足で回転させた。
ポンペイの壁画に、一人の奴隷が墓地門のような小さな建物の陰に立って、踏み車を両足で回転させているようすが描かれているそうである。また、螺旋状のブレードがついた回転軸は、水車や風車と連動させて回転させたことも考えられる。
この螺旋型ポンプはもともと、ナイル川の灌漑(かんがい)用につくられたが、さまざまな大きさのものがさまざまな分野で使われた。江戸時代、日本の佐渡金山で、同様のしくみの揚水ポンプが使われたという記録もある。
この螺旋状ブレードの回転原理は、現在ではモーターなどを動力源として、真空ポンプやコンプレッサーなどのさまざまな装置に応用されている。
また、“アルキメディアン・スクリュー”が運ぶ物質は水のような粘性が小さい液体のみならず、他の形式のポンプでは困難な粒状の穀物や小さな固形物が混在した泥状の液体、あるいはゲルのような物質の運搬に不可欠な手段になっている。
古代日本の超技術〈新装改訂版〉 古代世界の超技術〈改訂新版〉
志村 史夫(ノースカロライナ州立大学終身教授(Tenured Professor))