HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

セオリーは通用しない。

2020-11-04 06:35:02 | Weblog
 2015年にバーバリーとのライセンス契約が終了した三陽商会。その後継ブランドの筆頭に位置付けられたのが「クレストブリッジ」だ。このレディスとメンズを複合した旗艦店「ブルーレーベル/ブラックレーベル・クレストブリッジ 原宿本店」がさる10月24日、東京・神宮前にオープンした。

 同社は、国内販売向けにライセンス契約した「マッキントッシュ・ロンドン」も、基幹ブランドにしようとした。しかし、セレクトショップがすでに「本家」のマッキントッシュを販売して顧客化していた。二番煎じで安易なライセンスなど見向きもされるはずはなく、抜本的な戦略を打ち出せないまま時間だけが過ぎていった。

 今年1月1日に就任した大江伸治社長は、百貨店に展開する150もの不採算店をリストラ。しかし、前社長時代からのツケが響いて20年2月期決算は26億8500万円の赤字と、当初の計画を大幅に下回った。インショップは未だ900店ほどあり、売上げの6割以上を百貨店に頼っていては、業績不振からの脱却も程遠い。営業戦略の見直しは待った無しで、20~30代の男女をターゲットにするクレストブリッジは、その試金石になる。

 基幹ブランドに育て上げる上では旗艦店出店を強化する一方、前期決算で25%以上の伸びを示したECと実店舗をシンクロさせるOMO(Online Merges with Offline)にも取り組む考えのようだ。ただ、EC売上げが伸びているとは言え、またまだ全体の13%弱に過ぎない。基幹ブランドの若返りは販売手法の進化と相まって売上げ伸長に繋がるのか。クレストブリッジでは何としてもそれを成し遂げなければならない。




 では、旗艦店舗の概要を見てみよう。原宿本店では「ショールーミング機能」を導入し、公式オンラインストアの限定商品の試着や購入を可能にした。店舗の過剰在庫を抑制し、注文品は店舗引き当てせずに物流センターから配送するなど、物流改革の一端も垣間見える。場所はこの夏までCAST:渋谷店が入居していたビルの1階。明治通りとキャットストリートに挟まれた路地奥だが、若者を中心に通行客は多い。ショールーミングには最適な立地と言える。

 また、オンライン接客向けの接客特化型ライブコマース「ライブトルッテ」を採用し、配信者と視聴者が双方向でコミュニケーションできるようにした。ライブトルッテでは販売スタッフ1名に対して視聴者1名が対話できるほか、視聴者が複数になる場合やスタッフへの質問も可能だ。商品購入の検討できるというから通常の接客と遜色のないレベルだ。

 以前に三越伊勢丹HDのライブコマースを取り上げたが、こちらは販売スタッフが一方的に商品提案するもので、「デジタルのインタラクティブ機能を十分に活用できていない」と書いた。ライブコマースを採用するなら、リアルな接客と同等にお客が実店舗にいるような臨場感、買い物できるワクワク感を呼び起こすことが肝心だ。その意味では三陽商会は百貨店を一歩リードしたと言えるが、すでにそれが当たり前ということである。

 旗艦店を出店した。商品の見せ方を変えた。販売方法や物流を一新した。ここまでは計画通りに進んでいるが、それが確実に収益に繋がる保証はない。激変する業界環境では、セオリー通りには行かない。おそらく大江社長にはマッキントッシュ・ロンドンがコケたことから、「クレストブリッジは何としても基幹ブランドに育て上げる」との強い生命感があるはずだ。しかし、客観的に見て、現状のクレストブリッジがそうした要素を持っているかである。

 まず、ブランドのアイコンとでも言うべき、「チェック柄」。これは誰の目からもバーバリーの威光を残しているようにしか見えない。チェック柄自体はよく言えば伝統的で定番なものだが、悪く言えば陳腐化して目新しさは感じない。柄の配色が単純だから、他国のメーカーに真似される可能性もある。第一、ターゲットに設定した20~30代の男女がそんなアイコンに気安く飛びつくとは思えないのだ。

 バーバリーはあくまでバーバリーだから、価値がある。ライセンスのセカンドラインが安室奈美恵の着用で一時的にヒットしたが、それはブランド自体が評価されたわけではないだろう。移り気な安室世代を顧客化できるはずもなく、二匹目の泥鰌を捕まえる前にライセンス契約は終了した。ただ、クレストブリッジにしても、いまだにバーバリーの威光に頼ろうとするところに、ライセンスで生きてきた三陽商会の悲しい性を感じてしまう。


ルイ・ヴィトンの戦略にヒントがある

 では、クレストブリッジを基幹ブランドに育てるには、何が必要か。それにはルイ・ヴィトンの戦略が参考になるのではないか。同ブランドは家紋からヒントを得たモノグラムの柄に安住するだけでなく、ダミエやエピなどのシリーズを次々と発表。それらは模倣品対策でもあったが、鼬ごっこを繰り返す中で商品開発の強い意志がブランドを強固にした。企業としては他ブランドの買収を進めてコングロマリット化し、プレタポルテや時計にも進出を成し遂げた。

 一方、プレタポルテでは、米国系デザイナーの起用にも怯むことはなかった。彼らはヨーロッパ人とは違い、クリエイティビティと同時にマーケティングの能力にも長けている。「どんな商品をデザインすれば、売れるのか」を念頭にモノ作りに徹する。そうした発想力がブランドのグローバル戦略の進めるベルナール・アルノー会長のお眼鏡にも叶ったのである。

 プレタポルテのディレクターを務めたマーク・ジェイコブスが、アイコンであるモノグラム柄を服のデザインにも用いたかと言えば、そんなことはない。付属品などごく目立たない部分に使っただけだ。もし、あの柄をテキスタイルに用いれば、逆に発想力の欠片もないとファッションジャーナリストからこき下ろされたかもしれない。

 むしろ、マーク・ジェイコブスはルイ・ヴィトンのプレステージ性に合致した上質な素材を使い、クオリティ追求の高級既製服を作り上げた。まあ、かつての日本人なら派手なロゴマークは好きだったし、最近はそれがバブリーな中国人にとって替わり、欧米ブランドの中にはそれを推し進めているところもある。しかし、ファッションマーケットが成熟した日本では、そんなアイコンのブランドを求めるのは限りなく少数派となっている。




 バーバリーの威光を完全に消し去ることはできないにしても、クレストブリッジはチェック柄はギリギリまでセーブして、完全オリジナルのブランディングを進めていくことだ。業界ではチェック柄を使用するためにバーバリーに一部ライセンス料を支払っているとの話もある。しかし、そうしたコストが価格に跳ね返って肝心な原価率を下げているのでは、モノ作りもブランディングもあったものではない。

 三陽商会は他のブランドを見てもそうだ。例えば、マッキントッシュ・フィロソフィーなんかも、素資材の原価率を下げてブランドで売ろうというのが却って仇になっていると感じる。つまり、売上げ不振は、ライセンスビジネスに頼り切ってきた企業体質を引きずり、肝心なモノ作りを蔑ろにしてきたことが成熟した消費者に見透かされた結果なのだ。まあ、その背後には親会社に君臨する商社の思惑も見え隠れするのだが。

 クレストブリッジを基幹ブランドに育て上げるには、一にも二にも企業体質の改善の上に立った従来とは違うモノ作りで臨まなければならない。その意味で、ルイ・ヴィトンを参考にするなら、素資材から服に仕上げるまで自社工場・自社生産管理を徹底することが必要になる。メーカーとしてそうした生産背景はなくはないと思うのだが、そこまでの覚悟を持ってクレストブリッジに賭けているのかが問われるところだ。

 もっとも、数年前から続くリストラで、企画から生産に携わる人材が三陽商会を去っていった事実は否定できない。クレストブリッジを生かすも殺すも、人材次第ということ。新たに登用するにも、これまで売上げが伸びないと企画部門にその責任を負わせる経営陣の保身根性を改めなければ、デザイナーが真摯にモノ作りに取り組める社風は醸成できない。大江社長には企業再建と同時にそうした改革も求められるのである。

 もちろん、価格帯やターゲット設定はこれでいいのか。中途半端に高額な商品を今の20代〜30代の男女が求めるかといえば、否だ。ターゲット設定はあくまで目安という位置づけなら、クレストブリッジがトラッドでややコンテンポラリーなテイストを持てば、40代以上を補足できないことはない。百貨店系のブランドが陳腐化していることもあり、それに代わるオリジナリティのあるブランドを求めている顧客もいるからだ。
 クレストブリッジがそうした客層の受け皿になれるのか。買い物がリアル店舗からECに移行する中で、集客力をもつ原宿にある旗艦店の役割は何より重要になる。とにかくモノ作りと売り方をより熟考すること。これがクレストブリッジ成否のカギを握る。

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