11月3日付けの繊研新聞電子版に「東京ブランドが桐生のコンバーターと組み新ビジネス」という記事が掲載された。 デザイナーの若山雅紀氏が展開する「モヴェズエルヴ」が群馬県の桐生産地のテキスタイルコンバーター、C of H(シー・オブ・エイチ)と組んで、小ロットにも対応する別注のジャカードアイテムを供給するものだ。
生地は経糸2色展開でセットし、緯糸を数十通り変えて織り上げている。それをモヴェズエルヴとその取引先が選んでアイテムに使い、小ロットでのオーダーを実現させるもの。17~18年秋冬は、色別で14種類の織物を用意し、そこからモヴェズエルヴが2種類を選び、コート2型、スカート1型で企画したという。
また、取引先はこの2種の織物でオーダーする以外に、残る12種類の生地でコートやスカートを注文することも可能というから、生地別注という形にもとれるわけだ。
デザイナーとテキスタイルコンバーターの協業は、過去にも何度も行われているので特段珍しいことではない。ただ、ビジネスとして収益を上げるところまで持って行くのがたいへんなのだ。特に協力を願う機屋さんや縫製工場はロットが増えないのでは、あまり乗る気にはならない。デザイナーとコンバーターの熱意がどこまで伝わるかが、こうした企画の勝負どころになる。
今回、デザイナー側は「店頭に同じものばかりが並ぶのはどうか」「オリジナル生地で別注すれば、そのショップしかないものができる」「他にないものを作るには、生地から作らないと」と、企画の背景にある作り手の思いをストレートに語っている。
本来、デザイナーは自分のクリエーションを徹底して追求するなら、生地からオリジナル発注することになる。今回はコンバーターと協業して生地からオリジナルで作り、取引先に別注してもらうというくらいだから、多くの若手デザイナーは「有りモノ」の生地から選ばざるを得ないのである。売上げが最低数億円クラスのデザイナーズブランドでなければ生地発注はない、というか出来ないのが現実なのだ。
もっとも、デザイナー側の言い分に対し、ショップ側の反応はどうだったのか。店頭に同じものばかりを並べることに後ろめたさを感じているのか。それともそうでもないのか。大手はオリジナル化を進め、売れ筋を追求して販売効率を高めようと躍起なので、同じものを並べることにそれほど抵抗は感じていないと思う。
一方、個店のセレクトショップは、どうなのか。デザイナーが言う「店頭に同じものばかりが並ぶのはどうか」「オリジナル生地で別注すれば、そのショップしかないものができる」に、共感するバイヤーは少なからずいると思う。反面、「そうは言っても、先に別注のジャカードありきでは、う〜ん」と、二の足を踏むのが正直なところではないだろうか。
別注に理解があるバイヤーなら、生地から製造するのは決して否定はしないだろう。でも、バイヤーは先に生地提案があると、でき上がるアイテムのイメージを想像するだろうから、諸手を上げて「ゴー」サインを出すというわけにはいかないと思う。バイヤーとて、別注で仕掛けるなら自ら生地を指定して、「この生地でこのデザインのアイテムを作って」という方が圧倒的に多いからだ。
記事では「秋冬はベイブルックが別注1色をオーダーした」と書かれていただけで、他店の動向はよくわからない。それにしても、熊本のセレクトショップ「ベイブルック」がこの企画に乗ったという点は、どうしても注目してしまう。同社は筆者が住む福岡にもいくつも店舗を展開しているからだ。
おそらく今も変わってはいないと思うが、同社は店舗ごとに販売するスタッフが商品の仕入れにも携わっている。そうすることで、同じ業態でも品揃えに変化を付けているのだ。ただ、メーカー仕入れである以上、同じ商品が競合店を含め、他店に並ぶことは避けられない。デザイナーが言う「そのショップにしかないもの」というか、自分たちが提案したいというアイテムは、常に仕入れに携わるスタッフも意識していると思う。
同社はいろんな業態を展開してはいるものの、基幹店の「ベイブルック」ですら熊本1店、福岡3店(うち1店はアウトレット)、小倉2店、長崎1店しかない。他の業態は郊外SC展開のビンゴを除き、ほとんどが1店舗、ないし2店舗展開だ。
モヴェズエルヴが提示した別注をこなす最低の数量は、1色当たり30メートル。これを反つぶしにするとすれば、コートなら10枚以上、スカートでも20枚以上できあがる計算になる。1点もので勝負するセレクトショップとして、個性的な商品を並べるで店頭に変化を付けることはできるが、別注は店舗数で按分したとしても、在庫負担になる。
これを消化していかなければならないのだから、決して楽ではないだろう。それでも店仕入れをやってきたベイブルックだし、顧客とのコミュニケーションの中で、「ジャカードのアイテムもお客さんは惹き付けられる」かもと、敢て勝負に出た点は流石だ。ぜひとも売り切って、生地別注の牽引役を果たしてほしい。
組織に変化がある生地、打ち込みがしっかりしてこしがある生地、織り方で微妙な色合いを出す生地、等々。デザイナーとテキスタイルメーカーがアイデアをしぼり、コストをかけて織った生地から生まれるアイテムを着て来た層からすれば、今のマーケットに出回っている商品は、無地でフラットな生地ばかりで面白くないと思う。
昨年、日経ビジネスが特集した「誰がアパレルを殺すか」の派生特集でも、「男性用のスーツなら、一昔前は上代(小売価格)の15%が生地代でした。今では大体5%程度に下がっています。だから、おもちゃのような品質の商品になってしまう」と、ワールドで総合企画部長などを務め、コンサルタントとなった北村禎宏氏は語っている。
おもちゃとはまでは行かなくても、今のマーケットに流通しているアイテムの生地のレベルが原価率の圧縮から、総じて低下しているのは紛れもない事実だ。そう感じるお客が意識が高いかどうかは別にして、筆者が服を買わなくなったのはやはり生地企画の劣化、質の低下は要因の一つにあるし、同じような気持ちの人は少なくないと思う。
確かに「50代以上のおっさんたちは生地に対する思いが異常」「カジュアルな服は安くて当たり前」「モードという理屈で価格を吊り上げている」というご意見がネットではPVを稼いでいるのだから、賛同者は多いのかもしれない。
ただ、リアルな店頭、個店のセレクトショップは、本当にブランド側、コンバーター側からの生地提案を待っているのか。それとも自ら探して別注企画にも乗り出しているのか。その辺を掘り下げて、業界低迷の理由に生地があるのかどうかも、もっと考えていかなくてはならないはずだ。業界メディアは企画生産者側だけでなく、アイテムを売る側が考える生地別注のあり方にもスポットを当てる必要はあると思う。
「こんな生地のアイテムはないの」「昔、着ていたあの生地がまた着てみたい」って、濃密な会話は今も世界中のセレクトショップの店頭では交わされているいるはずだから。
生地は経糸2色展開でセットし、緯糸を数十通り変えて織り上げている。それをモヴェズエルヴとその取引先が選んでアイテムに使い、小ロットでのオーダーを実現させるもの。17~18年秋冬は、色別で14種類の織物を用意し、そこからモヴェズエルヴが2種類を選び、コート2型、スカート1型で企画したという。
また、取引先はこの2種の織物でオーダーする以外に、残る12種類の生地でコートやスカートを注文することも可能というから、生地別注という形にもとれるわけだ。
デザイナーとテキスタイルコンバーターの協業は、過去にも何度も行われているので特段珍しいことではない。ただ、ビジネスとして収益を上げるところまで持って行くのがたいへんなのだ。特に協力を願う機屋さんや縫製工場はロットが増えないのでは、あまり乗る気にはならない。デザイナーとコンバーターの熱意がどこまで伝わるかが、こうした企画の勝負どころになる。
今回、デザイナー側は「店頭に同じものばかりが並ぶのはどうか」「オリジナル生地で別注すれば、そのショップしかないものができる」「他にないものを作るには、生地から作らないと」と、企画の背景にある作り手の思いをストレートに語っている。
本来、デザイナーは自分のクリエーションを徹底して追求するなら、生地からオリジナル発注することになる。今回はコンバーターと協業して生地からオリジナルで作り、取引先に別注してもらうというくらいだから、多くの若手デザイナーは「有りモノ」の生地から選ばざるを得ないのである。売上げが最低数億円クラスのデザイナーズブランドでなければ生地発注はない、というか出来ないのが現実なのだ。
もっとも、デザイナー側の言い分に対し、ショップ側の反応はどうだったのか。店頭に同じものばかりを並べることに後ろめたさを感じているのか。それともそうでもないのか。大手はオリジナル化を進め、売れ筋を追求して販売効率を高めようと躍起なので、同じものを並べることにそれほど抵抗は感じていないと思う。
一方、個店のセレクトショップは、どうなのか。デザイナーが言う「店頭に同じものばかりが並ぶのはどうか」「オリジナル生地で別注すれば、そのショップしかないものができる」に、共感するバイヤーは少なからずいると思う。反面、「そうは言っても、先に別注のジャカードありきでは、う〜ん」と、二の足を踏むのが正直なところではないだろうか。
別注に理解があるバイヤーなら、生地から製造するのは決して否定はしないだろう。でも、バイヤーは先に生地提案があると、でき上がるアイテムのイメージを想像するだろうから、諸手を上げて「ゴー」サインを出すというわけにはいかないと思う。バイヤーとて、別注で仕掛けるなら自ら生地を指定して、「この生地でこのデザインのアイテムを作って」という方が圧倒的に多いからだ。
記事では「秋冬はベイブルックが別注1色をオーダーした」と書かれていただけで、他店の動向はよくわからない。それにしても、熊本のセレクトショップ「ベイブルック」がこの企画に乗ったという点は、どうしても注目してしまう。同社は筆者が住む福岡にもいくつも店舗を展開しているからだ。
おそらく今も変わってはいないと思うが、同社は店舗ごとに販売するスタッフが商品の仕入れにも携わっている。そうすることで、同じ業態でも品揃えに変化を付けているのだ。ただ、メーカー仕入れである以上、同じ商品が競合店を含め、他店に並ぶことは避けられない。デザイナーが言う「そのショップにしかないもの」というか、自分たちが提案したいというアイテムは、常に仕入れに携わるスタッフも意識していると思う。
同社はいろんな業態を展開してはいるものの、基幹店の「ベイブルック」ですら熊本1店、福岡3店(うち1店はアウトレット)、小倉2店、長崎1店しかない。他の業態は郊外SC展開のビンゴを除き、ほとんどが1店舗、ないし2店舗展開だ。
モヴェズエルヴが提示した別注をこなす最低の数量は、1色当たり30メートル。これを反つぶしにするとすれば、コートなら10枚以上、スカートでも20枚以上できあがる計算になる。1点もので勝負するセレクトショップとして、個性的な商品を並べるで店頭に変化を付けることはできるが、別注は店舗数で按分したとしても、在庫負担になる。
これを消化していかなければならないのだから、決して楽ではないだろう。それでも店仕入れをやってきたベイブルックだし、顧客とのコミュニケーションの中で、「ジャカードのアイテムもお客さんは惹き付けられる」かもと、敢て勝負に出た点は流石だ。ぜひとも売り切って、生地別注の牽引役を果たしてほしい。
組織に変化がある生地、打ち込みがしっかりしてこしがある生地、織り方で微妙な色合いを出す生地、等々。デザイナーとテキスタイルメーカーがアイデアをしぼり、コストをかけて織った生地から生まれるアイテムを着て来た層からすれば、今のマーケットに出回っている商品は、無地でフラットな生地ばかりで面白くないと思う。
昨年、日経ビジネスが特集した「誰がアパレルを殺すか」の派生特集でも、「男性用のスーツなら、一昔前は上代(小売価格)の15%が生地代でした。今では大体5%程度に下がっています。だから、おもちゃのような品質の商品になってしまう」と、ワールドで総合企画部長などを務め、コンサルタントとなった北村禎宏氏は語っている。
おもちゃとはまでは行かなくても、今のマーケットに流通しているアイテムの生地のレベルが原価率の圧縮から、総じて低下しているのは紛れもない事実だ。そう感じるお客が意識が高いかどうかは別にして、筆者が服を買わなくなったのはやはり生地企画の劣化、質の低下は要因の一つにあるし、同じような気持ちの人は少なくないと思う。
確かに「50代以上のおっさんたちは生地に対する思いが異常」「カジュアルな服は安くて当たり前」「モードという理屈で価格を吊り上げている」というご意見がネットではPVを稼いでいるのだから、賛同者は多いのかもしれない。
ただ、リアルな店頭、個店のセレクトショップは、本当にブランド側、コンバーター側からの生地提案を待っているのか。それとも自ら探して別注企画にも乗り出しているのか。その辺を掘り下げて、業界低迷の理由に生地があるのかどうかも、もっと考えていかなくてはならないはずだ。業界メディアは企画生産者側だけでなく、アイテムを売る側が考える生地別注のあり方にもスポットを当てる必要はあると思う。
「こんな生地のアイテムはないの」「昔、着ていたあの生地がまた着てみたい」って、濃密な会話は今も世界中のセレクトショップの店頭では交わされているいるはずだから。