今春夏シーズンをもって英国バーバリー社とのライセンス契約が終了もしくは本国移管となる三陽商会。百貨店に展開していたバーバリーの売場約7割は、ライセンス生産する「マッキントッシュ・ロンドン」に取って代わる。
同社はライセンス終了時点で、 代替店舗は200店くらいと予想していたが、実際には240~260店になる見通しで、これにはうれしい誤算のようなご様子だ。
ただ、売場を確保できたからと言って、ロンドンが確実に売れるという保証はない。バーバリーの売上げは同社総売上高の約半分、400~500億円と言われており、マッキントッシュ及び新規ブランドがどこまでその穴埋めをできるかは、全くの未知数だ。
そもそも、マッキントッシュはアパレル専門商社の八木通商が開拓した。1800年代にデザインされたゴム引きコートがもつ撥水性と上質な作りは、本物志向のセレクトショップ、特にレディスに受け入れられた。
つまり、商社の展示会~小売りのバイイングという構図で、マッキントッシュのビジネスモデルが「先行して存在している」のである。
しかも、セレクトショップは編集力やVMDの能力が高く、お客の顔が見えるがゆえに別注企画にも長けている。それに接客提案力を加味して、1着20万円近くするコートを販売し、顧客を作っていったのだ。
セレクトショップが仕掛けた人気と市場を「マッキントッシュ・フィロソフィー」を含め、ライセンスという「錦の御旗」と、高い縫製ノウハウをもつコートメーカーの「手前味噌」でいただこうというのが、三陽商会のマッキントッシュ事業のようにも見える。
しかし、ことはそう簡単にはいかない。セレクトショップがマッキントッシュの顧客を開拓できたのは、もの作りの良さや質の高さはさることながら、MDの中で商品そのものを際立たせ、他アイテムとコーディネート販売したからである。
まさに今のシーズン、アウターにはマッキントッシュのコート。インナーにはセントジェームスのボーダー、ボトムはシマロンやピカデリーのパンツ、エグーのブーツなんかを組み合わせるスタイリング提案は、セレクトショップだからできたのである。
それに対し、フィロソフィーはレディスターゲットでネット通販もあるもの、ロンドンはメンズで百貨店のハコでコート、重衣料メーンのブランド単体を販売するだけである。
ターゲットも市場も異なるため、フィロソフィーやロンドンがセレクトショップが開拓した顧客の奪い、また新たな市場を切り拓くことができるのだろうか。
あるセレクトショップのバイヤーがこんなことを言っていた。「マッキントッシュを売り始めて20年近くなる。最初に買ったお客さんが結婚し、今度はそのお子さんと親子で着ていただいている」と。
セレクトショップでマッキントッシュに出会ったお客は、いくつになってもまたセレクトショップのマッキントッシュに返っていく。だから、ライセンス、しかも百貨店に顧客が寝返ることはなさそうである。
であるなら、三陽商会のマッキントッシュ事業が400億円以上もあったバーバリー分の売上げをどこまで回復できるか。百貨店での販売力、顧客獲得がカギを握るわけだから、正直言って相当に厳しいと言わざるを得ない。
一方、バーバリーからスピンオフした日本企画の「バーバリー・ブルーレーベル」「バーバリー・ブラックレーベル」は、名称を変えて存続。このほど「ブルーレーベル・クレストブリッジ」「ブラックレーベル・クレストブリッジ」の新名称が発表された。
三陽商会は、両ブランドのデザインからプロモーションまでを統括するクリエイティブ・ディレクターに三原康裕氏を起用。英国伝統、プレミアムベーシックをキーワードに、同氏のクリエイティビティを加味した商品を作るという。
バーバリーのブルーレーベルやブラックレーベルは、セカンドラインということもあって、三陽商会では稼ぎ頭だった。ブルーレーベルの人気に火がついたのは、安室奈美恵が結婚式の記者会見の時に着ていたミニスカートがきっかけだ。
当時、彼女はコギャルに絶大な人気があり、おじさん臭いチェック柄を見事にヤングテイストに焼き直した点では、成功だったと言える。その流れはメンズにも飛び火し、ブラックレーベルは同世代の男性を捕捉。いわゆる、お兄系の若者を開拓した。
福岡にも確か天神西通りに路面店があったと記憶している。出店先がウォータービジネスデベロッパーの「ラインビル」だったことを考えると、ブランドのテイストがテナントに合致したからリーシングされたと言えなくもない。
では、クレストブリッジがどこまで、バーバリーの売上げ減をカバーできるのか。現時点では商品を見ていないので憶測でしか語れない。ただ、デザインにチェック柄は継続使用できるものの、バーバリーの名称やロゴは使えない。
だから、「新規ブランド」ということになる。そして、見逃せないのは、バーバリーのセカンドラインが発売された当時とは、時代も市場も大きく変わったことだ。
ヤングのファッション離れは激しく、経済的にもそれほど豊かではなくなった。新規ブランドとして全くゼロから市場を開拓しなければならず、またブランド自体がお客に受け入れられるかどうかも予測はつかない。
さらにブランドを浸透させ、売上げを積むには、相当な時間と労力、投下資金が必要になる。プレスやプロモーションがカギを握るのだ。
一つの光明を上げるとすれば、アベノミクスの影響で景気回復の兆しがあり、ウォータービジネスにお客が戻りつつあるということである。
つまり、ブランド名は違えど同じテイストなら、この手の業種に携わる方々が購入することで、一定のマーケットが開拓できる可能性はある。「グッチには手が出ないけど、クレストブリッジなら買える」というお客が生まれるかもしれないのだ。
ヤングのすべてがビームスやジャーナルスタンダード、アーバンリサーチで買い物するわけではない。むしろ、これらの市場はヤングのファッション離れとユニクロやファストファッションの攻勢で、少しずつ切り崩されている。
三陽商会はブランドのプレステージを維持したいことから、やたら英国の伝統イメージを強調している。でも、バーバリーのセカンドラインが売れたのは、独特な雰囲気やデザイン性が「その手の若者」に受け入れられたからだ。
つまり、既存のものとは異なるテイスト、ターゲットでなければ、安定した市場は切り拓けないのである。
三陽商会がクレストブリッジでは「雑貨アイテムを増やし、ネット販売も可能した」と語っているところを見ても、サングラスやウォレット、アクセサリーといったアイテムが出回るのは、想像に難くない。
そう、日本市場から撤退したドルチェ&ガッバーナのセカンドライン「D&G」の受け皿になりうる可能性は、ますます高くなるというわけだ。
三原康裕氏がデザイナーではなく、ディレクターとして起用されたのも、クリエーターとして商品づくりに注力させるより、ロゴマークをアイコンにしたMDビジネスを優先させたいからだとも読める。
クレストブリッジがお兄系でマーケットを切り拓くことができれば、大化けするかもしれない。少しでも失ったバーバーリーの穴埋めをし、マッキントッシュをカバーできれば、三陽商会が策定した中期5カ年計画は、実現に向けて大きく前進すると思われる。
同社はライセンス終了時点で、 代替店舗は200店くらいと予想していたが、実際には240~260店になる見通しで、これにはうれしい誤算のようなご様子だ。
ただ、売場を確保できたからと言って、ロンドンが確実に売れるという保証はない。バーバリーの売上げは同社総売上高の約半分、400~500億円と言われており、マッキントッシュ及び新規ブランドがどこまでその穴埋めをできるかは、全くの未知数だ。
そもそも、マッキントッシュはアパレル専門商社の八木通商が開拓した。1800年代にデザインされたゴム引きコートがもつ撥水性と上質な作りは、本物志向のセレクトショップ、特にレディスに受け入れられた。
つまり、商社の展示会~小売りのバイイングという構図で、マッキントッシュのビジネスモデルが「先行して存在している」のである。
しかも、セレクトショップは編集力やVMDの能力が高く、お客の顔が見えるがゆえに別注企画にも長けている。それに接客提案力を加味して、1着20万円近くするコートを販売し、顧客を作っていったのだ。
セレクトショップが仕掛けた人気と市場を「マッキントッシュ・フィロソフィー」を含め、ライセンスという「錦の御旗」と、高い縫製ノウハウをもつコートメーカーの「手前味噌」でいただこうというのが、三陽商会のマッキントッシュ事業のようにも見える。
しかし、ことはそう簡単にはいかない。セレクトショップがマッキントッシュの顧客を開拓できたのは、もの作りの良さや質の高さはさることながら、MDの中で商品そのものを際立たせ、他アイテムとコーディネート販売したからである。
まさに今のシーズン、アウターにはマッキントッシュのコート。インナーにはセントジェームスのボーダー、ボトムはシマロンやピカデリーのパンツ、エグーのブーツなんかを組み合わせるスタイリング提案は、セレクトショップだからできたのである。
それに対し、フィロソフィーはレディスターゲットでネット通販もあるもの、ロンドンはメンズで百貨店のハコでコート、重衣料メーンのブランド単体を販売するだけである。
ターゲットも市場も異なるため、フィロソフィーやロンドンがセレクトショップが開拓した顧客の奪い、また新たな市場を切り拓くことができるのだろうか。
あるセレクトショップのバイヤーがこんなことを言っていた。「マッキントッシュを売り始めて20年近くなる。最初に買ったお客さんが結婚し、今度はそのお子さんと親子で着ていただいている」と。
セレクトショップでマッキントッシュに出会ったお客は、いくつになってもまたセレクトショップのマッキントッシュに返っていく。だから、ライセンス、しかも百貨店に顧客が寝返ることはなさそうである。
であるなら、三陽商会のマッキントッシュ事業が400億円以上もあったバーバリー分の売上げをどこまで回復できるか。百貨店での販売力、顧客獲得がカギを握るわけだから、正直言って相当に厳しいと言わざるを得ない。
一方、バーバリーからスピンオフした日本企画の「バーバリー・ブルーレーベル」「バーバリー・ブラックレーベル」は、名称を変えて存続。このほど「ブルーレーベル・クレストブリッジ」「ブラックレーベル・クレストブリッジ」の新名称が発表された。
三陽商会は、両ブランドのデザインからプロモーションまでを統括するクリエイティブ・ディレクターに三原康裕氏を起用。英国伝統、プレミアムベーシックをキーワードに、同氏のクリエイティビティを加味した商品を作るという。
バーバリーのブルーレーベルやブラックレーベルは、セカンドラインということもあって、三陽商会では稼ぎ頭だった。ブルーレーベルの人気に火がついたのは、安室奈美恵が結婚式の記者会見の時に着ていたミニスカートがきっかけだ。
当時、彼女はコギャルに絶大な人気があり、おじさん臭いチェック柄を見事にヤングテイストに焼き直した点では、成功だったと言える。その流れはメンズにも飛び火し、ブラックレーベルは同世代の男性を捕捉。いわゆる、お兄系の若者を開拓した。
福岡にも確か天神西通りに路面店があったと記憶している。出店先がウォータービジネスデベロッパーの「ラインビル」だったことを考えると、ブランドのテイストがテナントに合致したからリーシングされたと言えなくもない。
では、クレストブリッジがどこまで、バーバリーの売上げ減をカバーできるのか。現時点では商品を見ていないので憶測でしか語れない。ただ、デザインにチェック柄は継続使用できるものの、バーバリーの名称やロゴは使えない。
だから、「新規ブランド」ということになる。そして、見逃せないのは、バーバリーのセカンドラインが発売された当時とは、時代も市場も大きく変わったことだ。
ヤングのファッション離れは激しく、経済的にもそれほど豊かではなくなった。新規ブランドとして全くゼロから市場を開拓しなければならず、またブランド自体がお客に受け入れられるかどうかも予測はつかない。
さらにブランドを浸透させ、売上げを積むには、相当な時間と労力、投下資金が必要になる。プレスやプロモーションがカギを握るのだ。
一つの光明を上げるとすれば、アベノミクスの影響で景気回復の兆しがあり、ウォータービジネスにお客が戻りつつあるということである。
つまり、ブランド名は違えど同じテイストなら、この手の業種に携わる方々が購入することで、一定のマーケットが開拓できる可能性はある。「グッチには手が出ないけど、クレストブリッジなら買える」というお客が生まれるかもしれないのだ。
ヤングのすべてがビームスやジャーナルスタンダード、アーバンリサーチで買い物するわけではない。むしろ、これらの市場はヤングのファッション離れとユニクロやファストファッションの攻勢で、少しずつ切り崩されている。
三陽商会はブランドのプレステージを維持したいことから、やたら英国の伝統イメージを強調している。でも、バーバリーのセカンドラインが売れたのは、独特な雰囲気やデザイン性が「その手の若者」に受け入れられたからだ。
つまり、既存のものとは異なるテイスト、ターゲットでなければ、安定した市場は切り拓けないのである。
三陽商会がクレストブリッジでは「雑貨アイテムを増やし、ネット販売も可能した」と語っているところを見ても、サングラスやウォレット、アクセサリーといったアイテムが出回るのは、想像に難くない。
そう、日本市場から撤退したドルチェ&ガッバーナのセカンドライン「D&G」の受け皿になりうる可能性は、ますます高くなるというわけだ。
三原康裕氏がデザイナーではなく、ディレクターとして起用されたのも、クリエーターとして商品づくりに注力させるより、ロゴマークをアイコンにしたMDビジネスを優先させたいからだとも読める。
クレストブリッジがお兄系でマーケットを切り拓くことができれば、大化けするかもしれない。少しでも失ったバーバーリーの穴埋めをし、マッキントッシュをカバーできれば、三陽商会が策定した中期5カ年計画は、実現に向けて大きく前進すると思われる。