HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

価格を超える価値とは。

2016-09-14 07:22:59 | Weblog
 セレクトショップのビームスが今年は創業40周年に当たるとして、同じ年に発売された「リーバイス501」モデルを復刻し、9月17日から各店舗で販売するという。価格は3万円(税抜き)で、既に販売している店舗もある模様だ。

 リーバイス501復刻モデルは、ビームスの創業年である1976年のデッドストックを参考に素材やシルエット、縫製仕様などを忠実に再現。これを機に1978年モデルは品揃えから除き、1976年モデルを世界中で発売するというから、これだけを聞くとさすがビームスと言えなくもない。

 逆の見方をすれば、リーバイス側が1978年モデルの501を何らかの理由で1976年モデルにリニューアルして発売したいのかもしれない。例えば、78年モデルは76年のマイナーチェンジでしかなかったら、501の長い歴史の中でやはり「76年の方がいいよね」となることは当然考えられ得る。それを知ったビームスが自社の創業年と同じことでメモリアル企画を持ちかけたのかもしれない。まあ、真偽のほどは定かでないが。

 そう言えば、GAPも1999年には創業30年を記念して1969年モデルを発売した。GAPは創業当時は小売業だった。店頭では90年頃までリーバイスを販売している。ただ、この1969年モデルがリーバイスのコピーなのかはわからない。一度、試着したことがあるが、生地は良くもなく悪くもなく、サイズ感はややゆったり。シルエットはそのまま裾まで流れる感じだ。フロントはボタンフライ、これはリーバイスの501と同じだった。

 そもそもリーバイス501は、リーバイ・ストラウス社が1873年に製造した最初のオーバーオールジーンズXXを、1890年に501の名称をつけてデビューさせたものだ。当時の米国は西海岸でのゴールドラッシュに沸き、キャンバス地は金鉱労働者にとってテントや荷馬車の幌に必需品だった。もちろん、虫除けのためにインディゴ染めの衣服は、欠かせなかった。そうした機能性から作られたのがジーンズだ。

 リーバイス社はそのジーンズで金属リベットで細部を補強し、素材をキャンバスからデニムに切り替え、汎用性のある作業パンツを量産するようになる。そして1890年にロットナンバーの501が付され、フロントにはコインポケットが付く。90年代に入ると、2つのバックポケット、ウエストのベルトルーフが付けられるなど、現在に引き継がれる501の原型ができ上がっていったのである。

 それが130年近く立った今も、ほとんど形を変えることなく、リーバイスのスタンダードとして根強い人気を集めているのだから、501はジーンズの定番、礼賛されるべきモデルと言っても間違いないだろう。

 一方、リーバイ・ストラウス社におけるジーンズビジネスは、決して順風満帆とは言えない。ジーンズが世界中の人々に浸透していく反面、ファッション衣料としての性格を持たせるには、デザインのバリエーションを増やし、付加価値を高めることが必要になる。

 マーケット規模が大きなレディスなら微妙なシルエット、穿き心地、カラーや擦り感、トレンドといった条件を加味しなければ売れない。当然、SPAをはじめ、ジーンズメーカーも新企画の商品を次々と投入していく中で、リーバイス社が競争に巻き込まれていったのは確かだ。

 いくら世界に冠たる501を持っていようと、本家の米国はもちろん、世界中でカジュアルウエアのジーンズに100ドル以上投資できる国民は限られている。リーバイス社は世界戦略を行う中で、量販店向けのバジェットライン、ジーンズショップに卸す中価格帯、フラッグシップショップ限定のヴィンテージシリーズと、バリエーションを増やした時期もあった。

 日本でも90年代後半から2000年代前半にかけ、レディスのパンツトレンドがストレートからヒップハングのタイト、スキニーへと変化した。ジャパン社はあえてストレートジーンズという普遍性を封印し、こうした市場にもアプローチしようとした。2005年には独自企画として、女優の小雪をイメージキャラクターにしてスキニー開拓に挑んだが、マウジーなど強力ブランドの前で、あえなく惨敗した。

 低価格路線やトレンド狙いがロイヤルティを下げてしまったことで、リーバイス社は戦略転換を余儀なくされたのである。そこで世界トップブランドとしてプレステージ性を維持し、アメリカ文化の象徴であるジーンズの世界観を伝えて行くという原点に立ち返ったのだ。基本的なポジショニングは、ジーンズをこよなく愛する人々のためのブランド。メーンターゲットはアメカジ、トラッド、ヴィンテージに心酔する男性で、可処分所得が高い階層ということになる。

 その市場規模がどれほどあるかは漠然としているが、テイストがオーバーラップするビームスには、リーバイス501に造詣をもつ顧客が一定数はいる。創業40周年記念の501復刻モデルは、そうした層に販売していくということになると思う。

 問題は価格の妥当性や価格に対する価値だ。価格という点では、市販されているヴィンテージクローズの501でも3万円以上の価格が付けられている。それを考えると、今回の復刻モデルが特別に高額だとは言い切れない。

 では、価値はどうなのか。ビームス創業年と同じ年に発売された501モデルが復刻するという話題性はある。しかし、写真を見たところでは単なるジーンズで、40を表すローマ数字のXLや限定本数を示すシリアルナンバーなど、ビームス側のメモリアル要素は特に加味されてはいないと思われる。

 となると、ビームスのメモリアルジーンズというより、リーバイスの1976年モデルにビームスが乗っかったという方が現実的だ。仮にそうだとすれば、3万円という価格に対する価値はいったいどうなのかである。

 明確な価値と言えば、40年前の仕様だろう。ヴィンテージクローズという生地、ステッチ糸やポケット用の裏地、リベットやフロントボタン、革パッチ、フラッシャー、そしてデザインやパターン、シルエットは当時のものを再現したというから、それはそれで価値となる。

 では価格の妥当性はどうか。これはその商品を購入する人々のライフステージや収入で、高いと感じたり、安いと思ったりするから一概には言えない。ただ、価格は原価や利益の比率によっても変わってくる。何も原価が低いものが価格が安く、原価が高いものが価格が高いとは限らない。安い原価でも儲けようと莫大な利益を載せれば価格は高くなるし、高い原価でも適性利益のままなら、価格は抑えられるのだ。

 ここで重要なことは、原価はそのまま商品のクオリティを示すということである。仮に1976年版復刻モデルの原価率が価格の3分の1、つまり1万円だとしよう。原価計算やマーチャンダイジングに詳しくない方でも、生地や付属品、縫製に1万円もかけているのなら、相当に良い商品ではないかと思われるはずだ。確かにプロのアパレル事業者も、原価が1万円だとすれば、そこそこ良い商品と判断する。

 ただ、どれと比較して良い商品なのかはわかりにくい。そこで、某ブランドのジーンズを引き合いに出してみたい。ここのジーンズは1時間に4〜5mしか織れない旧式のシャトル機でつくったセルヴィッチデニムを使用している。柔らかで風合いの高級コットンで、染めも昔ながらの味わいのあるインディゴブルーだ。

 反面、コアスパンという丈夫な糸を使用して縫製しているため、経年劣化がしにくい。ステッチがほつれたり切れたりすることはない。穿き込むほどにヒゲ、いわゆる股から太もも、足の付け根にかけて自然な色落ちが楽しめる。今は違うが、そのままとっておけば、ヴィンテージ価値が出てきそうな逸品だ。

 価格は13,000円程度である。これを手掛ける企業によると、工場が出す価格に倍掛けしているだけという。つまり原価率は売価の半分ということだ。単純計算すると、このジーンズの原価は6,500円程度になる。しかも100%日本製である。もちろん、いろんな中間業者をカットすることで、この価格を実現しているのも事実だ。

 ただ、これまでのリーバイス501と見比べても、クオリティは明らかにこちらの方が高いと思う。価格を超える大きな価値をもつジーンズと言っても、過言ではないだろう。かたやリーバイスもジーンズメーカーだから、小売りのPBのように間にいろんな中間業者が介在しているとは思えない。となれば、復刻モデル501の原価はいったいいくらなのか。またクオリティの分だけ原価が1万円より下回るのであれば、いくらの利益を載せているのかという疑問が湧いてくる。

 ナイキのエアジョーダンが爆発的なヒットをした時、その原価がわずか4ドルだったと暴露され、不買運動に発展したのは業界関係者の多くが知るところだ。売価が200ドルとして、原価率はたった2%。それでもマイケルジョーダンのエンドーズドモデルという価値があるから、相当な価格でも世界中で売れたのである。

 では、1976年復刻モデル501はどうなのだろうか。リーバイスは現状でもヴィンテージクローズの501XXを3万円以上の価格で市販している。それから類推すると、ビームス40周年という価値が相当の利益として載っけられているとは考えにくい。ビームス側も暴利をむさぼっているわけではないだろう。

 リーバイスがブランドロイヤルティを維持する上で、価格設定が重要だと考えるのは理解できるが、その背景で相当な利益を載せていることも事実ではないのか。もちろん、生産ロットは普及版ほどではないから、製造コストがかかるという言い訳もたつ。それにしても、価格対価値という点では少し高すぎるのかもしれない。

 1976年復刻モデルのリーバイス501に3万円という価格に見合う価値があるのか。あるとすればそのことを売場スタッフが明確に伝え、どれほどの顧客がそれを見いだせるか。ビームスがこれから生き残っていくとすれば、価格を超える価値を提案できてこそ、ファンは納得するのである。今回のケースはセレクトショップが販売するブランドの価格対価値という点でも、考えさせられる事例と言える。
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