HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

アベノミクスで業績が回復する業態は?

2013-02-03 08:22:35 | Weblog
 安部晋三首相は日銀のインフレ目標2%設定を提案。とたんに円高が進み、株価も上昇。メディアはアベノミクスと宣い、バブルの再来を期待するかのように報道合戦を繰り返す。
 ただ、経済学者やエコノミストでは、意見が分かれている。まず、中央銀行によって名目金利が引き下げられれば、企業や家計の支出が増えるから、結果的に商品の生産量や給料は上がり、インフレ率は上昇するという意見だ。

 一方で、インフレ率は財政政策によって決定されるという意見もある。日本のように企業が物価や給料を決めていると、この理論は今いちピンとこない。しかし、海外では政府の借金が非常に多い国がハイパーインフレを引き起こしている。ニュースなんかで見かける市民が大量の札束を持って買い物する光景だ。
 どちら考えが正しいのか。一介のクリエーターに過ぎない筆者には判断がつかない。まあ、日本人は街頭インタビューなんかで「政府に経済政策や財政再建を期待している」と言いつつも、そのパーセンテージは決して高く無い。
 つまり、どこかに政府は借金を国民に回してくるとの予感があるから、税金が上がるのもしょうがないと自覚しているのだ。だから、ハイパーインフレなど起こり様も無い。
 海外ニュースに出てくる光景も、ほとんどが発展途上国で物資に乏しい国だ。物余りで高齢社会の日本で、国民全体がカネを出してでも手に入れたいものがそれほどあるとは思えない。この理屈なら、筆者にも理解できる。

 ということで、ファッション業界はこれからどっちに向かうのか。インフレターゲット2%ならプチバブルが起こり、少しの贅沢、高感度で上質な商品の売れ行きに期待が持てる。結果、百貨店や高級専門店の業績が回復するという識者もいる。
 しかし、こうした期待値を嘲笑うように、今年に入って日本版のファストファッションが続々登場している。アーバンリサーチの「センスオブプレイス」、 トリニティアーツの「アンデミュウ」、「リップサービス」の「シエルバイリップサービス」などだ。

 三者はセレクトショップ、レディス専門店、渋谷109系と母体は違うが、ディレクションを英国のクリエイティブ集団に委託したり、海外のトレンドを意識したり、モード感を取り入れたりと、従来の日本にないテイストで、マーケットを開拓する点は共通。ただ、それがファストファッションであるということだ。
 また、ファーストリテイリングの「ジーユー」も、 今春夏物で、最多価格である990円の商品の割合を、従来の約4割から約5割へと引き上げるという。インフレで景気が良くなったとしても、日本の消費者の財布のひもは急には緩まないという懸念があるようだ。

 逆に考えると、これらのFFは日本だけでなく、海外市場も意識しているため、むしろ将来の経済発展を見越した囲い込みがあるだろう。ファストファッションでお客を捕捉し、収入がアップしたとき、ベターゾーンに移行してもらうという狙いだ。
 とすれば、業界のインフレ、プチバブルは起きても、その恩恵を受けるのは一部の業態に止まるということかもしれない。それが百貨店なのか、専門店なのか。
 仮に百貨店であるとしても、一旦海外に生産拠点や素材調達を移してしまった同系のアパレルが簡単に上質で、モード感のある商品を企画できるとは思えない。百貨店側が国内アパレルを諦め、インポートを中心に探すにしても、取引条件で折り合わないのは目に見えている。

 また、ヤング系、セレクト系と駅ビル、ファッションビル系のテナント導入の歩率体系に踏み込んだまではよかったが、Webサイトによるネット販売は遅れている。これに踏み込むことを奨励する向きもあるが、単なる写真とスペック表示だけならゾゾタウンと変わらない。
 接客販売を重視する百貨店なら、ヴァーチャルフィッティングやお直しなどの機能アップをしなければ差別化はできない。現状のWebプログラム環境や技術では不可能だろう。しかし、そこまでのグレードを持った時に、百貨店のサイトは違うと顧客は判断する。

 だから、この程度だと景気が回復したとしても、百貨店の業績につながるとは考えにくいのである。むしろ、筆者はベターゾーン以上の商品を扱う品揃え専門店に期待する。なぜなら、専門性の高いバイイングのスペシャリストがいること。メーカーや商社、インポーターの信頼が厚い=共存共栄の精神があること。販売力=売り切る力の潜在能力が高いこと。そして、何より商品1点1点に対する目利きと愛情があることだ。
 メーカーも専門店系アパレルについては小ロット対応が可能だし、コストをかけてもいい(掛け率アップ)なら企画、仕様開発、生産ラインと素材確保まで踏み込むノウハウをもつから、グレードアップは難しく無いと思われる。

 何も品揃え専門店を庇護するわけではない。百貨店やSPAと比べた時に業績回復の可能性が高いということだ。課題は情報発信力と集客力だが、何もWebに多大な投資をする必要は無いと思う。
 ここ数年のネット販売の活況は、「地方に住むヤングが近所で買えないブランドを購入したいが、都市部まで行く交通費はかけたく無い」程度の傾向だ」と、筆者は思うからだ。
 本当に服を着てオシャレに、カッコ良くなりたければ、自分で素材や色を見てフィッティングして着心地まで確かめるだろう。景気が回復すればそうした消費者が増え、ネット妥協客も店頭に回帰する可能性が高い。そこが専門店の狙い目なのである。

 1店舗のテリトリーは限られるので、広域からの集客は限られる。だから、メーカーやインポーターとタッグを組んで、ブランドや品揃えの情報発信をさらに強化すべきだ。これまではバッティングの問題があるから、必然的にテリトリーで競合はなかった。
 ネット販売は同じエリアでも同じブランドを着るお客が出ることになるが、むしろ異エリアの店が連携して、売り切れやサイズ・色違いで相互対応をするのだ。個店同士の店間移動とでも言おうか。これまでは自店の消化ばかりを考えてきたであろうが、ネット連携は双方の共存に活用することができなくは無い。

 「あの店がお客さんをオーダーを回してくれたから、今度はこのお客さんのニーズを紹介しよう」というギブ&テイク。お客も同じようなテイストや感度のお店は、数軒あった方が買いものには好都合である。今まではそれをネットで時間をかけて探していたが、景気が回復して懐にゆとりがあれば店に行けば良いのである。
 ただ、専門店は暖簾も経営感覚も商習慣も違うから、簡単にはいかないかもしれない。でも、これだけSNSが発達した時代にあって、商売の活性化に利用しない手は無い。これをメーカーを交えそれぞれが納得すればいいわけだ。

 こうした手法は縦割りで納入メーカー、ブランドが決まっている百貨店同士にはできない。未だに百貨店のグレードによって品揃えされる商品が左右されているのだ。
 バブル崩壊後の一時期、百貨店の経営者は口々に「共生」という言葉を発した。しかし、M&Aや経営統合で規模を拡大し、覇権を狙おうとする昨今の百貨店に共生などありえない。景気が回復した時、洋服好きをうならせる専門店が活性化することに一縷の望みを託したい。
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