HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

三越伊勢丹はアルマーニになれるか。

2012-11-23 18:25:07 | Weblog
 三越伊勢丹が国内の委託工場を活用してオリジナルウエアを開発するという。大西洋伊勢丹社長が年頭所感で語ったことが実現に向けて動きだしたようで、業界では賛否について持ち切りだ。
 これまで百貨店オリジナルはアパレルメーカーに丸投げするもので、店舗が少ないからコストがかかる割りにロットが少なく、実質赤字になるケースがほとんどだった。
 三越伊勢丹はこうした問題をクリアするために、アパレルを超えて直接工場に発注しようといことである。それでも業界ではアパレルメーカー的な開発するにしても、デザインやパターンのスタッフは。仕様は。素資材の手配は。企画から納品までのスケジュール管理は。ハコのVMDは。販売スタッフや接客は。価格帯は。山積みの課題をどうするのかとの声が少なく無い。

 仮に既存のバイヤーが担当するにしても、まずはMD企画から考えなくてはならないし、デザインやパターンは外部の企画会社を活用することになる。バイヤーが考える通りの商品企画を外部スタッフが形にするには、相当のコミュニケーションが必要になるのは言うまでもない。
 商品コンセプトを十分に理解してくれて、バイヤーが一を言うと十理解してくれる優秀なスタッフが必要なのはもちろん、バイヤーにも類を見ないオリジナルを独自の感性と説得力をもって、スタッフの腑に落とす能力が要る。つまりディレクター足らなければならないのだ。
 三越伊勢丹のバイヤーがいくら有能とはいっても、クリエーションの部分では素人同然。クリエイティビティの優秀さではひけをとらないクリエーターを起用するなら、バイヤーにはそれを組織の中でうまくマネジメントするディレクターの力量が要求される。

 ここまで書いてしまうと、じゃ、三越伊勢丹のオリジナルは実現できるの?ってなってくる。しかし、どの百貨店もやってこなかったわけだし、百貨店業界の厳しい現状を考えると、挑戦してみる価値はある。むしろ挑戦しなければ、明日はないと思う。
 では、どうすればいいか。あれこれ複雑に考えるのではなく、単純に考えてはどうだろう。それは模倣である。といっても商品をコピーするのではない。過去に成功しているビジネスモデルを俯瞰で見ながら真似てみるのである。代表例がイタリアのジョルジオ・アルマーニ社だ。
 デザイナーのアルマーニはデビュー以前の1960年代、ミラノの大手百貨店、リナシェンテに勤めていた。ここは米国をモデルに最先端の流行を発信する百貨店に生まれ変わろうとしていた。オーナー、代表とも世界を向き、建築家、デザイナー、広告クリエーターなどの創造力を寄せ集めて、次々と企画を実現しようとしていた。

 ここでアルマーニは、生地の選び方や洗練されたコーディネート、斬新なスタイリングに出会い、修得していったのである。その後、テキスタイルメーカーのセルッティで、生地を学び、しだいに柔らかな生地やクールな色合いを選んで若々しいソフトスーツを体現する。 こうしたモデルを真似てみるのである。
 つまり、商品からではなく、素材から入っていくのだ。それは百貨店バイヤーが全くしてこなかったことである。だから、とにかくきめ細かく生地を見分け方や扱い方、個々の素材が持つクリエイティビティを見抜き、よりよい形で利用して服にしていくのだ。
 シルク、ウール、コットン、革等々。世界中の上質なテキスタイルに注目して活用する。もちろん、素材、色、柄がなければ生地から作るくらいの覚悟も必要だ。1年、2年と時間がかかるかもしれない。でも、そうでなければオリジナルなんて代物が作れるはずがない。

 もちろん、並行して国内の協力スタッフを探さないといけない。ここからは前述の課題が頭をもたげていく。しかし、素資材がしっかり手当てされていれば、かなりの部分でNBアパレルやSPAと差別化できるはずである。今の日本市場に出回っている商品の多くがありものの素材を使っているからだ。
 尾州や関西には優秀な技術をもつのに埋もれているテキスタイルメーカーが少なく無い。そちらを活用するのも手だ。おそらく、大西社長もそこには気づいているはずだ。それが適えばパターンはまだしも、デザインの部分には百貨店のスタッフが踏み込んでいいと思う。そこまでのモデルを作り上げて、初めて委託工場を活用する意味が出てくる。
 アルマーニも学校では建築の勉強こそしているが、ファッションデザインは仕事をしながら現場で修得している。最初は商品単体をつくり、徐々にMDを組み立て、VMDのフォーマットを築き、ブティック出店にこぎ着けた。じっくり時間をかけておこなえば良いのである。
 
 尤もアルマーニのクリエイティビティは折り紙付きだ。そうした人間が三越伊勢丹にいるかどうかになる。ただ、クリエイティビティなるものは、最初から備わっているわけではない。来る日も来る日も基礎的な学習を重ね、経験を積み重ねる中で発揮されるものだ。
 三越伊勢丹に入社したほどの人材なら、そうした素養をもっているはずだし、また自ら学び、育てていかなければならない。そして、「私がやります」「私にやらせてください」という野心的な人間が出現してこそ、オリジナルは生み出せるといっていいだろう。
 筆者を含め、とかく百貨店は批判の俎上に上げられるケースが多い。でも、そうするのは百貨店が現状の問題点を少しも変えようとしないからだ。三越伊勢丹がオリジナルで、それに一歩踏み出すのであれば応援するのは吝かでないし、大いに期待したい。

 現状では課題が山積みだ。しかし、閉塞感が漂う日本のファッション業界で、「こりゃ、オシャレだ」って商品をぜひ三越伊勢丹がデビューさせてほしいものである。
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