HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ブラックなインターンS。

2018-07-18 06:01:14 | Weblog
 2019年春に卒業する大学生の就職活動が佳境に入っている。景気回復と人手不足から内定率は7月時点で80%を超えているが、企業側もできるだけ優秀な学生を確保しようと、通年採用に切り替えたり、3年生以下に照準を当てるところもある。

 企業にとって優秀だと思って採用した人間が数ヶ月であっさり辞めたり、大して期待していない人間が長く勤めるケースはある。こればかりは採用担当者でも見極めは容易ではない。学生の側も自分に合った会社や仕事を見つける術を知りたいはずだ。そこで、企業は学生の仕事への積極性や適性を見たり、学生は仕事内容や社風に触れることで、それぞれに合致した人材や企業を見つける「インターンシップ」が実施されている。

 最近はインターンシップ参加を採用選考の条件にする企業もあり、学生はそこが志望先ならインターンシップに参加せざるを得ない。ただ、正式な就職活動ではないし、期間も1日から数週間、2カ月程度と多岐にわたる。対象学年も1年生から4年生までと幅広い。内容もワークショップあり、仕事体験、実習ありと様々だ。

 ベンチャーやIT系の企業は、インターンシップを盛んに行っているが、大半の企業はそれが本業ではないため、社会貢献の一環として位置付ける程度だ。まして中小企業では、受け入れはそう簡単にはいかない。学生にとってどうしても情報が不足しがちなのである。

 インターンシップの詳細を知るには、やはり就職情報会社が企画する「合同説明会」に参加するのがベストな方法だ。そこでは実施企業、場所や内容、期間などを確認できるが、学生にとっては切実なのは「報酬や交通費はくれるのか」「ドレスコードはあるのか」「学業や試験との両立はできるのか」ではないだろうか。

 就職情報会社は、こうした学生側の疑問ついて、事前に企業側にヒアリングして情報を準備しているし、わからないことは質問すれば答えてもらえる。だが、実際にインターンシップに参加してみると、事前にイメージしたものと違ったケースもあるようだ。筆者が地元の現役大学生から聞いた話では、ファッション業界のインターンシップで、以下のようなものがあった。これは実に驚くばかりである。

 ①「アパレルメーカーにも関わらず、週3日も店舗で販売業務をさせられた」

 ②「売場実習に参加するには、自社ブランドの着用が必須と、購入させられた」

 ③「管理業務の体験と言われたが、実際には倉庫でのパッキン詰めだった」


 以上のものは、明らかに「労働」「従属関係」である。旧労働省の通達にも、「直接生産活動(販売業務)に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ事業場と学生の間に使用従属関係(商品を購入させられた/倉庫作業を強いられた)が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」とある。

 通達だから、直接企業への指示には当たらないが、所管の労働基準監督署への示達がなされているわけだから、違反した企業は監督署の厳しい指導を受けることになる。とは言っても、インターンシップで厳格な法解釈のもとに指導がなされるかと言えば、それは不可能だ。だから、①〜③のようなブラックなインターンシップを生んでいるわけで、学生が泣き寝入りしなければならないのは、あまりに理不尽である。

 ①〜③について、学生に企業名を訊ねると、①②は結構大手のアパレルメーカーだった。①の場合、福岡のような地方都市では支店は営業機能のみだから、本社サイドの意向で取引先の「エリアFC」や「販売代行」の小売り企業がメーカーに代わってインターンシップを引受けているのではないかと思う。学生の目から見ると、店舗にブランド名の看板がかかっていれば、メーカーの直営店と思いがちだ。

 メーカーと小売りとの関係では、どうしても商品を仕入れてくれる小売りの方が優位に立つ。メーカーがインターンシップを小売りに頼んでいる以上、いくらルールがあるとは言え、細かな注文は付けにくい。コンプライアンスなんかあったところで、形骸化しているに決まっている。結果、FCや販売代行が学生を引受けるのなら、やってもらうことは接客や販売くらいしかないわけで、①のようなことは起こり得るだろう。

 ②のケースは直接、大学にインターンシップを受入れる旨の連絡があったのではないかと思う。その場合、アパレルブランドなら当然、ドレスコードというか、服装の指定はしていたはずだ。その辺の情報が学生側に上手く伝わっていなかったことも考えられる。

 センケンjobは「インターンシップの服装はスーツ?私服?そんな疑問を5分で解決します!」(https://job.senken.co.jp/shinsotsu/articles/intern-dress-code)で、服装についてアドバイスしている。そこでは会社の規定に沿った服装、指定がない場合は「会社の雰囲気や周りのインターンシップ生と合わせて判断するのが賢明です。会社の雰囲気を見ても判断がつかない場合は、インターンシップ初日に周りの社員の方に尋ねてみると良いでしょう」と、あくまで学生の裁量に任せ、細かくは指定していない。

 ところが、実際には②のようなケースが起こったわけだ。大学生だから判断力はあるはずと言っても、リクルートスーツを着なければ、普通の若者である。別にファッション業界志望でなくても、みな好きなブランド、テイストくらいはあると思う。

 学生自ら「この服装ならいいだろう」と判断しても、企業からすれば、学生=カモと見ていることはある。おそらくインターンシップを引き受けてくれるという学生の立場の弱さを想定し、「そんな格好ではうちのイメージに合わない」などと難癖を付け、自社ブランドを売りつけようと考えていても不思議ではない。

 人手不足で学生優位の売り手市場とは言え、学生が雇ってもらう立場である以上、ブラック企業なら付け入る隙などお見通しだろう。就職情報会社は学生がインターンシップを終了した後、アンケートなど体験報告を求めているはずだから、学生も問題があれば堂々と親告して構わない。いきなり企業名を出すわけにはいかないが、繊研新聞は業界メディアなのだから、ブラックインターンシップについては、学生から聞取り調査などを行って報道すべきだと思う。


バイトと割り切ることも肝心

 ③の「倉庫でパッキン詰め(段ボールに商品を梱包する)させられた」は明らかに労働になるが、「管理業務の体験」ならばグレーゾーンだ。ただ、インターンシップのスケジュールの中に組み込まれていたとしても、学生が事前に判断して拒否するのは難しい。

 実際には大手アパレルメーカーや小売りチェーンですら、人事上では新入社員を商品管理に配属するケースはある。だから、学生に内定の期待を持たせながら、「最初はみんなここからスタートだよ」と実際の業務を担当させ、マインドコントロールする企業があってもおかしくない。

 まあ、一流大学を出て、「パッキンを担がされるのは嫌だ(エリート意識の高い学生に限って、「ビール瓶より重たいものは持たない」ってホワイトカラーの格言だけは頭に入れている)」と、3カ月で大手アパレルを退社した社員がいるくらいだから、企業側も事前に体験させたいのだろうが。

 もちろん、インターンシップで労働させることは違法である。だから、学生側もブラックなインターンシップがあることを前提に、それでもファッション業界に関心や興味があるなら、複数日にわたる業務体験がある場合には、「アルバイトなら働かせていただきます」と割り切ってもいいのではないか。

 筆者の学生時代は、10月1日会社訪問解禁、11月1日入社試験スタート。4年生の夏休みを利用して、先輩訪問などを行えたが、もちろんインターンシップなどない時代だ。だから、企業リサーチを兼ねて、大学の3年時にマンションアパレルでアルバイトをした。学内に掲示してあった求人票を見て、「軽労働」と書いてあったので、面接に行き仕事内容を確認し、作業に従事した。

 まさに「小売店に納品する商品」を「伝票の型番を見て」「ハンガーラックから取り出し」「パッキン詰め」するもの。ブランドロゴが入った段ボールを組み立て、箱の底側を補強するために粘着テープを十字状に貼る。商品を詰め終わると、一番上に伝票を置いて蓋をとじ、軍手を付けて梱包用のPPバンドをストッパーのバーにうまく挟んで絞り、きつく固定。あとは側面に送り状を貼って、佐川急便に渡すまでの内容である。まさにそれほどキツくはない軽労働だった。

 ただ、この作業でドレスやジャケットは皺にならないように交互に重ねて置くなど、アパレルならでは梱包テクニックを憶えた。

 小さなアパレルだったので、3カ月も働くと目をかけてもらい、社長から「お前も企画会議に参加しろ」と言ってもらった。会議と言っても、マンションの一室だから、デザイナーやパタンナーと営業が車座に囲んでアイデアを出し合い、話し込む程度のもの。そこで生まれたイメージをデザイナーは、イラストパッドに描いて形にしていく。

 当時のマンションアパレルは、各地に営業に出かけるケースはほとんどなく、逆に各地の専門店からバイヤーが仕入れに来てくれた。だから、即応性というか、お客の感覚やバイヤーニーズをすぐに反映できたのである。アルバイトだったが、実に勉強になったし、大手では決して学べない体験ができたと思う。

 明らかに法に反しているインターシップは、ファッション業界にも存在する。それでも裁判に打って出るようなケースはないと思うが、内容をみればブラックインターンシップと言っても間違いないものもある。学生も泣き寝入りするのではなく、労働をさせられた時間や業務内容、購入した商品のレシートを証拠として(今はスマートフォンで写真も撮れるし、動画も残せる)残しておくことが大事だ。

 そして、大学の就職課や就職情報会社などに相談すべきだと思う。あまりにブラックなインターシップについては、法的措置を講じてもいいのではないかと考える。筆者も法学部出身だから多少の知識はあるが、現役の学生ならなおさら憤懣やるかたないだろう。法学部生の皆が労働法を専攻していないだろうから、教授に相談したり、自治体が無料で行っている法律相談などを利用する方法もある。誰かが声を上げなければ、ブラックな企業の思うつぼなのだ。



 ところで、福岡アジアファッション拠点推進会議は、活動内容にファッションウィーク福岡や福岡アジアコレクションの実施と並んで、「インターンシップ」を挙げている。これには福岡市が拠出する経済観光文化局の「クリエイティブ関連産業の振興」の予算が割り当てられている。平成28年度は、総額で3264万9000円が使われているが、大半がファッションウィークやコレクションイベントだとしても、決算報告の計上されている以上はいくらかはインターンシップに使われているはずだ。

 ところが、推進会議からどんなインターンシップが行われているか、広報・公開されていない。福岡市も決算書に項目のみを記載しているだけで、内容まで詳細には報告していないのである。それとも利害がある一部の学校が公費を使って役得に預かっているから、公にできないのか。税金を使ってインターンシップを行っているのに、どんな内容か全く公開されないのは、不可解の度合いを超えている。ある意味、これも極めてブラックなインターシップと言えそうである。

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