特に驚くことでもないが、もうこれ以上先送りはできないということか。11月11日、セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループと、傘下の百貨店「そごう・西武」を譲渡する契約を結んだ。これにより、百貨店のそごう・西武はフォートレスのビジネスパートナー ヨドバシホールディングス(HD)により、再建されていくことになる。問題は再建スキームの内容がどうなるのかだ。
以前から報道されているのは、ヨドバシHD傘下のヨドバシカメラが東京・池袋の西武池袋店など一部の都心店舗を取得し家電量販店を展開するということ。これには西武渋谷店やそごう横浜店も含まれる。3店はどれも一等地にあり、集客力は抜群なのだが、ヨドバシHDが乗り出したのはむしろ、不動産価値に目をつけたからと言われる。百貨店という業種が時代に合わなくなっている中で、物を言うのは立地しかないということだろう。
今後、西武の池袋店や渋谷店、そごうの横浜店が高級ブランドや化粧品などのフロアをそのまま残すにしても、新たにヨドバシカメラが低層階に出店するにしても、それは内部で調整し落とし所を探ればいいだけ。しかし、残る地方の7店舗(そごうが千葉店、広島店、大宮店。西武が秋田店、福井店、西武三島ショップ、西武武蔵小杉ショップ)の今後については、現時点では何も発表されていない。むしろ、こちらのスキームの方が気になるところだ。
セブン&アイHDとフォートレスとの売却交渉が表面化した段階で、ヨドバシHDはそごう・西武の地方店舗には無理難題を突きつけたとの憶測が流れた。内容は百貨店としては閉店し、テナントビルとして再出発するもの。だが、そうなると、従業員は一旦、全員解雇となる。テナントでの再雇用の道はあるとしても、労組としては到底受け入れられないはずだ。
しかし、冷静に考えれば、どうだろう。今の小売業界で地方百貨店がどこまで生き残れるか。先日、伊勢丹新宿本店が発表した2022年4~8月売上高は1474億円で、前年同期比38.4%増となり、08年の統合後では過去最高を記録した。好調の要因は年間購買額が100万円以上の自社カード会員の買い上げ比率、外商や高価格帯の売上げが向上したこと。売り上げに占める自社カード会員の買い上げは18年の39%から現在の54%に上昇し、外商は12%から15%へ拡大。時計・宝飾品の売上げ構成は18%に高まっている。
つまり、富裕層が多い首都圏だからこそ、外出自粛が緩和されたことで、伊勢丹本店クラスの買い物客が増えたのだ。しかし、それは地方には当てはまらない。まずライフステージが違うので年収格差があり、富裕層の数も限られる。また、百貨店に対する期待度も、購買頻度も異なる。それでなくてもSCやロードサイドショップなどが充実し、百貨店が無くても生活には困らない。しかも、ネット通販も浸透している。
労働組合が「従業員の雇用を維持しろ」と言ったところで、今の小売り環境を考えると赤字体質の地方百貨店が黒字に転換することなど、どだい無理な話だ。このままの状態なら閉店を余儀なくされ、従業員の解雇も当然の選択になる。仮にヨドバシカメラが再建に乗り出したとしても、同店の商品政策をそのまま百貨店にスライドさせるだけでは厳しい。家電を筆頭に既にあるものばかりだからだ。ないものは同社の通販サイトで購入できる。地方百貨店の受け皿となって従業員を引き継ぎ、店舗としてペイするとは思えない。
もちろん、従業員の生活もあるし、地方経済への影響もある。万策尽きたと切り捨てることはできない。そこはそごう・西武を買収したフォートレス、パートナーとして実際に再建に乗り出すヨドバシHD。そして、今のところ表舞台には出てきていないが、フォートレスの親会社でもあるソフトバンクの3社が再建に向けて英知を傾け、優秀な人材を送り込む必要があるのではないかと思う。
地主の協力がなければ再建は不可能
そごう・西武の地方店の再建スキームはこれから詰められることになると思うが、筆者なりの青写真もある。昨今の小売り環境の変化を考えると、赤字体質の地方百貨店を存続させるのは容易ではないという前提で考えなければならない。スキームは以下になる。
1.建物をそのまま生かし、テナントビルにする
2.建物ごと取り壊し、新ビルを建設する
3.更地にしてレンタル広場にする
1のテナントビルにするについては、まずヨドバシカメラが西武池袋店やそごう横浜店などで自社の業容を展開し、それが軌道に乗ることが前提になるだろう。いきなり、地方店をテナントビルにするだけのデベロッパーのノウハウがヨドバシカメラにはない。同社の既存店のように自社業態を核にサブカルなどのテナントで補完し、加えてそごう・西武のサテライト店(通販対応、外商・受け取り拠点)を置く程度か。西武が渋谷店で展開する「CHOOSEBASE SHIBUYA」のような売らない店は、地方での常設は難しいと思う。
次にビルごと運営をデベロッパーに任せる案がある。委託先の候補としては、横浜のクロスゲートや川崎のダイス、姫路のテラッソなど地方の都市再開発を手がけた東京建物グループの「プライムプレイス」がある。それにしても、熊本のココサが苦戦しているケースを考えると、物販・飲食、エンタメだけで集客は厳しい。鹿児島のセンテラス天文館のように公共施設(自治体の出先機関、図書館など)、オフィスや医療機関を抱き合わせる必要があるだろう。
ただ、福岡の久留米井筒屋跡地の再開発は、自治体が周辺一帯も含めた久留米市中心市街地活性化基本計画に盛り込んだ。井筒屋跡地に完成した「久留米シティプラザ」は、劇場・音楽ホール、イベント広場、物販・飲食からなる複合施設に生まれ変わったが、物販・飲食のテナントは開業半年後から次々と退店している。劇場やホールと複合化したからと言って、必ずしも相乗効果は生まれず、物販・飲食が添え物程度ならお客にも魅力を感じられないようだ。
2は小売り主体の業容は諦め、新しいビルを建設して、オフィスやホテルにするもの。地方百貨店と言えど、立地はどこも中心部にあり、比較的恵まれている。物販では集客は難しいが、オフィスなら地方移転を考える首都圏の企業やベンチャー、スタートアップなどを中心に、首都圏に比べ賃料が手頃なことから移転・新規開設の需要はあるだろう。地方活性化は中心部に賑わいを戻すこと。それにはビジネス関係者を呼び込むことも一手と言える。
また、今後は観光ニーズ・インバウンドが成熟し、団体旅行から個人旅行にシフトしていく。だから、地方を訪れるお客が増加し、宿泊需要が増すことが想定される。自治体は体験や学習といった地元の隠れた魅力を掘り起こす旅行スタイルを提案して旅行客を呼び込むだろうし、ホテル側は自治体とタイアップしコンセプチャルな施設作りに乗り出すと考えられる。ホテルなら全員とは言わないまでも、接客の経験を持つ百貨店スタッフの再雇用の道も広がる。
3はハコ物の家賃収入で利回りさせるモデルから、土地や空間頼みの活用に脱却するもの。そごう・西武の地方百貨店はおそらく、建物にしても土地にしても別にオーナーがいる。彼らは固定資産税を支払うために建物を活用し、家賃収入によって利ざやを稼いできたわけだ。しかし、その主力となる物販ビジネスが地方ではすでに限界が来ていることを考えると、全く逆転の発想が必要なのではないか。
老朽化したビルは取り壊して、更地にする。そこをレンタル広場にして、定期的に事業者や自治体に貸し出す。キッチンカーを含め、飲食関連のイベントは全国で多くの集客を集めているから、それらを実施すればいい。あるいはパフォーマンスやアクションスポーツ(スケボーやBMX)のイベントなら若者を集客できる。敷地の一部をコンクリートの建屋ではなく、プレハブや木造にして期間限定でポップアップストアやカフェが出店できたり、地元作家向けのギャラリーに活用できるスペース(常設展開に向けたマーケティングも)にする手もある。
若者がローコストでビジネスを始められるような場所は、地方の活性化には不可欠だ。そのためにはオーナーが腹を括ること。自治体に泣きついて家賃補助をしてもらったり、久留米のように議員=政治が関わった再開発にしたところで、良い結果はもたらさない。商店街の再生と同じである。地域のことは地域に住む住民が一番よく知っている。地方百貨店についても民間の知恵を活用して再開発していくしかない。
ヨドバシHD、フォートレス、そしてソフトバンクにそうした度量があるかどうか。そこから乗り込む経営陣が果たして地方百貨店に代わる受け皿を作れるか。地域経済の浮揚、地域に即したビジネス発想と実践に期待したい。
以前から報道されているのは、ヨドバシHD傘下のヨドバシカメラが東京・池袋の西武池袋店など一部の都心店舗を取得し家電量販店を展開するということ。これには西武渋谷店やそごう横浜店も含まれる。3店はどれも一等地にあり、集客力は抜群なのだが、ヨドバシHDが乗り出したのはむしろ、不動産価値に目をつけたからと言われる。百貨店という業種が時代に合わなくなっている中で、物を言うのは立地しかないということだろう。
今後、西武の池袋店や渋谷店、そごうの横浜店が高級ブランドや化粧品などのフロアをそのまま残すにしても、新たにヨドバシカメラが低層階に出店するにしても、それは内部で調整し落とし所を探ればいいだけ。しかし、残る地方の7店舗(そごうが千葉店、広島店、大宮店。西武が秋田店、福井店、西武三島ショップ、西武武蔵小杉ショップ)の今後については、現時点では何も発表されていない。むしろ、こちらのスキームの方が気になるところだ。
セブン&アイHDとフォートレスとの売却交渉が表面化した段階で、ヨドバシHDはそごう・西武の地方店舗には無理難題を突きつけたとの憶測が流れた。内容は百貨店としては閉店し、テナントビルとして再出発するもの。だが、そうなると、従業員は一旦、全員解雇となる。テナントでの再雇用の道はあるとしても、労組としては到底受け入れられないはずだ。
しかし、冷静に考えれば、どうだろう。今の小売業界で地方百貨店がどこまで生き残れるか。先日、伊勢丹新宿本店が発表した2022年4~8月売上高は1474億円で、前年同期比38.4%増となり、08年の統合後では過去最高を記録した。好調の要因は年間購買額が100万円以上の自社カード会員の買い上げ比率、外商や高価格帯の売上げが向上したこと。売り上げに占める自社カード会員の買い上げは18年の39%から現在の54%に上昇し、外商は12%から15%へ拡大。時計・宝飾品の売上げ構成は18%に高まっている。
つまり、富裕層が多い首都圏だからこそ、外出自粛が緩和されたことで、伊勢丹本店クラスの買い物客が増えたのだ。しかし、それは地方には当てはまらない。まずライフステージが違うので年収格差があり、富裕層の数も限られる。また、百貨店に対する期待度も、購買頻度も異なる。それでなくてもSCやロードサイドショップなどが充実し、百貨店が無くても生活には困らない。しかも、ネット通販も浸透している。
労働組合が「従業員の雇用を維持しろ」と言ったところで、今の小売り環境を考えると赤字体質の地方百貨店が黒字に転換することなど、どだい無理な話だ。このままの状態なら閉店を余儀なくされ、従業員の解雇も当然の選択になる。仮にヨドバシカメラが再建に乗り出したとしても、同店の商品政策をそのまま百貨店にスライドさせるだけでは厳しい。家電を筆頭に既にあるものばかりだからだ。ないものは同社の通販サイトで購入できる。地方百貨店の受け皿となって従業員を引き継ぎ、店舗としてペイするとは思えない。
もちろん、従業員の生活もあるし、地方経済への影響もある。万策尽きたと切り捨てることはできない。そこはそごう・西武を買収したフォートレス、パートナーとして実際に再建に乗り出すヨドバシHD。そして、今のところ表舞台には出てきていないが、フォートレスの親会社でもあるソフトバンクの3社が再建に向けて英知を傾け、優秀な人材を送り込む必要があるのではないかと思う。
地主の協力がなければ再建は不可能
そごう・西武の地方店の再建スキームはこれから詰められることになると思うが、筆者なりの青写真もある。昨今の小売り環境の変化を考えると、赤字体質の地方百貨店を存続させるのは容易ではないという前提で考えなければならない。スキームは以下になる。
1.建物をそのまま生かし、テナントビルにする
2.建物ごと取り壊し、新ビルを建設する
3.更地にしてレンタル広場にする
1のテナントビルにするについては、まずヨドバシカメラが西武池袋店やそごう横浜店などで自社の業容を展開し、それが軌道に乗ることが前提になるだろう。いきなり、地方店をテナントビルにするだけのデベロッパーのノウハウがヨドバシカメラにはない。同社の既存店のように自社業態を核にサブカルなどのテナントで補完し、加えてそごう・西武のサテライト店(通販対応、外商・受け取り拠点)を置く程度か。西武が渋谷店で展開する「CHOOSEBASE SHIBUYA」のような売らない店は、地方での常設は難しいと思う。
次にビルごと運営をデベロッパーに任せる案がある。委託先の候補としては、横浜のクロスゲートや川崎のダイス、姫路のテラッソなど地方の都市再開発を手がけた東京建物グループの「プライムプレイス」がある。それにしても、熊本のココサが苦戦しているケースを考えると、物販・飲食、エンタメだけで集客は厳しい。鹿児島のセンテラス天文館のように公共施設(自治体の出先機関、図書館など)、オフィスや医療機関を抱き合わせる必要があるだろう。
ただ、福岡の久留米井筒屋跡地の再開発は、自治体が周辺一帯も含めた久留米市中心市街地活性化基本計画に盛り込んだ。井筒屋跡地に完成した「久留米シティプラザ」は、劇場・音楽ホール、イベント広場、物販・飲食からなる複合施設に生まれ変わったが、物販・飲食のテナントは開業半年後から次々と退店している。劇場やホールと複合化したからと言って、必ずしも相乗効果は生まれず、物販・飲食が添え物程度ならお客にも魅力を感じられないようだ。
2は小売り主体の業容は諦め、新しいビルを建設して、オフィスやホテルにするもの。地方百貨店と言えど、立地はどこも中心部にあり、比較的恵まれている。物販では集客は難しいが、オフィスなら地方移転を考える首都圏の企業やベンチャー、スタートアップなどを中心に、首都圏に比べ賃料が手頃なことから移転・新規開設の需要はあるだろう。地方活性化は中心部に賑わいを戻すこと。それにはビジネス関係者を呼び込むことも一手と言える。
また、今後は観光ニーズ・インバウンドが成熟し、団体旅行から個人旅行にシフトしていく。だから、地方を訪れるお客が増加し、宿泊需要が増すことが想定される。自治体は体験や学習といった地元の隠れた魅力を掘り起こす旅行スタイルを提案して旅行客を呼び込むだろうし、ホテル側は自治体とタイアップしコンセプチャルな施設作りに乗り出すと考えられる。ホテルなら全員とは言わないまでも、接客の経験を持つ百貨店スタッフの再雇用の道も広がる。
3はハコ物の家賃収入で利回りさせるモデルから、土地や空間頼みの活用に脱却するもの。そごう・西武の地方百貨店はおそらく、建物にしても土地にしても別にオーナーがいる。彼らは固定資産税を支払うために建物を活用し、家賃収入によって利ざやを稼いできたわけだ。しかし、その主力となる物販ビジネスが地方ではすでに限界が来ていることを考えると、全く逆転の発想が必要なのではないか。
老朽化したビルは取り壊して、更地にする。そこをレンタル広場にして、定期的に事業者や自治体に貸し出す。キッチンカーを含め、飲食関連のイベントは全国で多くの集客を集めているから、それらを実施すればいい。あるいはパフォーマンスやアクションスポーツ(スケボーやBMX)のイベントなら若者を集客できる。敷地の一部をコンクリートの建屋ではなく、プレハブや木造にして期間限定でポップアップストアやカフェが出店できたり、地元作家向けのギャラリーに活用できるスペース(常設展開に向けたマーケティングも)にする手もある。
若者がローコストでビジネスを始められるような場所は、地方の活性化には不可欠だ。そのためにはオーナーが腹を括ること。自治体に泣きついて家賃補助をしてもらったり、久留米のように議員=政治が関わった再開発にしたところで、良い結果はもたらさない。商店街の再生と同じである。地域のことは地域に住む住民が一番よく知っている。地方百貨店についても民間の知恵を活用して再開発していくしかない。
ヨドバシHD、フォートレス、そしてソフトバンクにそうした度量があるかどうか。そこから乗り込む経営陣が果たして地方百貨店に代わる受け皿を作れるか。地域経済の浮揚、地域に即したビジネス発想と実践に期待したい。