昨年、このコラムで提起したヤフーオークションやメルカリでの「転売」問題。11月に販売されたユニクロの「+J」では販売店に早朝から行列ができ、オンラインでもアクセスが集中した。ともに午前10時から発売にも関わらず12時半過ぎにはヤフーオークションに出品され、メルカリでも同日には多数の高額出品が見られた。
「転売ヤー」と言われる輩が転売目的で購入したのは明らかで、一般客が正価で購入できないことに不満の声が上がった。この問題は転売の場所を提供する二次流通事業者だけでなく、転売される可能性がある商品を販売する一次流通事業者にも、対策の必要性を問いかけた。
あれから4ヶ月経った3月17日、メルカリとファーストリテイリングは、メルカリのマーケットプレイス上で、ファーストリテイリンググループの商品が、より安心・安全に取引できる環境の構築を目指し、両社が共同で様々な取り組みを実施する「マーケットプレイスの共創に関する覚書」を締結したと、発表した。(https://about.mercari.com/press/news/articles/20210318_fastretailing_mou/)
ファーストリテイリングは、ユニクロ各店で3月19日から+J復活第2弾の春夏コレクションを発売するため、これを前にメルカリと協定を結び、両社で安心で安全な取引環境を作り上げ、転売目的での購入、購入直後の転売規制に取り組む姿勢を示した形だ。
転売目的かはあくまでメルカリが判断
ただ、問題はその内容である。果たして、転売規制にどこまで実効性を伴うのか。両社の対応を見てみよう。まずメルカリが取り組む以下の2点についてである。
◯ファーストリテイリングからの情報提供に基づいた、「メルカリ」アプリ上や公式ブログでの特定の新商品に関する注意喚起
◯ファーストリテイリングと協議の上、合意した特定の商品について、「メルカリ」の利用規約に違反する出品への削除対応の実施
1項目に挙げられた特定の新商品に関する「注意喚起」程度では、転売を目的とした出品が止まるとは思えない。だから、2項目の「利用規約に違反する出品への削除対応の実施」で規制することになる。では、具体的に利用規約に違反する出品とは何かだ。
規約の第9条第2項は「出品禁止商品」として、メリカリガイドの「禁止されている出品物」に記載された商品の出品ができない、と定めている。(写真)また、該当する商品を出品した場合は、出品者の故意又は過失に関わらず、本規約違反行為とみなす、とある。
ただ、出品禁止商品に「転売を目的とした商品」という項目はない。転売は新品だけに限らず、新古品や中古品もあり得る。そこまで明確に規制すると、メルカリのビジネスモデルが成り立たなくなるわけだ。32項目には「メルカリ事務局で不適切と判断されるもの」とあり、ここには「利用規約に抵触するとみなされるもの」と記載されるだけで、堂々巡りになってしまう。
規約の第9条第6項は「出品に関する本規約違反」として、「出品に関して弊社が本規約又は加盟店規約に違反する又は不適切であると合理的な理由に基づき判断した場合、弊社は第5条に定める措置のほか、その出品やその出品に対して発生していた購入行為等を弊社の判断で取消すことができるものとします」と、している。
つまり、転売を目的とした出品は利用規約に違反するわけではない。あくまでメルカリが合理的な理由に基づいて、その可否を判断するということだ。ファーストリテイリングと合意した特定の商品ということなので、出品者が登録する「ブランド名」やタグの「型番」などがわかるのであれば、メルカリ側が転売目的のための「発売直後の商品」か、あるいは「価格が高額で不適切」かどうかを判断することになると思われる。
それで転売目的で購入した商品の出品を100%防げるかどうか。おそらく難しいだろう。現に3月19日にユニクロが発売した+J春夏コレクションの商品はすでにメルカリ出品が散見される。もちろん、価格は売価より高値がついている。
メルカリが転売阻止に本腰を入れる気があるのなら、AIが出品商品の写真を見て転売かどうかを判断するようなアプリの開発が不可欠だ。さらに出品者には服に縫い付けてあるタグの写真掲載や型番の登録を義務付けるべきである。専任チームが人海戦術でそれらとファーストリテイリングから提供された商品情報とを照合して製造発売日などを確認し、出品に関する本規約違反となれば削除するしかない。果たしてそこまでやる遂げる本気度があるかである。
ユニクロの本音は在庫ロスを出さなければいい
一方、ファーストリテイリングが取り組む項目は以下になる。
◯メルカリに対する、特定の新商品発売情報や商品情報、商品画像などの提供
◯Webサイト等での注意喚起の実施
◯店舗で混乱が起きると予想される場合、入場制限を行うなど、必要な措置の実施
1、2項目はメルカリの対応と呼応する内容だから、こちらでも転売目的の商品購入を防ぐことはできない。3項目の入場制限は昨年発売の+Jでも行われていた。商業施設への入館自体を制限しても、屋外の歩道に行列ができ、開店と同時にお客が殺到すればかえって混乱を招く。転売ヤーは早朝からSCの共用部分では認められる行列の最前列に並ぶわけで、開店と同時に購入されてしまえば何の意味もない。
そこで、ユニクロは公式オンラインサイトで、+Jについては以下のような規制を設けている。
◯店舗・オンラインストアともにおひとり様1商品につき1点、+Jコレクション合計5点までの購入に制限させていただきます。
◯オンラインストアでは、購入制限を超えたご注文は予告なくキャンセルさせていただきます。
◯転売目的のご購入は固くお断りします。弊社が転売目的と判断した場合、ご購入商品の返品はお受けいたしません。
一人当たりの購入点数は、昨年発売の+Jでも1点に制限されていたが、転売ヤーは最高10倍がけで売り捌くのだから、転売のための購入を止まらせるとまではいかなかった。そのため、今回は2項、3項の規制を設けたようだ。ただ、「転売目的の場合は返品を受け付けない」の基準が何なのかは明確でなく、実効性があるかどうかはわからない。
転売ヤーが商品が売れなかったから返品しようとする時、ユニクロが拒否できるのはメルカリなどの出品情報と履歴が残るユニクロのオンライン購入情報とが一致する場合だ。つまり、個人情報が共有されることになるわけで、これは別の問題が発生する。また、転売ヤーが店舗で現金で購入すれば、個人情報が残らないこともある。とすれば、ユニクロ側は転売目的で購入されたとは証明できず、返品を拒否できないのではないか。抜け道は色々ありそうだ。
ヤフーオークションは公序良俗違反かで判断
本音のところでは、メルカリは手数料収入を上げるために売価は高い方がいい。ファーストリテイリングは正規購入だろうと転売目的だろうと、在庫ロスを出さずに完売すればいいのだ。それでも今回、両社が転売防止に向けて協定を結んだのは、メルカリは東証マザーズ、ファーストリテイリングは東証1部の上場企業であることから、転売という公正な取引を妨害する行為に目を背けることはできない事情からだと思われる。
表立って転売防止に向けて動き出したのは、メルカリとファーストリテイリングの2社だ。ヤフーオークションは「公序良俗に反するもの、またはそれらの可能性があると当社が判断した商品等」と、公の秩序(著しく不公平なもの)に反する物は出品禁止にしているものの、販売事業者と協定を結ぶまでには至っていない。+Jの出品は昨年よりは減っているが、ゼロではない。
ただ、今回出品されている+Jに関して言えば、前回のような強気の高額転売とはいかないようだ。わずか3000円くらいの利益上乗せで落ち着いているし、中には正規の販売価格より値崩れしている商品もある。ヤフー側が対策を取ったというより、オークションを閲覧する側が入札に慎重になる市場原理が働いた結果と思う。転売ヤーの思惑通りにはいかないのだ。
出品者の論理ではネットで購入したが、「イメージとは違った」とか、「サイズが合わなかった」とかの理由でオークションで販売するケースもある。だが、落札されずに終了した場合にユニクロ側がこれを転売行為と見なせば、返品を受け付けられないということになる。オークション転売に対する善意、悪意を問わず消費者のことを考えれば、サンプルでいいから実店舗で現物を確かめ、試着できるようにすることも販売事業者の役目ではないか。
もっとも、その他のネット事業者は何ら具体的な動きは見られない。転売ヤーに高値販売の場所を提供している事業者全体が連携しないと、転売のための商品購入も転売そのものの防止も進まないだろうが、要はその気があるかどうかである。
前回のコラムでも書いたが、やはり二次流通の事業者任せでは、公正な取引の妨害は無くせない。激しい競争下にあるネット事業者は悠長なことは言ってられないのだから、儲かることをやめるはずはない。
とどのつまり、消費者庁やデジタル庁がが法規制を持って取り締まることが不可欠と思われる。まさか大臣や官僚がメルカリやヤフーの幹部から接待を受けているわけでもなかろう。だが、法整備が一向に進まないということになれば、無きにしも非ずか。
「転売ヤー」と言われる輩が転売目的で購入したのは明らかで、一般客が正価で購入できないことに不満の声が上がった。この問題は転売の場所を提供する二次流通事業者だけでなく、転売される可能性がある商品を販売する一次流通事業者にも、対策の必要性を問いかけた。
あれから4ヶ月経った3月17日、メルカリとファーストリテイリングは、メルカリのマーケットプレイス上で、ファーストリテイリンググループの商品が、より安心・安全に取引できる環境の構築を目指し、両社が共同で様々な取り組みを実施する「マーケットプレイスの共創に関する覚書」を締結したと、発表した。(https://about.mercari.com/press/news/articles/20210318_fastretailing_mou/)
ファーストリテイリングは、ユニクロ各店で3月19日から+J復活第2弾の春夏コレクションを発売するため、これを前にメルカリと協定を結び、両社で安心で安全な取引環境を作り上げ、転売目的での購入、購入直後の転売規制に取り組む姿勢を示した形だ。
転売目的かはあくまでメルカリが判断
ただ、問題はその内容である。果たして、転売規制にどこまで実効性を伴うのか。両社の対応を見てみよう。まずメルカリが取り組む以下の2点についてである。
◯ファーストリテイリングからの情報提供に基づいた、「メルカリ」アプリ上や公式ブログでの特定の新商品に関する注意喚起
◯ファーストリテイリングと協議の上、合意した特定の商品について、「メルカリ」の利用規約に違反する出品への削除対応の実施
1項目に挙げられた特定の新商品に関する「注意喚起」程度では、転売を目的とした出品が止まるとは思えない。だから、2項目の「利用規約に違反する出品への削除対応の実施」で規制することになる。では、具体的に利用規約に違反する出品とは何かだ。
規約の第9条第2項は「出品禁止商品」として、メリカリガイドの「禁止されている出品物」に記載された商品の出品ができない、と定めている。(写真)また、該当する商品を出品した場合は、出品者の故意又は過失に関わらず、本規約違反行為とみなす、とある。
ただ、出品禁止商品に「転売を目的とした商品」という項目はない。転売は新品だけに限らず、新古品や中古品もあり得る。そこまで明確に規制すると、メルカリのビジネスモデルが成り立たなくなるわけだ。32項目には「メルカリ事務局で不適切と判断されるもの」とあり、ここには「利用規約に抵触するとみなされるもの」と記載されるだけで、堂々巡りになってしまう。
規約の第9条第6項は「出品に関する本規約違反」として、「出品に関して弊社が本規約又は加盟店規約に違反する又は不適切であると合理的な理由に基づき判断した場合、弊社は第5条に定める措置のほか、その出品やその出品に対して発生していた購入行為等を弊社の判断で取消すことができるものとします」と、している。
つまり、転売を目的とした出品は利用規約に違反するわけではない。あくまでメルカリが合理的な理由に基づいて、その可否を判断するということだ。ファーストリテイリングと合意した特定の商品ということなので、出品者が登録する「ブランド名」やタグの「型番」などがわかるのであれば、メルカリ側が転売目的のための「発売直後の商品」か、あるいは「価格が高額で不適切」かどうかを判断することになると思われる。
それで転売目的で購入した商品の出品を100%防げるかどうか。おそらく難しいだろう。現に3月19日にユニクロが発売した+J春夏コレクションの商品はすでにメルカリ出品が散見される。もちろん、価格は売価より高値がついている。
メルカリが転売阻止に本腰を入れる気があるのなら、AIが出品商品の写真を見て転売かどうかを判断するようなアプリの開発が不可欠だ。さらに出品者には服に縫い付けてあるタグの写真掲載や型番の登録を義務付けるべきである。専任チームが人海戦術でそれらとファーストリテイリングから提供された商品情報とを照合して製造発売日などを確認し、出品に関する本規約違反となれば削除するしかない。果たしてそこまでやる遂げる本気度があるかである。
ユニクロの本音は在庫ロスを出さなければいい
一方、ファーストリテイリングが取り組む項目は以下になる。
◯メルカリに対する、特定の新商品発売情報や商品情報、商品画像などの提供
◯Webサイト等での注意喚起の実施
◯店舗で混乱が起きると予想される場合、入場制限を行うなど、必要な措置の実施
1、2項目はメルカリの対応と呼応する内容だから、こちらでも転売目的の商品購入を防ぐことはできない。3項目の入場制限は昨年発売の+Jでも行われていた。商業施設への入館自体を制限しても、屋外の歩道に行列ができ、開店と同時にお客が殺到すればかえって混乱を招く。転売ヤーは早朝からSCの共用部分では認められる行列の最前列に並ぶわけで、開店と同時に購入されてしまえば何の意味もない。
そこで、ユニクロは公式オンラインサイトで、+Jについては以下のような規制を設けている。
◯店舗・オンラインストアともにおひとり様1商品につき1点、+Jコレクション合計5点までの購入に制限させていただきます。
◯オンラインストアでは、購入制限を超えたご注文は予告なくキャンセルさせていただきます。
◯転売目的のご購入は固くお断りします。弊社が転売目的と判断した場合、ご購入商品の返品はお受けいたしません。
一人当たりの購入点数は、昨年発売の+Jでも1点に制限されていたが、転売ヤーは最高10倍がけで売り捌くのだから、転売のための購入を止まらせるとまではいかなかった。そのため、今回は2項、3項の規制を設けたようだ。ただ、「転売目的の場合は返品を受け付けない」の基準が何なのかは明確でなく、実効性があるかどうかはわからない。
転売ヤーが商品が売れなかったから返品しようとする時、ユニクロが拒否できるのはメルカリなどの出品情報と履歴が残るユニクロのオンライン購入情報とが一致する場合だ。つまり、個人情報が共有されることになるわけで、これは別の問題が発生する。また、転売ヤーが店舗で現金で購入すれば、個人情報が残らないこともある。とすれば、ユニクロ側は転売目的で購入されたとは証明できず、返品を拒否できないのではないか。抜け道は色々ありそうだ。
ヤフーオークションは公序良俗違反かで判断
本音のところでは、メルカリは手数料収入を上げるために売価は高い方がいい。ファーストリテイリングは正規購入だろうと転売目的だろうと、在庫ロスを出さずに完売すればいいのだ。それでも今回、両社が転売防止に向けて協定を結んだのは、メルカリは東証マザーズ、ファーストリテイリングは東証1部の上場企業であることから、転売という公正な取引を妨害する行為に目を背けることはできない事情からだと思われる。
表立って転売防止に向けて動き出したのは、メルカリとファーストリテイリングの2社だ。ヤフーオークションは「公序良俗に反するもの、またはそれらの可能性があると当社が判断した商品等」と、公の秩序(著しく不公平なもの)に反する物は出品禁止にしているものの、販売事業者と協定を結ぶまでには至っていない。+Jの出品は昨年よりは減っているが、ゼロではない。
ただ、今回出品されている+Jに関して言えば、前回のような強気の高額転売とはいかないようだ。わずか3000円くらいの利益上乗せで落ち着いているし、中には正規の販売価格より値崩れしている商品もある。ヤフー側が対策を取ったというより、オークションを閲覧する側が入札に慎重になる市場原理が働いた結果と思う。転売ヤーの思惑通りにはいかないのだ。
出品者の論理ではネットで購入したが、「イメージとは違った」とか、「サイズが合わなかった」とかの理由でオークションで販売するケースもある。だが、落札されずに終了した場合にユニクロ側がこれを転売行為と見なせば、返品を受け付けられないということになる。オークション転売に対する善意、悪意を問わず消費者のことを考えれば、サンプルでいいから実店舗で現物を確かめ、試着できるようにすることも販売事業者の役目ではないか。
もっとも、その他のネット事業者は何ら具体的な動きは見られない。転売ヤーに高値販売の場所を提供している事業者全体が連携しないと、転売のための商品購入も転売そのものの防止も進まないだろうが、要はその気があるかどうかである。
前回のコラムでも書いたが、やはり二次流通の事業者任せでは、公正な取引の妨害は無くせない。激しい競争下にあるネット事業者は悠長なことは言ってられないのだから、儲かることをやめるはずはない。
とどのつまり、消費者庁やデジタル庁がが法規制を持って取り締まることが不可欠と思われる。まさか大臣や官僚がメルカリやヤフーの幹部から接待を受けているわけでもなかろう。だが、法整備が一向に進まないということになれば、無きにしも非ずか。