HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

スマホ決済は一過性?

2019-11-27 06:24:20 | Weblog
 個人的に今年の業界トレンドでは、QRコードやバーコードによる「スマートフォン決済」を挙げたい。2度の100億円キャンペーンを実施した「PayPay」をはじめ、楽天、LINEなどいろんな企業が参入し、急激に浸透している。

 筆者が住む福岡市では、昨年から自治体が「キャッシュレスに関する実証実験プロジェクト」を主導し、今年4月からは役所の窓口、施設で「QRコード決済(LINE Pay、Naver Pay、WeChat Pay)」が利用できる。プロジェクトは3月末で終了しているが、実験に参加した事業者は天神、大名、今泉の衣料品や飲食店、屋台、博多川端通商店街、商業施設の博多リバレインモール、タクシー、ドラッグストア(新生堂)、福岡空港など多岐にわたった。

 これらのどれほどが4月以降、 QRコード決済を本格導入したのかはわからない。だが、中国や韓国を中心にアジアからの観光客を誘客していくこと、また、東京でスマホ決済になれたビジネスマンの出張や転勤が多いという街の性格を考えれば、今後も導入していく事業者はあると思う。ただ、日本全体ではどこまで普及するのか。そして、本当にスマホ決済は便利な支払い方法として定着するのだろうか。

 スマホ決済が急速に普及したのは、中国だ。背景には、パソコンを飛び越えてスマートフォンが先に浸透したことがある。また、決済を手がけるAlipayやWeChat Payが莫大なマーケティング費用を注ぎ込んだことも要因と言われる。そして、何より決済手数料が安い(平均で0.6%未満/屋台などで使われるユーザースキャン型では無料)ことだ。信憑性のほどはわからないが、偽札が横行し国がそれを抑えるためにスマホ決済を普及させたという説もある。


操作性はFeliCaが優る

 では、外国人旅行者が日本で利用するのは別にして、日本人のスマホ決済が国内で定着するのかどうか。これについて筆者は正直、懐疑的と見ている。理由は既存の決済方法との比較や手数料、セキュリティ、通信トラブルや端末の問題だ。また、自分のライフスタイル上での体験から、利用しなくても特に不便さ感じない点もある。

 まず、既存の決済方法と比べると、本当に利用しやすいかと言えば?がつく。実際にこんな状況に遭遇した。「高速バス」の運賃支払いをスマホ決済にしていた日本人の乗客がいた。バスを降車する際、いろんなアプリの中からバスチケット専用を選んで使用しようとしたが、うまくいかずに何度もやり直すので、筆者を含め後に並んでいる乗客はイライラさせられた。運転士が説明しても慣れていないからか、アプリを何度も立ち上げるので、却って手間がかかってしまったのだ。

 このお客は、「バスもり」というアプリをスマホにダウンロードし、高速バスのスマホ回数券を購入していた。これは4枚綴りで行き先、運賃は事前に決まっている。降車地が近づいてアプリを立ち上げ、「乗車券をもぎる」という画面をスライドさせ、チェック画面を出したまでは良かったが、チェックを入れたのか入れ損なったのか。運賃箱の横に貼ってあるバーコードを読み取るカメラがうまく起動せずにもたもたしたのだ。

 慣れれば、スムーズにできるのかもしれないが、 FeliCa系カード、いわゆる非接触のプリペイドICカードなら乗車時と降車時に財布に入れたままかざすだけで、はるかに手間はかからない(割引運賃にはならないが、鉄道会社系の店舗などで商品を購入するとポイントがつく)。仮にスマホ決済を「路線バス」に導入するとなると、交通系だけなく、PayPayや楽天、LINE、WAONなどあらゆる決済システムに対応しながら、主にバスを利用する高齢者はカード利用だから、地域特性に合致するのかという課題も浮かび上がる。

 ショッピングや飲食の場合は、レジ待ちするケースはそれほどないので、金額を打ち込んでQRコードを読み込むだけで決済できるのは便利だ。しかし、クーポン券を利用するとなると、また手間がかってしまう。そう考えると、コンビニなど少額の支払いなら良いが、高額な商品を購入するときは、クレジットカードの方が安心できる。しかも、日本ではスマホ決済の手数料がキャンペーン期間を除けば3.24%と、クレジットカードの3.00%程度より高いのだ。メリットはあまりないから、利用範囲は極めて限られるのではないか。


中国とは事情が違う日本

 中国の決済手数料が安いのは、AlipayやWeChat Payといった「第三者決済組織」が国内外の複数の銀行に口座をもって直接接続していて、利用者の清算と利用先店舗への支払いの両方を行えるからだ。従来、リアル店舗で買い物や食事をした時のオフライン決済は、店舗にステッカーが貼ってある「銀聯カード」が独占していた。だが、中国の人民銀行がAlipayやWeChat Payにも開放したことで、競争が働いて手数料が下がったのである。日本とは違い通信インフラ整備が後発で、スマートフォンに集約されたからそれが可能になるわけだ。



 先日、上海に出店したあるブランドショップのオーナーが、「中国人客は50万円程度の買い物でも、平気でスマホ決済していく」と話していた。それは通信インフラの環境がそうさせるわけで、日本とは根本的に異なる。ITの進化は日進月歩で、低コスト化が進んでいる「ICタグ」が普及すれば、それを使って決済、データ管理まで行えるようになる。いちいちスマホでコードを読み取って金額を入力、確認する手間は必要でなくなるのだ。

 当然、中国だってそうするかもしれない。今は新しいスマホ決済でも、すぐに古くなって見向きもされない可能性がある。かたや日本は台風、地震と災害が非常に多いため、保守管理が不可欠なのはアンテナを必要とする携帯電話だけではない。光通信をはじめとしたいろんなインフラを維持しなければならないことを考えれば、スマホ決済に一本化されて広く浸透していくとは考えにくいのだ。逆に一過性のブームで終わることも、十分にあり得ると思う。

 さらにセキュリティの問題がある。セブンイレブンが導入した「7pay」では、登録者のアカウントに不正にアクセスしてIDとパスワードを盗んだ犯人が、電子マネー4万円分を騙し取った事件は記憶に新しいところだ。7payは1日のチャージ上限が30万円と高額なことで、狙われたと見られる。しかも、 クレジットカードから何度もチャージでき、支払う時に個人認証もパスワードも必要ないというから、セキュリティなどあったものではない。

 もし、中国の犯罪組織が日本をターゲットにしているとすれば、今後もあらゆる手段でセキュリティを破って来ることも考えられる。それについて、日本のスマホ決済各社がどこまでセキュリティを万全にしていくのか、利用者にはよくわからない。7payは対策が杜撰だったと片付けるのは簡単だが、各社が安全対策をより重視してセキュリティに投資するのなら、応分のコストがかかるから、手数料が下がるとは考えにくいのだ。

 各社はクレジットや専用のカードと紐付けし、そのプラットフォーム上でオフラインにおける支払いでスマホ決済を可能にしている。とすれば、間にスマホが入る分、システムが複雑になり新たなリスクが発生する可能性は高い。結局、各自でリスクを見極め、自己責任になるのであれば、少額チャージにならざるを得ないし、FeliCa系カードで十分と言える。リスクヘッジのためにキャリアを増やす(スマホを複数所有する)ほどバカげたことはない。


電池切れも破損もないカード



 筆者はライフスタイル上、パソコンのヘビーユーザーであり、ネットショッピングではPC、クレジットカード決済を利用する。画面が小さいスマホでは商品確認がしづらいため、情報を収集するくらいに止め、店舗で現物の商品を見るか、改めてPCで確認してから、購入するか否かを決める。ただ、キャッシュレス決済そのものは否定しないので、鉄道系FeliCaカードの「nimoca」を利用している。

 これは福岡市に本拠を置く私鉄の西日本鉄道が発行するもので、電車、バス、同系列の商業施設(ポイントが貯まる)はもとより、地下鉄(福岡市交通局)、JR(JR九州)で利用が可能だ。2010年からはJR東日本の「Suica」と相互利用が始まり、東京出張では非常に重宝している。羽田に着くと、カードを財布に入れたまま京急に乗り継げるので、都内移動が非常にスムーズだ。もちろん、地下鉄やJR、私鉄各社、モノレール、ゆりかもめでも同様に利用できる。

 都内の店舗では、コンビニはすべてOK。百貨店、駅ビルはもとより、スーパーも大手、ローカルを問わず使える。カフェ、ファストフーズも利用可だ。銀座の「伊東屋」では文具をはじめ、翌年のダイアリーやカレンダーを購入する時にも使っている。あんぱんの「木村屋」でも利用できたのには正直、驚いた。満額2万円をチャージしておけば、2〜3日の出張では交通費と食事、買い物には十分だ。仮に紛失したとてもそれほど堪えないし、何より軽いのがいい。
 
 スマートフォンはバッテリーが切れると利用できない。そのためにモバイルバッテリーまで持ち歩くのは完全にスマホに支配された感じがする。破損や紛失のリスクもある。できればこれ以上、物は持ちたくない。昨年はスマホ決済元年とも言えたので、アクセス集中による高負荷が原因で、Kyashで決済処理の遅延・エラーが発生した。また、PayPayでは決済処理で「輻輳」(一カ所に集中すること)が起こり、決済したにも関わらず、何度も入力したことによる二重決済が起きている。

 ごく最近も障害が発生した。11月23日早朝、九州電力の通信子会社「QTnet(福岡市)」のデータセンターで、電源設備の更新作業中にサーバーが電源を失って停止し、「楽天ペイ」が利用できなくなった。26日18時の時点で約260社中まだ16社が復旧作業を継続中だが、やはり通信障害が起こるとスマホ決済が使えなくなるのは厄介だ。

 まあ、キャンペーンで利用が集中したことを割り引いても、スマートフォンは通信端末だけに障害リスクはカードより高いのではないか。もし何らかのトラブルが発生すると、地下鉄の改札を出られないってことが無きにしもあらずだ。これはカードでも同じなのだが、あのフラップドアが急に閉じたり、自動改札機が赤く点灯した時ほど、赤っ恥はない。

 政府がキャッシュレス決済を推進するのは、「10%消費税の痛税感を和らげるのは狙い」とも言われるが、大枚をはたき税負担を感じるほど買いたい商品はほとんどない。むしろ、都会生活をする上では、なるべくリスクを分散して、そつなくスマートに生きていきたい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする