HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

虫が良過ぎる新戦略。

2019-03-20 04:37:45 | Weblog
 繊研PLUSが3月14日、15日に「ゾゾ前澤社長が語るZOZOARIGATOの真相と新戦略」と題して、有料会員サービス導入の真意と今後の方針について取り上げた。

https://senken.co.jp/posts/zozo-president-interview-190313
https://senken.co.jp/posts/zozo-president-interview-190314

 
 前澤社長は「さらに成長していくためには、少なくとも価格面でリアルモールに劣っている状態は芳しくない。『ゾゾタウンで商品を見て店で買う』客を対象にアンケートを取ると、『試着したいから』に次いで多かった理由は『店の方が安いから』でした」と、語っている。

 つまり、ZOZOARIGATOを導入した背景には、多くのお客をECに誘導するには、やはり「価格」抜きにはなし得ないということ。お客からすれば、マスマーケットに流れる商品はバーチャルだろうと、リアルだろうと100円でも安いところで買いたい。少なくとも、ZOZOTOWNはそう判断した模様だ。

 ここで気になるのはアンケート結果で価格より上位にあった「試着したいから」である。これについての施策は、記事では何も語られてはいない。繊研のインタビュアーが問い質さなかったのか。それとも質問したが、活字にするほど明確な答えが返って来なかったのか。それとも、施策として今のところ取り組む考えがないのか。

 どれにしても、前澤社長はECという決まったバーチャルなフォーマットからはズレたくないようである。それは「業界全体のEC比率を加速度的に上げていく」と、首尾一貫していることからもわかる。ZOZOTOWNは単独の実店舗、リアルSCよりはるかに品揃えは多いので、お客の「欲しい商品が見つかる」との期待感は高く、それが集客にもつながりやすい。

 さらにECにおけるお客の買い物行動はモールでブランドを検索し、購入したい商品のサイズ、スペックを確認、価格(ARIGATO会員の場合は割引も)をチェックすれば、後は購入を決めるとカートに入れて決済するだけ。この一連の流れは今後も大きく変わることはないだろう。

 ECでもお客の購買心理がAIDMAの法則(注意、興味、欲求、比較検討、行動)に沿って動くのは一緒のはずだが、売る側はリアル店舗で行うような棚やラックからの品出し、選び直し、試着落ち後の畳み直し、棚やラックへの戻し、整理整頓などの一連の作業は必要でなくなる。注文を受け、倉庫からピッキング、梱包、発送という別作業は発生するにしても、リアル店舗にあるような不規則で、ムダと思える作業は発生しない。

 つまり、ECでは商品提案から購買までがシステマチックに進む。売上げになるまでの勝負が非常に速いので、小売りビジネスとしては非常に効率が良いのだ。商品を受け取ってサイズが合わないとか、イメージしたものと実際の商品が違ったなどで返品に至るケースもあるが、これについてZOZOTOWNは細かく条件を付け、返却要領という手間をお客に課すことで、低減できるとの腹づもりなのだろう。「EC比率を加速度的に上げていく」という言葉に前澤社長の自信が漲る。

 まあ、返品が面倒なお客は、ZOZOUSEDやメルカリ、ネットオークションといった二次流通があるのだから、「気に入らなければ売っぱらえばいい」と、「試着なし」でのEC購入はハードルが格段に低くなっている。逆に「試着あり」はECではわからないフィット感や着心地、バーチャルでは絶対に不可能な「触感」、いわゆる生地感や肌触りが確かめられる。それはリアル店舗ではお客を購入に誘う決め手になる。

 しかし、ZOZOTOWNが「試着もできる(お試し拠点の開設など)」のサービスを付加すると、かえってお客に購入を躊躇わせたり、会計上で売上げが上がらないのに(取り寄せるのみでキャンセルの場合)返却コストが発生するというマイナス要因を生む。筆者には前澤社長が顧客アンケートで挙がった試着への取り組みに触れなかったのは、「そんなに試着をしたければ、リアル店舗に行けばいい」が本音だからのような気がする。ZOZOTOWNが追求するECは、あくまで効率重視、非効率無視なのだ。



 そして、もう一つがPBの失敗から学んで掲げる新戦略である。前澤社長は「ゾゾスーツで得た『100万件以上の体形データを活用』。ユーザーの体形に応じた多サイズ展開での販売プラットフォームをブランドに開放し、ブランド企画のアイテムを開発・販売し、顧客ニーズの多様化に応えます」という。

 「物作り・MD支援なども提供できる新しいプラットフォームへ進化します。ブランドには定番品やシーズンアイテムを30~50サイズの多サイズで作ってもらい、1品番で1万~10万枚売ることを目標とします」とのことだが、果たしてそれが可能なのだろうか。

 確かに100万件以上の体型データは貴重なものだ。それがあったからこそ、PBのスリムテーパードデニムパンツは約21万本、無地Tシャツ約7万枚が販売できたと言えば、そうかもしれない。しかし、実際に0.5cm刻みのような細かいサイズが売れたかどうかはわからない。中には既成服のサイズ展開ではフィットするものがないイレギュラーサイズのお客もいたと思うが、その絶対数はそれほど多くないと思う。

 そもそも、ZOZOTOWNはPBのオーダースーツもデニムパンツもTシャツも、予めのサイズバリエーションで、ある程度の在庫を抱えていたのが事実だろう。お客の注文サイズと合致するものについては、手持ち在庫をそのまま発送し、計測したデータのサイズがないものは既製パターンに沿って新たに縫製したわけだ。だが、スーツに限っては、計測データがお客の体型サイズを正確に表していなかったり、中国の生産工場から商品到着まで最大5カ月も遅れたりと、失態が続いている。

 結局、オーダーメイドという触れ込みで、膨大なサイズバリエーションの在庫を準備した割にそこまで細かな注文が来なかったことなどから、PB事業は最終的に125億円の赤字に陥ったのではないのか。

 しかも、ゾゾスーツとスマホアプリで計測したサイズデータでは、正確さを欠いている。きちんと測ったにも関わらず、スーツのパンツ丈が実寸より短い仕上げで送られて来たなどのクレームがSNSに投稿されている。ここまで来れば、オーダー以前に生産管理すら杜撰ということになる。前澤社長はアプリケーションソフトに修正を加えるようなことを語っていたが、どこまで計測精度、サイズ把握が向上するかは未知数だ。

 しかも、新戦略ではZOZOTOWNがサイズデータを提供する代わりに、ブランド側に生産と在庫リスクを負ってくれという意味ではないのか。 いくら定番デザインで「1品番で1万~10万枚売る」ことを目標にしたからと言って、サイズバリエーションのみでそこまで売れるアイテムが本当にあるのだろうか。

 中国の文化大革命時代のように国民のほとんどが「人民服」を着るならいざ知らずだが。フィット感が重要なスーツにしても、パターンオーダーを含めてウール系既成服の需要は格段に下がっている。サイズ面でフレキシブルなストレッチ系が急速に伸びていることを考えると、サイズバリエーションにそこまでの実需があるとは考えにくい。

 まして、ZOZOTOWNがとる「受託ショップ事業」は、数を売ればそれだけ自社に歩率が入るので収益は上昇する。しかし、今度の新戦略では「ブランドには定番品やシーズンアイテムを30~50サイズの多サイズで作ってもらい」ということから、ZOZOTOWN側は「生産」も「在庫リスク」も負わないと受け取れる。「商品はすべて買い取る」という意思表示はどこにもない。出店するアパレルメーカーにしてみると、単に「売る目標」をちらつかせるだけでは、「あまりに虫が良過ぎるのでは」との印象は拭えない。

 一般的に、メーカーが展開するサイズバリエーションは、メンズ、レディスともXS、S、M、L、XL、XXLくらいか。多くても欧米表記の28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48だろう。これでも、生産枚数は各サイズ均等ではない。日本ではどうしてもMやL、 36〜40のレギュラーサイズが多く売れるので、枚数は多めに生産する。それが30~50サイズまで広がっただけでも、どこまで生産量や負担在庫が増えるのか。しかも、定番デザインと言っても色や型のあるのだから、メーカーとしても想像がつかないと思う。

 そもそも、ZOZOTOWNに出店するブランドの多くは、企画やデザインで勝負したいところが大半だろう。ターゲットは比較的若い層と幅が狭くなるから生産ロットは少ないが、確実に在庫を消化したいために市場を広げられるモール出店をしているわけだ。そんなメーカーが定番デザインで、多サイズ展開というMDスタイルに馴染むとは思えない。それが可能なら、ZOZOTOWNなどに頼らず、自社で販売ノウハウを構築しているはずである。

 前澤社長は自らツィッターを休止すると宣言し、それが投資家の関心を引いたのか、株価はやや回復している。今回の新戦略ついても企業経営者としては語るのは当然だが、その内容はアパレル音痴の投資家に忖度したようにも感じる。しかし、メーカーにはあまりに荒唐無稽と受け取られかねない。「シーズンアイテムを50サイズ」「1品番で10万枚売る目標」を真に受けるところがあるとすれば、「正気の沙汰」とは思えないのである。


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