福岡久留米発祥のシューズメーカー、月星。現在の社名は英語読みした「ムーンスター」に変更されている。月星と言えば70代以上は地下足袋、50代以上は学校の上履きの方が親しみがある。筆者が小学生の時、海外ドラマの影響から親にねだって買ってもらったのも、同社のハイカット(レースアップ)の“バッシュー”だった。
母校の奈良屋小学校(現:博多小学校)の正門を出て数分歩くと、月星の営業所があった。事務所の硝子越しに飾ってあったシューズは、学校の帰りに他校の生徒までが見にくるほどの人気だった。
当然、眺めると欲しくなる。営業所の人に「売ってよ」と告げると、「うちは小売りはやってないのよ」との答え。流通のことなど知らない小学生に理解できるはずもない。でも、あまりに子供たちが見に来るので業を煮やしたのか、年に数度、売り出しをやってくれたような記憶がある。
中学時代にはロンドンブーツ影響から、レースアップを上げ底にしたものが、原宿を中心に出回っていた。くるぶしのところに付いたロゴマークが「べンチャー」っぽかったので、月星の特注品ではなかったかと思う。それから、大学に入るとナイキのコルテッツやトップサイダーのデッキシューズが流行ったこともあり、月星ブランドからは遠ざかっていた。
昨今はセレクトショップがスニーカーの別注に力を入れていることから、ムーンスターも量販ルートに乗せないブランドを開発している。昨年、ネットで見かけた「シューズ ライク ポタリー」や「ライフ イズ ジャーニー」もそうだ。
もっとも、実際に購入するとなると、サイズ感や履き心地は試着しないとわからない。だから、取扱い店を探すのだが、この検索が難しい。セレクトショップ向けの卸は、一部の個店に限られており、片っ端から連絡するも近隣では中々取扱店が見つからない。すると、コムデギャルソン福岡店が入るビルの2階にある雑貨店「ディアンドデパートメント フクオカ」が期間限定で展示するという情報を得た。
早速、出かけていくと、そこにあったのはムーンスターでも、定番のローバスケットやデッキスポーツ、ジムクラシックだった。試着はでき、サイズ感はつかめたが、ライフ イズ ジャーニーは置いてなかった。結局、その時は購入を諦め、翌シーズンに期待することにした。
2017年はどんなタイプが発売されるのか。春先からムーンスターのホームページをチェックし目にとまったのが、「ダイレクトインジェクション製法」の「RALY」だ。キャンバス地のアッパーに直接ソールが成形されたシンプルなデザインで、中敷きがなく足にしっかりフィットするという。愛用のアディダスよりやや横広で、日本人の足には馴染むと思うし、汗かきの筆者には足がグリップされるのがなりよりだ。
ロゴマークなども一切入っておらず、一見、無印良品が作りそうにも思う。ただ、ムースターのホームページで「CHIC INJECTION」のタイトルの動画を見ると圧倒された。 http://moonstar-manufacturing.jp/chic-injection/ 人気のない工場でアルミ製の型を作るシーンから始まる映像からは、MADE IN KURUMEの高い技術力が伝わり、蘊蓄無しで製品を買う気にさせられる。
ところが、これも取扱い店は近隣では見つからない。久留米市内のコンセプトギャラリーまで出かければ、サンプル試着ができるかもしれないが、それもかなり面倒だ。 手っ取り早く購入するには、ムーンスターのオンラインショップか、ゾゾタウンに出店するビームスのサイトになる。ムーンスターでは「返品は受け付けない」との決まり。結局、ビームスの実店舗を当たるも取扱いがなく、ゾゾタウンを選択するしかなかった。
ゾゾタウンでは過去、何度か靴を注文している。しかし、サイズ表記やレビューを参考にしただけでは自分の足には合わず、止むなくすべて返品せざるを得なかった。今回もそのトラウマがあるので、購入にはかなり躊躇した。またアディダスで自分のジャストサイズに当たる26cmが、RALYでは完売していることも焦りを生んだ。
まあ、そうそう好みのスニーカーには巡り会えないので、26cmが入荷と同時に25cmと2タイプを注文した。レビューに「通常は25cmを履いているが、今回は26cmの方がフィットした」と書かれていたので、なおさら惑わされてしまったのだ。サイズが0.5cm刻みではないので、それほど選択の幅はないが、届いて試着して見ると自分には25cmで良かった。
同社では久々の購入、返品なので、改めて電話で要領を確認した。すると、担当者はきめ細かく商品の「状態」をたずねて来た。「商品に汚れはないか」「タグは付いているか」「箱は破れていないか」「付属品は無くしていないか」等々。以前はそこまで詳しく念押しされたことはなかった。
言い換えると、ECの伸びと並行して返品も増え、お客の中には「商品をぞんざいに扱っている」ケースが増えているのではないか。メーカーならECにおいて、ある程度の返品ロスは織り込み済みだろう。でも、小売り業者は商品が売れることなく返品され、なおかつ再販できないのなら、収益にもろ響いてくる。
これから夏にかけて素肌に着ける商品は、汗染みが付かないとも限らない。外履きのスニーカーではフットカバーを付けるにしても、試着するのにわざわざ新品や洗濯したそれに履き替えるお客はいないだろう。店舗でも履いている靴を脱いで試着するから、自宅に届いた商品に対しても同じはずだ。しかし、足の臭いには個人差があるし、通販では店の様にスタッフが接客対応をしない。当然、返品された状態もケースバイケースだと思う。
筆者はRALYを2足注文する時点で1足は返品する前提だった。だから、届いたその日にサイズを確認するつもりで、新しいソックスを履いて試着した。そして、事務所のフローリングの上に敷いた洗濯したてのバスタオルの上で試し履きした。担当者にも返品商品に「瑕疵がない」ことを自信を持って告げた。返送には運送事故のリスクを考え、履歴がわかるゆうパックで使ったので、送料が1300円近くかかったが、これも最初から覚悟の上だ。ただ、ここまでやるのは、何度もできることではない。
ECで販売される国内ブランドは、せめて店舗でも試着ができないかと思うが、ブランドの中には店舗商品=EC商品ではないケースも多々ある。店舗商品の方が気に入れば、接客を受けたり、試着して購入するかを決めればいいが、EC商品を購入したい場合、店舗では取り扱っていないというのがいちばん困る。まあ、返品すればいいのだろうが、いろんな規定もあるし、発送の手間や輸送事故などのリスクもある。
店舗によってはネットで注文し、店舗で受け取るような仕組みを整えているところもあるが、それは店舗とECの商品がほぼ共通だから、メリットはそれほど感じない。ここまで来ると、ECビジネスはお客の側に主導権を渡さないよう購買に誘う戦略なのかとさえ思えてくる。
アパレルや小売り各社の決算発表をみると、一様に昨年対比では店舗売上げが鈍化またはマイナスで、ECは伸びている。分母が違うので一概には比較はできないが、実店舗での接客や試着をカバーする仕組みが完全にECビジネスを支えているのは、確かだろう。
もはや、お客が現物を試着をしないで購入するのは、すっかりトレンドとして定着したようだ。業績が絶好調なメルカリの経営者に言わせると、「お客は1万円のドレスを購入しても5000円で売れれば、半額でシェアした感覚になる」のだとか。だから、返品が面倒なら、しばらく身につけて「売ればいい」という意識なのだろう。
しかし、靴は難しい。足の形は人種や民族で異なる。大きく分けてエジプト型、ギリシャ型、スクエア型と3種ある。エジプト型は母趾が一番長いタイプで、日本人の7〜8割がこのタイプだ。だから、先細の靴を履くと、外反母趾になりやすい。欧米人はギリシャ型で第2趾が一番長いタイプ。スクエア型は母趾と第2趾が同じくらいの長さだ。
当然、革靴はもちろん、スニーカーもブランド母国の民族に合わせた木型で、作られているから、足に合う合わないは出てくる。それを考えると、日本人には日本のメーカーがいちばん合うはずだ。それに足には「ツボ」が集中しているから、なおさらフィットしない靴を履くと健康にも影響する。スニーカーはそこまでないにしても、足が滑ったり、靴擦れを起こすと、履くのを躊躇ってしまう。
だから、購入時には試着が絶対に必要になる。EC先進国の米国でも靴の通販では30%が返品されるというから、試着しないことがいかに販売を難しくさせているのかとも言える。こうした問題をどう解決していくか。「合わなければ、ユーズドサイトで売ればいい」という効率重視のビジネス観だけで見過ごせるとは思えない。
筆者は商品購入でも素材からインスピレーションし、スイッチが入る。直感で好きと感じた商品が試着できないと、買う気も削がれてしまう。数%しかいない層だからECのマーケットからは外れて当然なのだが、ECシステムだけで捉えられない=取り逃がしたところにもマーケットは出現するのではないか。ビジネスの趨勢、トレンドを捨てたところにも、新たなチャンスがあると思う。
母校の奈良屋小学校(現:博多小学校)の正門を出て数分歩くと、月星の営業所があった。事務所の硝子越しに飾ってあったシューズは、学校の帰りに他校の生徒までが見にくるほどの人気だった。
当然、眺めると欲しくなる。営業所の人に「売ってよ」と告げると、「うちは小売りはやってないのよ」との答え。流通のことなど知らない小学生に理解できるはずもない。でも、あまりに子供たちが見に来るので業を煮やしたのか、年に数度、売り出しをやってくれたような記憶がある。
中学時代にはロンドンブーツ影響から、レースアップを上げ底にしたものが、原宿を中心に出回っていた。くるぶしのところに付いたロゴマークが「べンチャー」っぽかったので、月星の特注品ではなかったかと思う。それから、大学に入るとナイキのコルテッツやトップサイダーのデッキシューズが流行ったこともあり、月星ブランドからは遠ざかっていた。
昨今はセレクトショップがスニーカーの別注に力を入れていることから、ムーンスターも量販ルートに乗せないブランドを開発している。昨年、ネットで見かけた「シューズ ライク ポタリー」や「ライフ イズ ジャーニー」もそうだ。
もっとも、実際に購入するとなると、サイズ感や履き心地は試着しないとわからない。だから、取扱い店を探すのだが、この検索が難しい。セレクトショップ向けの卸は、一部の個店に限られており、片っ端から連絡するも近隣では中々取扱店が見つからない。すると、コムデギャルソン福岡店が入るビルの2階にある雑貨店「ディアンドデパートメント フクオカ」が期間限定で展示するという情報を得た。
早速、出かけていくと、そこにあったのはムーンスターでも、定番のローバスケットやデッキスポーツ、ジムクラシックだった。試着はでき、サイズ感はつかめたが、ライフ イズ ジャーニーは置いてなかった。結局、その時は購入を諦め、翌シーズンに期待することにした。
2017年はどんなタイプが発売されるのか。春先からムーンスターのホームページをチェックし目にとまったのが、「ダイレクトインジェクション製法」の「RALY」だ。キャンバス地のアッパーに直接ソールが成形されたシンプルなデザインで、中敷きがなく足にしっかりフィットするという。愛用のアディダスよりやや横広で、日本人の足には馴染むと思うし、汗かきの筆者には足がグリップされるのがなりよりだ。
ロゴマークなども一切入っておらず、一見、無印良品が作りそうにも思う。ただ、ムースターのホームページで「CHIC INJECTION」のタイトルの動画を見ると圧倒された。 http://moonstar-manufacturing.jp/chic-injection/ 人気のない工場でアルミ製の型を作るシーンから始まる映像からは、MADE IN KURUMEの高い技術力が伝わり、蘊蓄無しで製品を買う気にさせられる。
ところが、これも取扱い店は近隣では見つからない。久留米市内のコンセプトギャラリーまで出かければ、サンプル試着ができるかもしれないが、それもかなり面倒だ。 手っ取り早く購入するには、ムーンスターのオンラインショップか、ゾゾタウンに出店するビームスのサイトになる。ムーンスターでは「返品は受け付けない」との決まり。結局、ビームスの実店舗を当たるも取扱いがなく、ゾゾタウンを選択するしかなかった。
ゾゾタウンでは過去、何度か靴を注文している。しかし、サイズ表記やレビューを参考にしただけでは自分の足には合わず、止むなくすべて返品せざるを得なかった。今回もそのトラウマがあるので、購入にはかなり躊躇した。またアディダスで自分のジャストサイズに当たる26cmが、RALYでは完売していることも焦りを生んだ。
まあ、そうそう好みのスニーカーには巡り会えないので、26cmが入荷と同時に25cmと2タイプを注文した。レビューに「通常は25cmを履いているが、今回は26cmの方がフィットした」と書かれていたので、なおさら惑わされてしまったのだ。サイズが0.5cm刻みではないので、それほど選択の幅はないが、届いて試着して見ると自分には25cmで良かった。
同社では久々の購入、返品なので、改めて電話で要領を確認した。すると、担当者はきめ細かく商品の「状態」をたずねて来た。「商品に汚れはないか」「タグは付いているか」「箱は破れていないか」「付属品は無くしていないか」等々。以前はそこまで詳しく念押しされたことはなかった。
言い換えると、ECの伸びと並行して返品も増え、お客の中には「商品をぞんざいに扱っている」ケースが増えているのではないか。メーカーならECにおいて、ある程度の返品ロスは織り込み済みだろう。でも、小売り業者は商品が売れることなく返品され、なおかつ再販できないのなら、収益にもろ響いてくる。
これから夏にかけて素肌に着ける商品は、汗染みが付かないとも限らない。外履きのスニーカーではフットカバーを付けるにしても、試着するのにわざわざ新品や洗濯したそれに履き替えるお客はいないだろう。店舗でも履いている靴を脱いで試着するから、自宅に届いた商品に対しても同じはずだ。しかし、足の臭いには個人差があるし、通販では店の様にスタッフが接客対応をしない。当然、返品された状態もケースバイケースだと思う。
筆者はRALYを2足注文する時点で1足は返品する前提だった。だから、届いたその日にサイズを確認するつもりで、新しいソックスを履いて試着した。そして、事務所のフローリングの上に敷いた洗濯したてのバスタオルの上で試し履きした。担当者にも返品商品に「瑕疵がない」ことを自信を持って告げた。返送には運送事故のリスクを考え、履歴がわかるゆうパックで使ったので、送料が1300円近くかかったが、これも最初から覚悟の上だ。ただ、ここまでやるのは、何度もできることではない。
ECで販売される国内ブランドは、せめて店舗でも試着ができないかと思うが、ブランドの中には店舗商品=EC商品ではないケースも多々ある。店舗商品の方が気に入れば、接客を受けたり、試着して購入するかを決めればいいが、EC商品を購入したい場合、店舗では取り扱っていないというのがいちばん困る。まあ、返品すればいいのだろうが、いろんな規定もあるし、発送の手間や輸送事故などのリスクもある。
店舗によってはネットで注文し、店舗で受け取るような仕組みを整えているところもあるが、それは店舗とECの商品がほぼ共通だから、メリットはそれほど感じない。ここまで来ると、ECビジネスはお客の側に主導権を渡さないよう購買に誘う戦略なのかとさえ思えてくる。
アパレルや小売り各社の決算発表をみると、一様に昨年対比では店舗売上げが鈍化またはマイナスで、ECは伸びている。分母が違うので一概には比較はできないが、実店舗での接客や試着をカバーする仕組みが完全にECビジネスを支えているのは、確かだろう。
もはや、お客が現物を試着をしないで購入するのは、すっかりトレンドとして定着したようだ。業績が絶好調なメルカリの経営者に言わせると、「お客は1万円のドレスを購入しても5000円で売れれば、半額でシェアした感覚になる」のだとか。だから、返品が面倒なら、しばらく身につけて「売ればいい」という意識なのだろう。
しかし、靴は難しい。足の形は人種や民族で異なる。大きく分けてエジプト型、ギリシャ型、スクエア型と3種ある。エジプト型は母趾が一番長いタイプで、日本人の7〜8割がこのタイプだ。だから、先細の靴を履くと、外反母趾になりやすい。欧米人はギリシャ型で第2趾が一番長いタイプ。スクエア型は母趾と第2趾が同じくらいの長さだ。
当然、革靴はもちろん、スニーカーもブランド母国の民族に合わせた木型で、作られているから、足に合う合わないは出てくる。それを考えると、日本人には日本のメーカーがいちばん合うはずだ。それに足には「ツボ」が集中しているから、なおさらフィットしない靴を履くと健康にも影響する。スニーカーはそこまでないにしても、足が滑ったり、靴擦れを起こすと、履くのを躊躇ってしまう。
だから、購入時には試着が絶対に必要になる。EC先進国の米国でも靴の通販では30%が返品されるというから、試着しないことがいかに販売を難しくさせているのかとも言える。こうした問題をどう解決していくか。「合わなければ、ユーズドサイトで売ればいい」という効率重視のビジネス観だけで見過ごせるとは思えない。
筆者は商品購入でも素材からインスピレーションし、スイッチが入る。直感で好きと感じた商品が試着できないと、買う気も削がれてしまう。数%しかいない層だからECのマーケットからは外れて当然なのだが、ECシステムだけで捉えられない=取り逃がしたところにもマーケットは出現するのではないか。ビジネスの趨勢、トレンドを捨てたところにも、新たなチャンスがあると思う。