HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

文化の差に戸惑うな。

2016-10-19 07:22:54 | Weblog
 先日、繊研新聞を読んでいて、一つのベタ記事が気になった。

 「バーナー、オールスタイルへ事業譲渡」という見出しである。業界では今どき、事業譲渡なんて珍しくもなんともない。だから、どちらかの企業を知る方でない限り、さして気にも留めないネタと言える。ただ、両方を知る人間としては「えっ」と思ったし、今回の事業譲渡には「あのことがある」と、ピンときた。

 バーナーは2004年にスタートしたカジュアルブランド。少しずつ知名度をつけると、08年には代官山にフラッグシップショップを展開し、翌09年には福岡にも路面出店した。筆者の事務所近くの国体道路沿いで、よく前を通っていたが、B2‘ndなんかに比べるととりたてて印象に残るものではなかった。

 同社のHPによると、「10年には、デザインを削ぎ落としオリジナル生地・パターン・縫製にこだわり抜いたBURNER Basicラインを開始。同ラインは現在まで、シーズンコレクションとは別に展開を続けています」と、ある。同年に旗艦店を原宿に移転したものの、直営展開は抑える一方、卸を主体に販路を全国に拡大させている。ものづくりで日本製に拘る姿勢が個店のセレクト受けしているようだ。

 記事によると、直近ではFC店を除き、販路をゾゾタウンに集約。オールスタイル傘下で、EC事業を拡大しながら、レディスラインの開発や複合店の出店をにらむという。

 オールスタイルは筆者世代より上の方々に馴染みのあるアパレルメーカーだ。神戸発祥、コンサバリッチなテイストで、筆者が業界に入った頃、東京支社が分離独立して「東京オールスタイル」となった。当時、店頭で商品をチェックした印象では、素材のグレードが高く、企画力も秀逸で、南青山あたりのブティック受けしそうと感じた。

 多分、分社化で東京独自の企画がスタートしたのだろう。コンサバブランドにありがち形の決まったデザインではなく、個性的なアイテムが固定客を捉まえていたと思う。1955年の創業だから、すでに60年を超えている。まさに日本を代表する老舗の専門店系アパレルと言っても過言ではない。

 ヤング向けストリートカジュアルが、コンサバリッチなアパレルの傘下に入る。一見、何の関連もなさそうな2つの企業。ただ、理由なしに傘下入りが実現するはずはない。オールスタイルにはちゃんと実績があるからだ。ピンときた「あのことがある」とは、ハナエモリのケースである。

 ハナエモリと言っても、バーナーファンが認識できるとすれば、タレントの森泉の祖母がデザインしたブランドと言った方がわかりやすいだろう。表参道を原宿方面に入って少し行った左手にかつてあったガラス張りのビル。今はオーク表参道に建て変わったが、そこに本社を構えていたことが日本を代表するブランドの証しでもある。
 
 同社は蝶をモチーフにしたエレガンスなファッションで有名になり、グラフィックデザイナーの田中一光がロゴマークをデザインしたことで、ブランド事業を拡大。プレタポルテを販売するブティックひよしやを展開する一方、パリのオートクチュールにも進出した。ただ、オートクチュールと言っても、コレクションに巨額の経費をかけたところで元を取れるはずもなく、プレタポルテも顧客の高齢化で売上げは下降線を辿っていった。

 バブル景気が弾けた後は、ハナエモリで売れるのは「百貨店の洋品売場に並ぶ3枚1000円のハンカチくらい」と揶揄されるほどで、2002年にはプレタポルテ部門を三井物産他に売却。オートクチュール部門も同年、民事再生法を申請して倒産した。

 現在、ハナエモリブランドのライセンス権は三井物産が保有し、アパレルを製造しているのが今回、バーナーが事業譲渡されたオールスタイル(01年に東京オールスタイル(株)をオールスタイル(株)に社名変更)である。商社がブランドのライセンサーになるのは一般的だが、服はアパレルに製造を委託することになる。ハナエモリクラスのブランドイメージを壊さないためには、それなりの製造ノウハウを有するメーカーでないと務まらない。オールスタイルはその条件に合致したということだ。

 以来、十数年が経過した今も、オールスタイルはハナエモリを主力ブランドとして、製造販売している。ファッションビジネスと言えば、とかくヤングにスポットが当たりやすいが、どっこい大人向けも見逃せない。数はそれほど売れないが、1点あたりの単価は高く、販売すると確実に粗利益が取れる。

 ワールド、イトキンといったかつての専門店系アパレルはSPAとなり、百貨店でハコ展開していく中で原価率を圧縮せざるを得なくなった。それが服の価値までも低下させ、売上げ不振を招いた要因とも言われる。皆が横並びで原価を圧縮し、コストを下げて作った服ばかりを売り出したため、差別化が手詰まりになっていったのだ。

 中堅メーカーのオールスタイルはそうした戦略を避け、コストをかけた服を製造して地道に卸を続けて来た。それが今もハナエモリがこの世に存在する理由だ。売れなければ、ブランドは消滅する運命にあるわけで、売れているからこそ存続できるのである。素材や縫製のクオリティはもとより、コンサバなテイスト、クチュールにも近い着心地が確実に顧客をつかんでいるとも言える。具体的には政治家や官僚、大企業幹部の奥様方で50代以上か。セカンドラインのアルマ・アン・ローズは、その方々の息女がターゲットになる。小池東京都知事がハナエモリを好みがどうかはわからないが、年齢的にはイコールだ。

 そこがバーナーの事業譲渡を受け入れたのである。バーナーはハナエモリと違い、倒産したわけではない。事業譲渡だから、会社の売却でもなく、法人格はそのまま残るはずなのだが、同社のサイトでは社名はすでにオールスタイルとなっている。ただ、同社は競争が激化するヤングカジュアルの中にあって、コストがかかる直営展開をセーブし、ネット中心の販売にシフトチェンジするなど戦略は手堅い。「ものづくりで日本製に拘りつづける姿勢」も、他のヤングブランドと違う価値と言える。

 一方、オールスタイルにとっては、事業譲渡は投資額に節税効果が効かせられるし、株式譲渡より投資額は小さくなる。不要な資産を引き継ぐ必要もなく、負担にもならないなどメリットは多い。何より企業としてこの先を考えると若返りシフトは別にして、ヤングブランドが持つマインドや世界観を吸収しても損はないはずだ。ヤングもいずれは歳をとるが、自分が若かりし頃に肌で感じたファッション感性は引きずる。

 そうした傾向に何らかの法則性を見いだすことができれば、ブランドとして30年以上続くセシオセラ、カジュアル寄りのミキシングブルーと、メーンのマチュアやアダルト向けの新たな商品開発で参考になる。ファッションビジネスを考える上で、もはやヤングだのアダルトだのとエージで区切ったマーケティングは、無意味になっているからだ。譲渡受け入れはそうした状況を見ての判断でもあるのではないか。

 ここで気になるのは、バーガー側が譲渡した理由。一般的に事業譲渡は他の事業も展開している時、そうしたメーン以外の事業を譲渡するとか、会社所有の不動産は保有したままにしたいとか、法人格は継続したいとかの理由がある。税金の面でも株式譲渡より課税額は大きく(30%〜40%程度、株式なら譲渡益に20%)、契約のまき直しなど手間もかかる。まあ、メディアには公開していない裏の事情があるのかもしれないが。

 社員は譲渡先のオールスタイルに転籍するというから、雇用は継続される。移籍先が全くテイストの違うコンサバメーカーということから、最初は戸惑うかもしれないが仕事が続けられることを考えれば、慣れるのも時間の問題だ。ブランドメーカーのM&A、譲渡、売却はますます盛んになっている。そうした激動のファッションビジネスに携わりたいのなら、企業文化の違いなんぞとは言ってられない。梅澤快行社長はオールスタイルの顧問に就くので、オールスタイルの経営には影響はないだろう。

 ヤングブランドと老舗のアパレルがそれぞれの特徴を生かしながら、相乗効果を発揮していくとで、閉塞感が漂う業界で新たなビジネス萌芽のきっかけになることを期待したい。

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