HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

個店は都心部で成立しないのか。

2015-02-25 07:05:07 | Weblog
 先日、福岡市の都心から電車で7~8分ほどの街で、仕事の打ち合わせをした。ちょうど、お昼を過ぎたので、散歩がてら一駅歩き、閑静な住宅街にある知り合いのセレクトショップを訪ねてみた。

 以前は、そこより4駅ほど南の街にショップを構え、10数年間、商売を続けていた。店舗周辺は福岡市郊外のベッドタウンとして開発され、JR、私鉄と都心部へのアクセスは良い。

 ただ、住民は夫婦と子供の世帯か、2世帯の同居が圧倒的に多く、奥さんは専業主婦という構図だった。若いときは、それなりのファッションをしていても、家事や子育てに追われ、いつの間にかお洒落な着こなしからは遠ざかっている。

 休日の買い物と言えば、車で気軽に行けるショッピングセンター。当然、選ぶ服はチープなナチュラル系カジュアルか、全国チェーン店のコンサバベーシックになりがちだ。

 専門店系アパレルを中心とした比較的高価なファッションは、通りすがりに目が向いても、なかなか手が届かない。知り合いは、商品やセレクティングに対する反応も今イチで、接客にも苦労したという。

 そこから都心部により近くなった現店舗は、周囲のロケーションが全く違う。電車の駅を軸に、西側の山の手は高級住宅街だ。店舗がある東側も住宅街で、区画も整備され、コンパクトにまとまっている。

 建築規制がかかっているようで、雑居ビルや店舗はほとんどなく、高層のマンションやアパートも皆無。瀟酒とまでは行かなくても、静かな佇まいという形容詞が合う。朝、家の前を掃除していると、犬の散歩に出かけるご近所が気軽に挨拶というイメージだ。

 当然、メーンのお客はワーキングミセスが多く、仕事着として「高感度上質な専門店系アパレル」には関心が高いという。

 客層は30代の夫婦共稼ぎで収入にゆとりがある層。キャリアミセスだが、スーツ一辺倒では満足できないアラフォー世代。子育てから解き放なたれ、仕事にも趣味にも前向きな50代などなど、だろうか。

 当然、服選びは色、柄はもちろん、素材のクオリティも求めるし、織りの組織や編み地でも個性的な企画に目が行く。シルエットも、着心地優先のおばちゃんパターンでは納得しない。計算し尽くされたボリュームやカッティングを好むはずだ。

 デザインも襟ぐりを拡げたり、ドルマンスリーブを取り入れたり。若さをキープするバルーンコートだってありだ。コットンもこしがある上質なカットソー、ソフトタッチの裏毛など、ワンシーズンで終わりのアイテムではない。

 専門店系アパレルが渾身を込めた自信作がオーナーのフィルターを通して、バイイング、編集されている。エージで区切るのではなく、マインドや感性にフォーカスするから、必然的にターゲットは30代から50代までと広くなるというわけだ。

 価格もインポートのような10万円、20万円はなく、単品が高くても4~5万円程度。このくらいならクオリティ、デザインなどの価値を総合して、お客の買い物スイッチは入りやすい。

 山の手のマーケットは、セレブ主婦向けのラグジュアリーか、サロンブティックのプレタが御用達になるからターゲットにはならない。一方、都心部はラグジュアリーか、NBとSPA、ヤングが主体で、マス狙いが行きつき、ボリューム化が激しくて面白みがない。

 ミセス向けの専門店もオフィスビルの地下にはあったが、それもだいぶ姿を消している。もっとも、都心から一駅、二駅離れると、マンションが多く、単身者が住むため、 セレクト業態ではヤング系が主体になる。 

 そこからさらに一駅の住宅街は、適度に都心との距離感があり、都会の喧噪から解放された静かな時間が流れる。休みの日にファッションだけでなく、美容やグルメ、旅行などの会話を楽しみたいミセスにとって、店は格好のコミュニティとなる。

 訪れた当日も「今日、休みで、カミさんが服を見たいと言ったので」と、30代の夫婦が来店した。ついで買いやセール目当てではなく、シーズンインの目的買いが主体。場所柄、ランニングコストも抑えられるから、プロパー勝負できれば収益は高い。

 筆者は仕事柄、1年に何人もの、アパレルのデザイナーやMD、小売りの店長やバイヤーと話す。ここ数年でいちばん顕著なのは、「ミセスはどうよ」というテーマだ。

 顧客の高齢化とデフレで過去、大手専門店は都市型のミセス業態を縮小し、ヤングミセスを狙う郊外SC型にシフトし、売上げを伸ばしてきた。経営効率や売上げを追求すれば、当然そうなるだろう。

 でも、結果的に都心部から品揃えにこだわりを持つ店がなくなっている。それが「都心部から少し離れた立地」「電車で2~3駅のアバーバンエリア」では、個店によって高感度で上質な大人ファッションの芽が開かれようとしている。

 福岡は春一番が吹き、黄砂でガスるシーズンになった。もう、ダーク系の重たい色合いや厚めのダウンは不釣り合いである。この季節はノームコアやベーシック追求の若者だけでなく、スタイリッシュでハイセンスな大人服も、主役にはなり得るはずだ。

 奇しくも、3月14日からは「ファッションウィーク福岡2015」が開催される。しかし、ヤングターゲットの「ピンク」というテーマ、都心部、大手商業施設中心のイベント企画からして、今回もプロモーションにはほとんど結びつかない内容である。

 またしても、利害関係者の思惑と稚拙な企画力のもとに、地元ファッションにスポットが当たることもなく、無意味な事業で終わりそうである。

 福岡はアパレルメーカーこそ点在するが、基本は商業、小売りの街だ。自らファッション都市を標榜する上でのクリエイティビティとは、何も企画デザイン、もの作りとは限らない。

 小売りが創造力を発揮して、業態なり、MDなり、販売手法なりを作り上げることが重要なのだ。こうしたクリエイティビティを都市づくりに映し出して行くことこそが、ファッション都市には不可欠なはずである。

 そのフォアランナーとして、都心を少し離れた大人セレクトが登場しつつあるムーブメントに、ファッション事業の企画担当者は気づくべきだし、もっとクローズアップしなければならない。
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