「東京にセレクトショップはない」には多くの方々から賛同をいただいた。大手セレクトショップのSPA化の一面を書いたものだが、世界規模で見てもグローバルSPAが勢いを増せば、必ずその反動で“別のマーケット”が出現する。
今回はそれについて考えてみよう。そもそもファッションはブランドが生まれた風土や環境によって、それぞれが持つDNAは異なる。だから、ユニバーサルマーケットに通用するブランドなんて存在しないのだ。
GAPにはそれがウケる市場があるし、ZARAやH&Mが必ずしも万国向けとは思わない。ルイ・ヴィトンやグッチ、プラダは日本で一定のシェアを取っているが、それに続くブランドは中々登場していない。
グローバルなら、何でも世界中のマーケット受けするかと言えば、決してそんなことはない。むしろ、D&Gのように日本から撤退するものもあるほどだ。
日本のファッションはざっくり言って戦前は欧州、戦後は米国の影響を受けた。特にジーンズが米国から入ってくると、ヤングファッションの中で市民権を獲得。その流れを汲んだアメカジファッションが日本人のDNAに合致し、現在に至っているとも言える。
80年代、VAN世代によるセレクトショップの経営が本格化すると、日本流に焼き直したアングロアメリカンテイストはヤング層を捕捉し、一定のマーケットを切り拓いた。それが大手セレクトショップの隆盛を生んだと言っても過言ではないだろう。
ユニクロもまた米国のGAPを手本にスタートした。だが、日本企業で日本人の感性を理解できたからこそ、ここまで成長したとも言える。ただ、それが欧米にも通じるか言えば、決して簡単ではないだろう。ブランド力を今以上に上げたところで?つく。
ZARAやH&Mにしてもそうだ。欧州や北米でウケているとは言え、アジア市場で必ずしも拡大を続けているとは思えない。ファッションなんてそんなもんだ。
確かにグルーバルSPAは世界規模でマーケットを確保している。しかし、北欧も、南欧も、中近東も、アジアも、オセアニアも、北米も、南米もすべて制覇したわけではない。シェアは地域によりバラツキがあり、好調なところでも90%程度が限界だろう。
市場占有率100%なんてあり得ないのだ。だから、グローバルSPAやセレクトSPAを捨てたところ。ZARAやH&M、GAPやユニクロ、そしてNBや大手セレクトショップの市場を否定してみるのである。別のマーケットが出現するとは、こういうことだ。
「そうした服っていったい何だろう」ということから考えることが重要だと思う。
ポジションで言えば、グローバルに対するローカル(地方という意味ではない)。規模ではマスに対するミニマム。テイストで切れば、ベーシックとモードとの中間。価格帯はモデレートとベターの中間くらいのゾーン。
いわゆるミドルグレードのコンテンポラリーファッションである。このシーズンになると、アウターのジャケットやコートが必要になってくるので、テイストとグレードは売れる条件としては、とても重要である。
こうしたマーケットは日本の百貨店、ファッションビルや駅ビルでは捕捉できていない。ブランドや業態そのものが存在しないからだ。それはニッチでミニマムマーケットだが、そんな商品に飢えたお客を掘り起こすチャンスでもある。
話をもう少し具体的にしてみよう。デザインはミニマルモダンでスタイリッシュ。アイテムはコンサバライクな虚飾を廃したもの。海外のクリエーターブランドで言えば、ニューヨークのアレキサンダー・ワンや3.1フィリップリムあたりだろうか。
SPAで言えば、H&Mが仕掛けている「COS」や同社が昨年春にスタートさせた「&OtherStories」が該当するだろう。
COSは業界で数年前から話題になっており、試しに昨年秋、フランスからジャケットを取り寄せてみた。150ユーロの程度にも関わらず上質なメルトン地を使い、縫製もかなりのレベルをキープ。H&Mとはコンセプトも企画も生産背景も全く違うのがわかる。
テイストはミニマルで、適度なモード感をもつ。メンズ、レディスともにオンオフ対応できるMDを構築しており、着回しが利くところが良い。また、テイストの軸がブレないので、翌シーズンのアイテムとのコンビネーションにも無理がない。
こんな話を先日、某セレクトショップのバイヤーとの会話の中ですると、同氏もCOSは欧州出張の度にチェックしているようで、「Tシャツなんかもなかなか良いですよね」と返答。たかがTシャツと言っても、COSはカッティングから違うのである。
一方、&OtherStoriesも、アウターからボトム、バッグ、アクセ、シューズのフルラインナップしている。こちらも上質の素材を使い、質感を上げるためにディテールまで手を抜かない作り。メンズっぽいジャケットを作るなどこだわり感もある。
価格もジャケットが160ユーロ、スカートが70ユーロくらいだから、コンテンポラリーファッションとしては、かなりリーズナブルだ。
COSは来月、東京青山に待望の1号店がオープンする。&OtherStoriesは現状では、本国スウェーデンの他、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダなど欧州と米国ニューヨークのみの展開で、日本上陸の予定はない。
H&Mが日本市場をこれ以上攻略できない理由として、そのテイストと質感がある。レディスの場合、日本人の多くはコンサバ嗜好が強いため、モード感が強いと敬遠される。
逆にモードよりを好む一部の層からすれば、質感が満足できない。もう少し上質なアイテムなら大枚をはたいても良いと考える。その辺の価値と価格のバランスをキープできているのが、ニューヨークのクリエーターと2つのグローバルSPAである。
これらは今の日本では、決してマスマーケットにはならない。ただ、NBやセレクトSPA系にはない大人っぽい雰囲気とエッジの利いた感性をもつ。都会的でシャープなスタイリングは、まさにクールビューティを演出するのだ。
だから、百貨店に行こうが、ファッションビルを覗こうがどこも通り一辺倒のテイストで、買い物に二の足を踏んでいる層を捕捉できる可能性は高い。
ファストファッションは日本市場に浸透した。しかし、商品そのものは“ワンナイト・パーティグッズ”と揶揄されるクオリティでしかない。H&M社もそれを十分に認識した上で、ニッチ市場を切り拓こうとする戦略は目ざといと言える。
グルーバルSPAは世界マーケットを制覇するために、こうした間ビジネスも展開しようとしているわけで、これにはユニクロも出遅れていると言わざるを得ない。
また、売れるデザインを標榜するのがニューヨークファッションの源流ということからすれば、デザイナーも自己のクリエーションの中で、実利を追求できるものを創り出そうとするのは当然だろう。
日本人のクリエーターはどうかと言えば、先日、開催された2015S/S東京ファッションウィークのビデオを見ても、意外にこうしたコンテンポラリーなクリエーションを発表するものは少なかった。
強いて上げれば、ENFOLDと前にあげたUAのアストラットくらいだろうか。
であることからして、日本でもこの辺のゾーンの開発が、マーケットを活性化するカギになると思う。ということで、2年ぶりにメンズを作ってみることにする。試作品は後日、このコラムで紹介する。
今回はそれについて考えてみよう。そもそもファッションはブランドが生まれた風土や環境によって、それぞれが持つDNAは異なる。だから、ユニバーサルマーケットに通用するブランドなんて存在しないのだ。
GAPにはそれがウケる市場があるし、ZARAやH&Mが必ずしも万国向けとは思わない。ルイ・ヴィトンやグッチ、プラダは日本で一定のシェアを取っているが、それに続くブランドは中々登場していない。
グローバルなら、何でも世界中のマーケット受けするかと言えば、決してそんなことはない。むしろ、D&Gのように日本から撤退するものもあるほどだ。
日本のファッションはざっくり言って戦前は欧州、戦後は米国の影響を受けた。特にジーンズが米国から入ってくると、ヤングファッションの中で市民権を獲得。その流れを汲んだアメカジファッションが日本人のDNAに合致し、現在に至っているとも言える。
80年代、VAN世代によるセレクトショップの経営が本格化すると、日本流に焼き直したアングロアメリカンテイストはヤング層を捕捉し、一定のマーケットを切り拓いた。それが大手セレクトショップの隆盛を生んだと言っても過言ではないだろう。
ユニクロもまた米国のGAPを手本にスタートした。だが、日本企業で日本人の感性を理解できたからこそ、ここまで成長したとも言える。ただ、それが欧米にも通じるか言えば、決して簡単ではないだろう。ブランド力を今以上に上げたところで?つく。
ZARAやH&Mにしてもそうだ。欧州や北米でウケているとは言え、アジア市場で必ずしも拡大を続けているとは思えない。ファッションなんてそんなもんだ。
確かにグルーバルSPAは世界規模でマーケットを確保している。しかし、北欧も、南欧も、中近東も、アジアも、オセアニアも、北米も、南米もすべて制覇したわけではない。シェアは地域によりバラツキがあり、好調なところでも90%程度が限界だろう。
市場占有率100%なんてあり得ないのだ。だから、グローバルSPAやセレクトSPAを捨てたところ。ZARAやH&M、GAPやユニクロ、そしてNBや大手セレクトショップの市場を否定してみるのである。別のマーケットが出現するとは、こういうことだ。
「そうした服っていったい何だろう」ということから考えることが重要だと思う。
ポジションで言えば、グローバルに対するローカル(地方という意味ではない)。規模ではマスに対するミニマム。テイストで切れば、ベーシックとモードとの中間。価格帯はモデレートとベターの中間くらいのゾーン。
いわゆるミドルグレードのコンテンポラリーファッションである。このシーズンになると、アウターのジャケットやコートが必要になってくるので、テイストとグレードは売れる条件としては、とても重要である。
こうしたマーケットは日本の百貨店、ファッションビルや駅ビルでは捕捉できていない。ブランドや業態そのものが存在しないからだ。それはニッチでミニマムマーケットだが、そんな商品に飢えたお客を掘り起こすチャンスでもある。
話をもう少し具体的にしてみよう。デザインはミニマルモダンでスタイリッシュ。アイテムはコンサバライクな虚飾を廃したもの。海外のクリエーターブランドで言えば、ニューヨークのアレキサンダー・ワンや3.1フィリップリムあたりだろうか。
SPAで言えば、H&Mが仕掛けている「COS」や同社が昨年春にスタートさせた「&OtherStories」が該当するだろう。
COSは業界で数年前から話題になっており、試しに昨年秋、フランスからジャケットを取り寄せてみた。150ユーロの程度にも関わらず上質なメルトン地を使い、縫製もかなりのレベルをキープ。H&Mとはコンセプトも企画も生産背景も全く違うのがわかる。
テイストはミニマルで、適度なモード感をもつ。メンズ、レディスともにオンオフ対応できるMDを構築しており、着回しが利くところが良い。また、テイストの軸がブレないので、翌シーズンのアイテムとのコンビネーションにも無理がない。
こんな話を先日、某セレクトショップのバイヤーとの会話の中ですると、同氏もCOSは欧州出張の度にチェックしているようで、「Tシャツなんかもなかなか良いですよね」と返答。たかがTシャツと言っても、COSはカッティングから違うのである。
一方、&OtherStoriesも、アウターからボトム、バッグ、アクセ、シューズのフルラインナップしている。こちらも上質の素材を使い、質感を上げるためにディテールまで手を抜かない作り。メンズっぽいジャケットを作るなどこだわり感もある。
価格もジャケットが160ユーロ、スカートが70ユーロくらいだから、コンテンポラリーファッションとしては、かなりリーズナブルだ。
COSは来月、東京青山に待望の1号店がオープンする。&OtherStoriesは現状では、本国スウェーデンの他、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダなど欧州と米国ニューヨークのみの展開で、日本上陸の予定はない。
H&Mが日本市場をこれ以上攻略できない理由として、そのテイストと質感がある。レディスの場合、日本人の多くはコンサバ嗜好が強いため、モード感が強いと敬遠される。
逆にモードよりを好む一部の層からすれば、質感が満足できない。もう少し上質なアイテムなら大枚をはたいても良いと考える。その辺の価値と価格のバランスをキープできているのが、ニューヨークのクリエーターと2つのグローバルSPAである。
これらは今の日本では、決してマスマーケットにはならない。ただ、NBやセレクトSPA系にはない大人っぽい雰囲気とエッジの利いた感性をもつ。都会的でシャープなスタイリングは、まさにクールビューティを演出するのだ。
だから、百貨店に行こうが、ファッションビルを覗こうがどこも通り一辺倒のテイストで、買い物に二の足を踏んでいる層を捕捉できる可能性は高い。
ファストファッションは日本市場に浸透した。しかし、商品そのものは“ワンナイト・パーティグッズ”と揶揄されるクオリティでしかない。H&M社もそれを十分に認識した上で、ニッチ市場を切り拓こうとする戦略は目ざといと言える。
グルーバルSPAは世界マーケットを制覇するために、こうした間ビジネスも展開しようとしているわけで、これにはユニクロも出遅れていると言わざるを得ない。
また、売れるデザインを標榜するのがニューヨークファッションの源流ということからすれば、デザイナーも自己のクリエーションの中で、実利を追求できるものを創り出そうとするのは当然だろう。
日本人のクリエーターはどうかと言えば、先日、開催された2015S/S東京ファッションウィークのビデオを見ても、意外にこうしたコンテンポラリーなクリエーションを発表するものは少なかった。
強いて上げれば、ENFOLDと前にあげたUAのアストラットくらいだろうか。
であることからして、日本でもこの辺のゾーンの開発が、マーケットを活性化するカギになると思う。ということで、2年ぶりにメンズを作ってみることにする。試作品は後日、このコラムで紹介する。