武田先生
富山きのこクラブの皆様へ
植物園の橋屋です。
写真のきのこは確かにロクショウグサレキンのようですね。
(ロクショウグサレキンは小さな青い茶碗の中央下に柄があり、ロクショウグサレキンモドキはこの柄が偏ってつきますし、またヒメロクショウグサレキンの場合は茶碗が非常に小さいです)
きのこはこの幹の傷部に発生しているのですね。
枝でしたら、付け根の生きている部分から切り落として、断面が青緑になっていないことを確かめ、ここにトップジンのような殺菌剤を含んだパテを塗れば良いのですが、幹ではこうは行きません。
きのこ(ロクショウグサレキンだけでなく、他のサルノコシカケの仲間でも)が幹から発生した場合は、その樹木の芯材がきのこによって腐っている可能性があります。この場合、やがて幹の中が空洞化して、やがて強い風が吹いた場合はポキンと折れる可能性があります。
やってどうなるものではありませんが、小刀などできのこの発生している部分(木材)を削ってみてください。(削られたきのこの着いている部分は、紙袋に入れて乾燥保存し今度植物園へ来られる時に橋屋にお渡しください。標本にしたいと思います。)
スポンジ状になった腐植部分がいつまでも湿っているとより菌類の発育を促進します。
人間の手術でしたら病巣はすべて取り除くのですが、植物はそれが難しいので手術によっての防除は不可能だと考えます(枝先などの病気は可能)。
この場合は、できるだけ早くに接木などで子孫をつくられることをお勧めします。
ただ、ロクショウグサレキンの場合は菌類の中でもさほど菌糸の成長が早い訳でもありませんので、今日明日にに倒れるということもないかと思います。
(ベッコウタケやコフキサルノコシカケ、またナラタケなどは木材部分への腐植が早いかと思います)
答えになっていませんが、これでよろしいでしょうか?
富山県中央植物園 橋屋 誠
サクラ・ブナ・ケヤキのおが屑上での培養試験によれば、ロクショウグサレキンはリグニン分解能力をほとんど欠き、セルロースを分解する力も微々たるものだと思われます。
ただし、ヘミセルロースはかなりよく分解し、木材の細胞壁の一部(セルロースの結晶領域)も多少は分解しています。
また、培養初期には、菌糸の成長速度はかなり速いのですが、青色色素を活発に産出する培養後期には、非常に生育が遅くなります。
これらを総合して考えると、ロクショウグサレキンの腐朽力はさほど強いものではなく、いわゆる「軟腐朽菌」に分類されるべき菌のようです。
軟腐朽菌に侵された部分は、しばしば別の、もっと強力な腐朽能力を持つ菌の侵入口になり得るとも言われていますが、ロクショウグサレキンの色素が多少とも抗菌性を有するとされること・ロクショウグサレキンによって青く染まった材片が著しく堅くて、よく強度を保っていることが多いことなどから、当面は心配しなくてもよいような気がします。
なお、培養菌糸を用いて、PDA培地およびサクラおが屑培地上で、トップジンペーストの抑制力を検定したところでは、ロクショウグサレキンの菌糸の生育は抑制されるものの、死滅させるには至りませんでした。
患部を軽くえぐって柔らかくなった組織を除去し、バーナーで均一に炭化する程度にあぶって固化させ、トップジンを充分に塗りこんで、様子をみるのが妥当かと思います。