Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

ゴヤの名画と優しい泥棒

2022-03-03 20:09:00 | その他の映画・ドラマ・舞台
「ボブ2」「ナイル」と同じ公開日に当たった第3のイギリス映画「ゴヤの名画と優しい泥棒」、おもしろかったです!



原題はThe Duke、日本語にしたら「あの公爵」でしょうか、それくらいイギリス人にとってナポレオン戦争に勝ったことは愛国心を掻き立てることなのでしょう。ヨーロッパを制し第2のローマ帝国を築こうとしていたフランスの皇帝を破ったウェリントン将軍が「その公爵」です。ドラマ「ヴィクトリア愛に生きる」でも政治家となったウェリントンも出ていました。

が、日本では祖国ほどには知名度がないゆえ『ゴヤの名画と優しい泥棒』とまた長い邦題をつけられてしまいました。肖像の本人よりも画家の方が日本では通るとみられたのね、ナポレオンの方なら日本でも知られていますが、公爵にはお気の毒です。

しかしイギリスにおいても、その国民の英雄の肖像画を国が14万ポンドも出してナショナルギャラリーに買い取ったと聞いて「国民の税金を芸術にそんなに使いおって」と憤慨していたおじさんがいたんですね、その実在したおじさんの映画です。

ストーリーもとても面白いのでみなさんにも是非オススメです。

しかしおじさんのキャラが「憎めない面白いおじさん」というだけではなく、戯曲を書くライター志望なので労働者のわりに教養があり口が立つ。だけならまだいいが・・・奥さんが清掃婦として家計を支えているのに、おじさんは口が減らないので仕事をすぐにクビになってしまうんですよ。しかもそれを奥さんに隠すし。

1961年にはBBCが受信料を払わない人を家を回って取り締まっていたため、おじさんは自宅のテレビからBBCのパーツを抜いて映らないようにして受信料を拒否してました。その時見ていたのが民放のITVで番組は「ロビン・フッド」でした。それで後から「絵に14万ポンドも出すなら国のために戦争で戦い今は年金暮らしでお金もなくBBCを見られない人の受信料に充てるべきだ」とロビンフットさながらに貧しい人の見方をすることにつながります。

おじさん、やっと職にありつけたパン工場でもパキスタン人が差別されていることに文句を上に言い、クビになっちゃう。この差別を許さないエピなんかは現代風で特に今の観客を味方につけやすく、チャーミングなおじさんの魅力をアピールしたと思います。

しかし・・・実は私はずーーーっと奥さん目線で、奥さんの「人類のためにとか言って家族も守れないのに!」のセリフに拍手を送ってました。

だって奥さん清掃したってきっとお給料はたかがしれてるでしょう、それなのに人の味方を気取る男は仕事がないわ、刑務所に入るわじゃ、奥さんかわいそうって。

でも奥さんの言った「家族」は自分のことじゃなかったって、映画を見進めているうちに気づきました。奥さんはもっと深い悲しみを抱えていたんです。失った家族をめぐっての夫婦間のわだかまりもあったんですね。

老夫婦のスター俳優たちだけでなく、気づかなかったけど裁判官はジェイムズ・ウィルビーだったようで。あと、おじさんの息子が「ダンケルク」のフィン・ホワイトヘッド
で、彼の従兄弟のイケイケ人妻彼女パメラ、「さまよえる魂」のコリンの奥さんの人でした。

映画はケン・ラッセルとは別方向からの有力者や国への批判精神に満ち満ちて、それでいて映画内の映画館シーンなどユーモアがあり、さらに裁判所での「エルサレム」の歌など「これぞイギリス映画」でとっても良かったけれど、おしゃべりで偉そうなこと言ってパンをベルトコンベアから落とさないで移すことに集中できないおじさんは、うちの夫にとても似ているので嫌でした。