「私もなんだか気が抜けちゃってね。別に今まで弟のために生きてた訳じゃないんだけど。いなくなられちゃうと辛いね、ほんと。母は余計にそうだと思う。一応、仕事は続けているけど、なんだか抜け殻になっちゃったみたいで・・・」
「仕方がないんだよ。あんたたちが小さい頃に父さん亡くしてからは、私が何とか育てなくちゃって強く思っていたし、またそれが生きがいだったから。何のためにここまで頑張ってきたのか分からなくなっちゃってね」
母は力なく言った。母さん、俺は今も生きているよ、しかも目の前にいるよと叫びたかった。
「それにしても、女の子が一人でここに来るなんて珍しいわね。あっ、珍しいというより、初めてかな。もしかしたら恋人?な訳ないか。あなたみたいな可愛い子、一成とじゃ釣り合わないもんね」
姉は僕の顔を見つめて言った。
「いえ、まあ友達というか仲田君とは波長が合うような気がしていたんです」
「友達以上、恋人未満ってとこ?」
「まあ、そんなところです」
「弟のこと、忘れないであげてね」
「分かりました。忘れません。あの、私、そろそろ帰らないと」
「夕食でも食べていけばいいじゃない」
「いえ、ちょっとこの後、アルバイトもあるので」
「ああ、そうなんだ。それは残念ね」
「あの、最後に仲田君の部屋、見せてもらう訳にはいかないでしょうか」
「ああ、全然構わないわよ。狭くて汚いけど」
姉に導かれ、僕は久しぶりに自分の部屋へ入った。
「あえて片付けたりしないんだよね、母も私も。それどころか、めったに入ることすらない。この部屋を開けさえしなければ、あの子が部屋の中にいるような気になれるの。きっと母も同じだと思う」
「そうですか」
僕は慣れ親しんだベッドや机にさりげなく触り、別れを告げた。
「それでは失礼します。お邪魔しました」
「今日は有難う。気をつけて帰りなさいよ」
母の母らしい言葉が聞けた。それで満足だった。
「さようなら」
かつての自宅から出ると、陽はすでに大きく傾いていた。見慣れた風景。もう二度と見ることはないだろう懐かしい風景。
「さよなら母さん。さよなら姉さん」
しばらく歩いて、団地から少し離れた後、僕は呟いた。
「仕方がないんだよ。あんたたちが小さい頃に父さん亡くしてからは、私が何とか育てなくちゃって強く思っていたし、またそれが生きがいだったから。何のためにここまで頑張ってきたのか分からなくなっちゃってね」
母は力なく言った。母さん、俺は今も生きているよ、しかも目の前にいるよと叫びたかった。
「それにしても、女の子が一人でここに来るなんて珍しいわね。あっ、珍しいというより、初めてかな。もしかしたら恋人?な訳ないか。あなたみたいな可愛い子、一成とじゃ釣り合わないもんね」
姉は僕の顔を見つめて言った。
「いえ、まあ友達というか仲田君とは波長が合うような気がしていたんです」
「友達以上、恋人未満ってとこ?」
「まあ、そんなところです」
「弟のこと、忘れないであげてね」
「分かりました。忘れません。あの、私、そろそろ帰らないと」
「夕食でも食べていけばいいじゃない」
「いえ、ちょっとこの後、アルバイトもあるので」
「ああ、そうなんだ。それは残念ね」
「あの、最後に仲田君の部屋、見せてもらう訳にはいかないでしょうか」
「ああ、全然構わないわよ。狭くて汚いけど」
姉に導かれ、僕は久しぶりに自分の部屋へ入った。
「あえて片付けたりしないんだよね、母も私も。それどころか、めったに入ることすらない。この部屋を開けさえしなければ、あの子が部屋の中にいるような気になれるの。きっと母も同じだと思う」
「そうですか」
僕は慣れ親しんだベッドや机にさりげなく触り、別れを告げた。
「それでは失礼します。お邪魔しました」
「今日は有難う。気をつけて帰りなさいよ」
母の母らしい言葉が聞けた。それで満足だった。
「さようなら」
かつての自宅から出ると、陽はすでに大きく傾いていた。見慣れた風景。もう二度と見ることはないだろう懐かしい風景。
「さよなら母さん。さよなら姉さん」
しばらく歩いて、団地から少し離れた後、僕は呟いた。