消された記憶

子ども時代に父親から「アンタはオレのキンタマの中におったんやで」と、嬉しそうに言われて思春期のわたしは震撼した事がある。
確かに全人類は皆父親の玉袋の中に居た筈だ、どうやって卵巣まで辿り着いたのかも覚えていないがとにかく誰よりも速く力強かったのだ。
やはり人間たちは何者かによって記憶が消されている。

よく知らないが多分ムクドリ

初夏みたいな陽気な日曜日、夫と娘は旅行に行ったので1人を満喫している。冬にあれほど恋焦がれた陽の光がいざ部屋に差し込んでくるとだんだんうっとーしく夏は完全に遮断する事になる。これが噂の蛙化現？全然違うか。
1人を満喫することに飽きることはない、TVを観る、景色を眺める、ネットサーフィン、借りた本を読む、おやつを食べる、昼寝。これは平日もやっているが春休みはそうも行かないので覚悟が必要だ。
冬には禿げたシンボルツーリは新芽がワサワサ生えてきてムクドリ達が飛び回る。
呑気に暮らしているが定期的に不安に襲われて心身共に不調になるので激太りする事は無い。
雑な掃除、昼寝して散歩を兼ねての買い物を済ませる。60円の三割引き袋千切りキャベツと美味すぎて怖いスルメの天ぷら、あまり甘くない甘栗などを食べたら寝る時間までの間起きとく。死ぬ時間までの間生きとく、生きづらい人には良い考え方だと思う。

叩き潰す

雇用主にアピールするのと同じく、夫から信頼を得る為に朝から98円玉子を買いに市場に行ってきた。中流主婦層スーパーさえ時に雑な扱いを受けて心が折れる事の多い私にとって、節約第一主義層に加えて飲食店経営者の皆さんに美味いモノ好き富裕層が入り乱れる激混み朝の市場は物凄くハードルが高い。しかも現金決済のみの八百屋や肉屋をハシゴする必要があり重量のある荷物を抱えての移動、財布の出し入れは困難を極める。なので今日は八朔と山芋を買うのは断念した。
こんなんで働けるのか？
さて、娘は今のところ学校ではお勉強できるマジメキャラだ。
しかし昨日の理科のテストは満点ではなかったようだ。
問題『コンデンサに絶対やってはいけない事とは何でしょーか？』
答え『コンセントに差し込む』だが
正解がわからず必死に考え抜いた結果
『たたきつぶす』と回答欄に記入したと言う。
決して間違いではないが、先生は返却の際「そんな人はおらんからー」と言ったらしい。

エレーン

唐揚げ作戦は成功した。玉ねぎを入手し数個取り置きしていたもも肉と合わせて夫用にバリ辛カレーも作った。
進撃の巨人にハマっているので文章が感化されているようだ。なんか難しい熟語を使ってしまうと言うと娘は笑った。娘は多分ある程度頭が良い。漫画読むことで学力が下がると思って禁止している母親を知っているけれど国語が苦手なようで勿体ない。
エレンを連呼されると中島みゆきのエレーンが聴きたくなって検索したが本人の唄はなかった。
中1の頃、兄が飽きたのでくれたカセットテープに入っていた曲だ。
カバーの背表紙に可愛い兄の丸文字でアルバムのタイトル『生きていてもいいですか？』と書いていたのをはっきりと思い出せる。悪い冗談みたい。
私たち兄妹を知ってる人は全員エレーンは私で、何故まだ生きているのか不思議に思っているだろう。

唐揚げ作戦

そろそろカレーが食べたいなーと夫がため息混じりにつぶやいた。カレーが好物なのは知ってる、単純に食べたいのだろう。だがそれはオカズにダメ出し食らったという事だ。
半年働いていないと専業主婦も板につき体重がまた50の大台に乗りだした。雇用保険が入ることで貧乏性の罪悪感からも解放されていて、給付期間もそろそろ終わりだけど焦る事すら忘れてる。
戦士が平和でいると勘が鈍るように夫が帰ってきた時、ドアが開いた事さえ気がつかずびっくりする事も多い。
世間の目、何より娘のお手本になりたくて働いていたけどクビになった事でプライドは粉々になり知的労働からの離脱による意欲喪失状態。まーとりあえず今は生きていく上で夫に対する体裁が最重要だ、家の隅々は片付けられていないがそのヘンは優しい、とにかく食事さえ満足してもらえたら安泰だという指標の危機。
朝から半解凍した格安ブラジルもも肉を2キロ塩で洗い焼酎、醤油、生姜漬けにした。玉ねぎがないので唐揚げ作戦だ。