村野美優「伴走者」「ひとり」(「ひょうたん」56、2015年06月26日発行)
村野美優「伴走者」は短い詩である。こういう作品を「現代詩」とは呼ばないかもしれないが……。
二行目の「窓の向こうを富士山が走っていた」がいい。走っているのは新幹線。富士山は動かない。けれど、一瞬逆に見える。いや、そういう錯覚(間違い)は、もう無意識の内に修正するようになっていて、だれもそんなふうに見ない(見えない)かもしれないのだが。
この一瞬の錯覚を大事に守ってことばを動かしている。そこがおもしろい。後半は少し「意味」になりすぎていて、それがよけいに「現代詩」らしくないのだが、「間違い」を持続するところに「肉体」を感じた。
「ひとり」にも同じような行がある。
鳥が手を(翼を)「つないでいるとりたちはみたことがない」。こちらの方は「錯覚(見間違い)ではなく、正しい認識。でも、それはほんとうに「正しい」か。特に「とぶときはいつもひとりだ」と簡単に断定しているが、ほんとうか。「ひとり」であるかどうかは「手をつないでいる」かどうかとは関係がないかもしれない。逆に言えば「手をつないでいても」ひとりということはあるかもしれない。
が、そんなめんどうなことは、ここでは言わない。
鳥たちは手をつなぎ合わない。「つばさ」をつなぎあわない。その「目で見た事実」を村野は、自分の「両の手」で受け止めている。「目で見た事実」を「贈り物」と受け止めている。
「窓の向こうを富士山が走っていた」というのも、「目で見た事実」であり、それはやはり「贈り物」なのだと思う。ことばが、そんなふうに動いたということが、「贈り物」。そして、それを大切にして、ほかのことばを動かしている。
谷内修三詩集「注釈」発売中
谷内修三詩集「注釈」(象形文字編集室)を発行しました。
2014年秋から2015年春にかけて書いた約300編から選んだ20篇。
「ことば」が主役の詩篇です。
B5版、50ページのムックタイプの詩集です。
非売品ですが、1000円(送料込み)で発売しています。
ご希望の方は、
panchan@mars.dti.ne.jp
へメールしてください。
なお、「谷川俊太郎の『こころ』を読む」(思潮社、1800円)と同時購入の場合は2000円(送料込)、「リッツォス詩選集――附:谷内修三 中井久夫の訳詩を読む」(作品社、4400円)と同時購入の場合は4500円(送料込)、上記2冊と詩集の場合は6000円(送料込)になります。
支払方法は、発送の際お知らせします。
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購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
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2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。
村野美優「伴走者」は短い詩である。こういう作品を「現代詩」とは呼ばないかもしれないが……。
本のページからふと顔をあげると
窓の向こうを富士山が走っていた
すぐ建物に遮られ
見えなくなってしまったが
なおも目で追いつづけると
家並みの向こうにときおり白い頭がのぞいた
それを見ながらわたしは思っていた
こんなふうに見え隠れしながら
伴走しつづけているのかもしれない
だれかのことを
二行目の「窓の向こうを富士山が走っていた」がいい。走っているのは新幹線。富士山は動かない。けれど、一瞬逆に見える。いや、そういう錯覚(間違い)は、もう無意識の内に修正するようになっていて、だれもそんなふうに見ない(見えない)かもしれないのだが。
この一瞬の錯覚を大事に守ってことばを動かしている。そこがおもしろい。後半は少し「意味」になりすぎていて、それがよけいに「現代詩」らしくないのだが、「間違い」を持続するところに「肉体」を感じた。
「ひとり」にも同じような行がある。
くちばしをつつきあって
キスをしているとりたちはいるけれど
てを(いや、つばさを)
つないでいるとりたちはみたことがない
とぶときはいつもひとりだ
生殖の季節はおわった
つれはいらないよ
なんていさましいことをいうつもりはないけれど
贈り物のこのつばさ
両の手にうけとめた
鳥が手を(翼を)「つないでいるとりたちはみたことがない」。こちらの方は「錯覚(見間違い)ではなく、正しい認識。でも、それはほんとうに「正しい」か。特に「とぶときはいつもひとりだ」と簡単に断定しているが、ほんとうか。「ひとり」であるかどうかは「手をつないでいる」かどうかとは関係がないかもしれない。逆に言えば「手をつないでいても」ひとりということはあるかもしれない。
が、そんなめんどうなことは、ここでは言わない。
鳥たちは手をつなぎ合わない。「つばさ」をつなぎあわない。その「目で見た事実」を村野は、自分の「両の手」で受け止めている。「目で見た事実」を「贈り物」と受け止めている。
「窓の向こうを富士山が走っていた」というのも、「目で見た事実」であり、それはやはり「贈り物」なのだと思う。ことばが、そんなふうに動いたということが、「贈り物」。そして、それを大切にして、ほかのことばを動かしている。
草地の時間 | |
村野美優 | |
港の人 |
谷内修三詩集「注釈」発売中
谷内修三詩集「注釈」(象形文字編集室)を発行しました。
2014年秋から2015年春にかけて書いた約300編から選んだ20篇。
「ことば」が主役の詩篇です。
B5版、50ページのムックタイプの詩集です。
非売品ですが、1000円(送料込み)で発売しています。
ご希望の方は、
panchan@mars.dti.ne.jp
へメールしてください。
なお、「谷川俊太郎の『こころ』を読む」(思潮社、1800円)と同時購入の場合は2000円(送料込)、「リッツォス詩選集――附:谷内修三 中井久夫の訳詩を読む」(作品社、4400円)と同時購入の場合は4500円(送料込)、上記2冊と詩集の場合は6000円(送料込)になります。
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購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
ご要望があれば、署名(宛名含む)もします。
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