白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

落ち穂によせて

2011-11-21 | 画廊の様子
ふかふかに掘り起こされた黒土が畝になってどこまでも続いています。
ここは刈り入れの終わったデントコーンの畑です。
五月に種が蒔かれて、小さな黄色の芽が顔をだし、ほんの少しずつ
背丈が伸びて、葉っぱを重ねて行き、八月にはとうとう向うの景色が
見えなくなるほどに大きくなりました。
デントコーンと背比べをするのがとても楽しい夏の散歩でした。
九月にはたわわにしっかりとした実を付けて隙間のないほどの太い
行列になりました。デントコーンは牛達の大好きなご馳走です。
刈り入れ後の今は柔らかく美味しくなるためにサイロの中で
眠っているのでしょう。
畑は再び深く掘り返されて美しい畝がまた入れられ来年の準備が
整いました。
そして牛達のためだけではなく、広い畑には小鳥達が喜ぶ美味しい
実がいっぱいに隠されています。
熟れてこぼれた落穂は天からの賜物です。
此処に立ち止まるといつも心に染みとおるあのルツの落ち穂ひろいを
思い出します。
ルツは信仰深く献身の人、そして感謝の人、旧約聖書の美しい物語の
主人公です。夫の亡き後その母に伝えます。
「Where you go I will go, your people shall be my people, and
your God my God, where you die I will die.」

冬の景色は暗く、寂しく、冷たくて心にも北風が吹き込みますが
小さな落ち穂でお腹を満たし、元気よく寒さに遊ぶ小鳥達や
しっかりと大地に立ち真摯に生きるルツの姿を思うと命を育む
春の光がずんと近くに感じられます。

                      s・y
今朝、窓を開けると雪が舞っていました。
あの畑にも優しく舞い落ちたことでしょう。
「雪は天からの手紙」と雪の博士が詩の言葉を遺しました。
私も、空の向うに行ってしまった懐かしい人たちのお便りを探しに
また、あの畑に行ってみよう。

ちはやぶる

2011-11-16 | 画廊の様子
しずしずとお出ましの龍田姫がその美しい袖を振って野山を染める
夢からふと我に返ると姫さまはいつの間にか足早に歩みを進めています。
「お待ちになって。」とその艶やかな裳裾を思わず引いて
お名残を惜しみたくなるこの秋は幻だったのでしょうか。

ちはやぶる神世も聞かずたつたがはから紅にみづくくるとは
                            業平

都の西、生駒の龍田山とふもとに流れる龍田川は
今も紅葉の名所です。
木々の紅葉に目を奪われても、川面に流れ行く落ち葉にはよりいっそう
魅かれるのは日本人が持っている美しさへの独特の憧れでしょうか。

立田姫手向くる神のあればこそ秋の木の葉の幣(ぬさ)と散るらめ
                     古今集 かねみのおおきみ

平安時代の貴族の衣裳、襲*かさね*の色目は表と裏の色で
様々な配色の妙を楽しむ優美な工夫がありました。
自然に対する畏敬と憧れの思いを込めたものであったのでしょう。

紅葉がさねの色目にはたくさんの濃き、薄きの紅の組み合わせが
創られ、その色の範疇はとめどもなく広げられていきました。
赤、紅は平安の人々にとっては特別な神秘的な色であったのでしょう。

枕草子には清少納言がお仕えする中宮定子さまの紅に染められたお姿を
その美しさ、可憐さ、清らかさを指先の紅から白い頬、流れ落ちる黒髪、
紅の唐衣などを記しながらあふれるような尊敬の眼差しで讃えています。


小さな小さな一枚の紅い葉っぱが寄り集まって野山を錦に飾り、川を染め
人々の情を動かし紅という色に魂が宿り、自然と人とが一つになって
計り知れない深い美の世界を創りだしてきた日本の歴史に限りはありません。

                     s・y

   今日の一枚  「松姫」   宮下壽紀 肉筆

 松姫は武田信玄の四番目のお姫さまです。美しく心優しい方ですって。