白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

いとをかし

2013-06-25 | 画廊の様子
まるで円盤のような月が辺を金色の波で染めながらゆっくりと東の空から
上って来ました。
見事な望月♪の登場でした。

六月二十三日の「月と地球が最接近する日」と「満月」が重なったための
今年最大のスーパームーンだったと北海道新聞の記事に載っていました。
まるで落ちてきそうだと。

遥か昔、月の光を一人静かに浴びながらこんなことを思いめぐらしていた
女性がいました。

  月の明き見るばかり、ものの遠く思ひやられて、
  過ぎにしことの、憂かりしも、うれしかりしも、
  をかしとおぼえしも、ただ今のやうにおぼゆるをりやはある。
                    枕草子

なんと美しい情景そして心の佇まいなのでしょう。
時の流れを止めて振り返る、そしてすべてを受け入れる。
なんと潔く透明な人生観なのでしょうか。

彼女が見上げていた月はどんな形で夜空に浮かんでいたのでしょう。
居待月、立待月、それとも十六夜月・・・

日本の国にはお月様の形にも美しい名前が一つ一つ付けられていて
その姿を楽しむ風習があったのですね。今も暮らしの中で大切にしたい
ものです。心をほんの少しだけお休みさせて。  s・y

今日の一枚の絵  「浴後の美人」 富岡永洗  明治38年 
                        複製版画

永洗は明治二十三年 水野年方と共に岡倉天心に認められて
日本美術院の創設に参加した。

満月を見上げる美女はこうもりを配した涼やかな浴衣をまとっています。
永洗、亡くなる直前の作品です。                    

のぼったり、降りたり?

2013-06-08 | 画廊の様子
朝七時、小さな庭がきらきら光っていました。
初夏のおひさまは明るく元気です。空気はほんわかと温められて
辺り一面、葉っぱの上に朝露が転がっていました。
サンダルの素足が濡れてしまいました。
濃い緑の葉隠に小さなちいさな白珠のようなつぼみがそうっと
揺れていました。
なんて可愛いのかしら。
鈴蘭はその呼び名も姿も六月のみずみずしい透き通った緑の中に
ふさわしい可憐な花です。その愛らしさを語るには多くの言葉は
いりません。
君影草(君懸草)と名づけた人の想いは心を熱くします。
谷間のゆり、谷間のひめゆりとも呼ばれています。
ヨーロッパの国々では少しお花の季節が早いようです。
幸せを運んで来る五月の花、May flower、 May lilyと名づけ
これを記念して五月一日にはお祭りの一日を祝うようです。

「ヤコブの梯子」と呼ぶのはどこのお国でしょうか。
ヤコブは旧約聖書の創世記に登場する少年です。
父親を騙して双子の兄エソウから長子の権利を奪いました。
エソウの怒りのために母は少年を旅に出します。
途中、野に眠ってしまいますと天まで届く梯子の夢を見ました。
その階段を天使たちがのぼったり降りたりしていました。
目をさましたヤコブは神さまに守られていると強く思いました。
後にヤコブは神さまにイスラエルという名前を頂きました。
「神、共にいる」という意味です。

小さな花のひと粒ひと粒がつながっている細い茎を梯子の階段に
つぼみは楽しそうに遊んでいる天使たちに見立てたのでしょうね。

小さな小さな花のつぼみから夢のお話がふくらんでいきます。
                s・y

この恋はいまどのあたりすずらんは下から咲いて下から枯れる
                  俵 万智

夏は来ぬ

2013-06-07 | 画廊の様子
遅い春を惜しむ間もなく、山の向こうから緑の風が吹いて来て
木々の葉を一斉に染め上げ、陽炎を燃え立たせ、光がはじけて
花たちのあふれる北国の六月になりました。
いよいよお祭りの季節がやって来ました。
北海道神宮のお祭りは14日の宵宮から15,16日と続きます。
蝦夷地が北海道と改められたのは明治2年、1869年のことです。
明治4年に札幌神社として札幌市の円山に置かれ、開拓のお守りにと
三つの神様をお迎えし、明治12年(1874年)から神輿が市内を
まわるようになりました。
神輿を担ぐ人たちは開拓当時を彷彿とさせる衣装を着けます。
華やかに飾られた山車や神輿、お囃子が静々と大きな通りを
進みます。
深い雪から抜け出た市民はその喜びに神輿行列見物に駆けつけます。
ライラックの花の香りがお祭りを楽しむ人々を優しく包みます。
お祝いの食卓にはお赤飯、蕗や笹だけの子に油揚げやこんにゃく
わらびの煮物、ますや時鮭の漬け焼き、赤カブの酢の物など
定番のご馳走がいっぱいに並べられてどこの家でもお馴染みの
お祭りのメニュウとして振舞われています。
今も昔も変わりません。
札幌の街も周囲が大きくなったので昭和39年に北海道神宮となりました。

今日の一枚の絵 「祭り」 ジヨージ・クロスビー 油彩 1990年

祭り半天を羽織り、きりりと額に締めた鉢巻姿も凛々しい子供たちが
ヨーヨー釣りに興じているのが描かれています。
今でもお祭りのハイライトは中島公園に並ぶテントの出店です。
美味しい匂いや数々のゲームや小物のお店が大人も子供も大好きです。

クロスビーは1947年、ニューヨーク生まれのニューヨーク育ち。
イラストレーターとして働いていた当時に浮世絵に出会いました。
1989年の冬から1990年の夏まで約半年間札幌に滞在して
どこにでもある街の景色を特別に美しいものとしていきいきと
描きました。

お祭り見物に出かけて行って迷子になって大泣きしたのは
だぁれ?手をあげて!
            s・y