白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

薫淡雪

2012-02-29 | 画廊の様子
今朝のニュースでは都心で時ならぬ雪が降ったとか。
春の女神さまのいたずらでしょうか。
降っては解ける淡雪だとロマンチックだけれどもう少し
積もったようですね。

遥か万葉のむかし、大伴旅人宅で催された観梅の宴では
白梅の美しさを愛でつつ冬に別れを告げ春を迎える喜びが
そこに集った三十二人の人々によって梅の連歌に詠まれました。

我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも  旅人

万葉の春を告げる花は梅であり、男たちはその枝を頭にかざしたり、
袖に挿したりまた、花びらを盃に浮かべて楽しんだそう。

ももしきの大宮人は暇あれや梅をかざしてここに集える  万葉集

「花は梅」が「花は桜」に変わって行ったのは平安時代になって
からでありましょう。

しかし、梅は花の兄なりと伝えられるように、未だ凍える大気の中で
ひっそりと一輪一輪、つぼみを膨らませてほのかに香り、春を白に紅に染め上げて
いきます。梅はまさに日本の大切な「花の兄」なのです。
     
ふる雪にいづれを花とわきもこが折る袖にほう春の梅ヶ枝  順徳天皇

今日の一枚  「しら梅」        岩田専太郎 木版
       木版美人名作撰               
     
春の襲の色目 梅  表(白)花の色  裏(蘇芳) 幹や枝の色


ここ、北国に梅の花が匂い立つにはあとふた月、ゆっくりと春の鼓動に耳を澄ませて
時を待つ心を大切にしたいと思います。
白雪に覆われた山や街が密やかに春色に染まって行くのを見逃さないように。

                         s・y                  

たまごとふたご

2012-02-17 | 取り扱い作品のご紹介


凍る夜空のステージを華やかに演出するのは煌めく冬の星座です。
星たちは深い漆黒の天井から、そして木々の枝の青い隙間から
遠くに近くに瞬きながら数え切れないほどの神と人間とのロマンスを
描き続けています。
冬の夜空で繰り広げられるお話のヒーロー、ヒロインは限りが
ありませんが、今日のお話はカストルとポルックスという二人の
少年に主役をつとめてもらいましょう。

美しいスパルタの王妃、レダがある時川辺で水浴びをしていると
かねてから彼女に恋焦がれていた天の大神、ゼウスが一羽の
白鳥に身を変えて近づきこれを誘惑しました。
身ごもったレダは遠い地に逃れてある山蔭の青いヒヤシンスの
花の茂みに一つのたまごを産みました。
兄弟愛のシンボル、ふたごのカストルとポルックスの誕生です。
この双子の星は大昔からギリシャの人々に船乗りを守る救い主として、
また、白馬にまたがった青年の姿でと様々に姿や名前を変えて
語られています。
詩人ホメロスの叙事詩には調馬師カストル、拳闘士ポルックスとして
登場します。
ふたごの母、レダの行く末は気になりますが様々な苦難から逃れに
逃れてついには成長した息子たちに救われたということです。
良かった

澄み切った冬の夜空ほど星たちが美しく見える季節は他に
ありません。
夕方、東の空にきらきらと輝く腰帯をきりりと締めて大巨人のオリオンが
ふたごの星を従えて登って来ます。
この兄弟はいつも仲良く肩を組んでいます。
白いのが兄のカストル、ほんのり赤いのが弟のポルックスです。
この双子座が南の空に低く輝く頃にはこの地上に春の女神がやって来ます。

春の訪れはまだまだでしょうか。
いましばらく、晴れた夜空の日にはこのふたごのお星様誕生の秘話を
楽しむことにいたしましょう。
                        s・y

今日の一枚   「レダ」 東郷青児 リトグラフ  E・A