白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

春色みどり

2010-03-28 | 画廊の様子
          今日の一枚     「春の雪」  宮下柚葵 (1928~) 

  傘を少し傾けて初々しい眉の美女が雪の中を急ぎます。
  春の淡雪が彼女の頬を濡らします。
  一心に思いつめた瞳の先には何が待っているのでしょうか。
  雪のひとひら一片が袂の浅緑に白すみれのつぼみのように降りかかります。
  
  彼女は光あふれる季節が待ち遠しくて春一番のみどりの着物に手を通したのでしょう。
  
モノトーンの冬から一番に生まれる命のみどりは木の芽、草の芽の浅緑でしょうか。
湿った黒土をもちあげて顔を出すクロッカスの芽は黄緑色?
向うの山の裾野に広がるのは若草色ですね。
木々の芽が一斉に吹き出すと山は萌黄色に包まれます。

日本の春のみどりを表す言葉はまだまだあります。
日本の四季が創りだす色彩はなんと優美で繊細なのでしょうか。   
それを感じ表し楽しんできた日本人の感性が「日本画」の中には
あふれるように描かれていることを誇りに思います。

浅緑いとよりかけて
    白露を珠にもぬける春の柳か    僧正遍照 

                          s・y   

小さな神様

2010-03-22 | 画廊の様子
かわいい蕗の董が我が家の庭に産声をあげました。
小さなつぼみの集まりは赤ちゃんの拳のような形です。
待ちわびた北海道の春を真っ先に告げてくれる野草です。

雪解けのやわらかな黒土の中にこの若芽を見つけると本当に春が来たのだと心が躍ります。

生まれたての蕗の董はその香りとほろ苦さで冬の疲れを癒してくれます。
元気に育った茎は六月のお祭りの頃には柔らかい葉と共に野の香りで食卓を包みます。

北海道の野生の蕗は山間の肥えた土地では2メートル以上にもなって
まるでパラソルを広げたような姿になります。

昔、アイヌの人たちはこの大きな葉っぱで緊急の避難小屋を作ったり雨具の代わりにしたり
ご馳走を入れるお鍋やお皿にしたと伝えられています。

小さな蕗の董から大きく育った大蕗まで「蕗」という力強い植物が
アイヌの人たちの暮らしを助け守り支えたおかげで、その葉っぱの下には
小さな神様が住んでいるというお話が生まれました。
コロポックル(フキの下の小さな神様)と呼ばれたそうです。

時々、いたずらっ子になって悪さもしたそうな・・・・・

この赤ちゃんのにぎにぎの拳のようなつぼみの中にコロポックルが隠れているかも
しれませんね。

                             s・y

イルカは歌う

2010-03-17 | 取り扱い作品のご紹介
   夕べ夢の中に雪が降りました。大きな牡丹雪でした。ふうっと目が覚めて
   窓の向うをこっそり覗いてみると静かに雪明りの街が広がっていました。
   夢に降る雪も本当に降る雪もどちらも人の心に積もった塵を覆って消し去ってくれる ように思われます。


   朝になってどのくらい積もったのかしらとカーテンを引いて見ると
   ふんわりと残り雪の上にのっかっているだけで、お昼には降った分だけ消えてしまいました。

   落ちてはとける雪・・・淡雪・・・春の雪は降る時をきちんと知っています。


♪汽車を待つ君の横で僕は時計を気にしている~ラジオから流れてきました。

   日本の早春を代表する曲です。

今はもう汽車の風景はありません。でも人の心の風景は昔も今も変わりはありません。
なごり雪、別れ雪、忘れ雪、恋の淡雪、春の雪は様々な心模様を包んでいます。

降っては消え落ちてはとける季節の中で、人は誰かを見送り誰かに見送られる、
そんなことを繰り替えしながら本当の春に出会うのではないでしょうか。

♪いま、春が来て 君はきれいになった 去年よりずっときれいになった・・・イルカは歌います。

        今日の一枚の絵    「春乃雪」  宮下柚葵    肉筆


                          s・y

あなたを待つ☆

2010-03-10 | 画廊の様子
あなたはこんな素敵なを受け取ったことがおありでしょう

「待つ」という言葉にはたくさんの思いがあふれています。
春を待つ、月の出を待つ、花を待つ、風を待つ、あの人を待つ。

待つことは嬉しさ、せつなさ、悲しさ、苦しさが胸いっぱいに渦巻きます。
何もかも時が満ちるのをじぃっと待つ、待ち続けることで「待つ」は成就するのかも
知れませんね。

        来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ  定家

        たち別れいなばの山の峰に生ふるまつとしきかば今帰り来む  行平

   ひたむきないにしえの恋の歌す・て・き              s・y

              「待つ女」 今井幸子       リトグラフ

股引、笠の緒、三里の灸

2010-03-01 | 画廊の様子
元禄二年二月、芭蕉は春の匂いが立ち込めてくると漂泊の思いが止まず
二度と帰れるかどうか分からない旅に出ることにしました。
見えない旅の果てを思いやり、心にかかることのないように
隅田川のほとりにあった草庵を引き払い杉風の別荘に移りました。
身の回りの旅支度に細やかな心配りをしながら
さすがに江戸の花の景色や友達に別れるのは寂しく、人に譲ったあの
わびしい家も懐かしく思えるのでした。

       草の戸も住みかはる世や雛の家      芭蕉

☆ 久しく住んだ庵が妻と娘を持った人に代が変わって
   この雛祭りには人形が飾られてやさしい雛の宿に
   なっているでしょう。

三月二十七日、芭蕉は親しい人々に見送られて千住という所から、白河の関を目指して
「おくのほそ道」の三千里の旅に出ました。

  私はお雛様飾りの中ではやさしいぼんぼりの灯りが大好きです。
  この芭蕉の句「雛の家」からこぼれてくる仄かな明かりが幸せそうでたまらなく
  心打たれるのです。

                      s・y