白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

霞みか雲か

2014-04-22 | 画廊の様子
四月、小さなちいさな木の芽、草の芽がふくらんで淡い紅色や若草色や
黄色にと幾重にも山一面を染めながらふもとの野や畑、町へと錦の春を
運んで来ました。
津軽海峡をゆっくり越えて早春前線がここ、北国に上陸しました。
二十四節気の穀雨のとき、甘露の雨は優しく眠っていた大地に降り注ぎ
芽吹いたばかりの命を大切に守ってくれます。

桜前線は湧き上がる温かな気流に乗って北へ北へと旅の途中にあります。
日本の春を華やかに彩る桜ははるか昔からその開花によって種もみを蒔く
時を人々に教え、またその美しさを愛でる喜びを祭りごととして伝えて
人々に寄り添いその文化と暮らしを支えて来ました。

   今日の一枚の絵  「富士と桜」 小林幸三  油絵 肉筆
富士山は日本人の魂のふるさと、桜は心と暮らしのよりどころとも
云えるでしょう。人々はその前に立ち、見つめることで心にある人生の無常、喜び
哀しみを歌に詠み筆に託してきました。
        さまざまの事おもひ出す桜哉 芭蕉

小林氏の「富士と桜」は瑞々しい淡い空に胸をいっぱいに広げて深呼吸を
しているお山を襲の色目の薄花桜の衣をまとわせて愛でているように思われます。
凛として、またなんと雅な姿でしょう。

雅の極致はやはり源氏物語の「花の宴」のシーンに行き着きます。
和歌や音曲、舞いを楽しみながらの花見の宴に飽きた二十歳の光源氏は
そっと抜け出した夜のしじまの中で「朧月夜に似る物ぞなき」と歌う声を
聴きます。やがて姿を現したのは桜の花びらをその身に纏ったかのような
美しい姫君でした。この出会いは哀しい運命をたどることになりますが。

  春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり 西行

桜の花の美しさには見とれてしまうので夢見草という名もあるのですって。
お花見のごちそうは何を作りましょうか。あと少し、もう少し。
                待ち遠しい。 

  プリンを焼きました。「朧月」と命名 …ほほ、ほ。s・y