霞たち木の芽はる雨きのふまでふる野の若菜けさは摘みてん
藤原定家
二十四節気の啓蟄、大地が温まり眠っていた命が大きいも小さいも一斉に息を
吹き返す時季です。北の街はまだまだ雪が残っていても雪解けのかすかな音に
心が弾みます。
木の芽が膨らむのはもう少し先、梅や桃、桜はあとふた月近くも待たなければ
いけません。
兼好法師は白梅と薄紅梅を愛でて「梅は白き、薄紅梅、ひとえなるがとく咲きたるも、
かさなりたる紅梅のにほいめでたきも、みなをかし。おそき梅は、桜に咲きあいて、
覚えおとり、けおされて、枝にしぼみつきたる、心うし」と。
南の地では樹に花咲き薫る頃、お先にどうぞです。
桃の節句のお祝いをしました。桃の花、菜の花、ちゅうりっぷ、
フリージアなど花屋さんでのお買い物と、鯛ならぬ鱈の切り身などお供えの
材料を見繕って雪の中を帰宅、なんとかおひなさまのご膳を整えました。
鱈は桃の花のピンクのそぼろにして桃の色ご飯に。可愛く仕上がりました。
花の時季は梅が先、厳寒に耐えて春、百花に先がけて咲き薫ります。
中国では「君子の花」とよび国花にしています。
春さればまづ咲くやどの梅の花ひとり見つつや春日暮らさむ 憶良
桃は中国では仙木、仙果と呼び霊験あらたかな植物とされていて
桃の節句にはその花を供えて子供の健康と幸せを祈る風習があります。
春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子 家持
日本の色、日本人の愛する古典の歌です。
北国では木の芽が膨らむと梅、桃、桜は一斉に開花してその美しさを競い合います。
長い冬の厳しさに耐えた私たちへのご褒美でしょうか。待ち遠しい日々です。
画家の故堀文子さんは画文集の中、「花のなかに描かれた蘂~しべの程よい気品。
まさに梅は百花の王たるに相応しい清冽な厳しさを湛えている。その美しさは、
一種の冷えた薫がある。」と。
今日の一枚の絵 「春近し」 竹久夢二 木版
皆さまは梅派ですか?それとも桃派?あ、桜ですか?
私は桃かしら。桃色は女性の肌着などに使われた身近な色、ちよっと
セクシー系のカラーと思われても仕方がないけれど、お雛さまの色ですから、
大人の女性たち、お年頃の乙女たち、小さな少女たちを魅力的にレデイとして
装ってくれる素敵なお色であるとと思います。 s・y
~春よ来い早く来い~