白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

ふしぎ!不思議!でもホント?

2010-07-23 | 画廊の様子
         「遠野の旧家」    花井 治  油彩 8号


今から百年前に美しい日本の説話集「遠野物語」が生まれました。

岩手県遠野出身の学生、佐々木喜善によって語られた民話を
当時農商務省官吏の柳田國男が筆記、編纂、自費出版した彼の代表作で
民俗学(folklore)の聖典と言われています。

遠野盆地、遠野街道にまつわる神々の由来、天狗や河童、座敷童子、
神隠し、山人、マヨヒガなど様々なおはなしは独特の詩的散文で
綴られています。
柳田はこれらは厳しい風土のなかで自然を拝み恐れ、自然に習い
これと遊んだ人々の民間伝承から生まれたものであり、
聞いたままの話を編纂したものであると語っています。

おはなし 一つめ~河童
  川の岸の砂の上に河童の足跡があるのは珍しくはないのさ。
雨の日の翌日は
  なおさらハッキリしているんだよ。
おサルの足とおんなじで親指が離れていて
  人間の手に似ているんだ。長さは少し短くて先っぽはぼやけていて
  よくわからないんだ。

おはなし ふたつめ~河童
  よその河童は顔が青いって言うけんど遠野の河童は赤いんだよ。
  佐々木君の曾ばあさんが子どもんときに庭で友だちとあそんどったら
  胡桃の木の間から真っ赤な顔した男の子がこっちみていたと。
  これが河童さ。今もその胡桃の木はでっかくなってあるんだと。
  この家の屋敷のまわりはぜーんぶ胡桃の木ばっかりなんだと。

「遠野の旧家」はこの地に江戸時代から大切に住み継がれてきた
南部曲がり(L字型)家の建物で人が住む母屋と厩が一つになったもので
石垣のうえに堂々と建っています。
馬と共に暮らし馬を大切にしていた暮らしがよくわかります。

緑深い山や谷や川に囲まれた曲がり家の囲炉裏端で
語り継がれて来た怪しいおはなしは
現実と非現実が生き生きと暮らしの中で共存した
魅力あふれる文学作品であると云えるのではないでしょうか。

今日、七月二十四日は「河童忌」、 河童を愛した芥川龍之介の命日です。
彼が「遠野物語」と出逢ったのは19歳の時でした。

      
私は今、「水木しげるの遠野物語」の奇怪なワールドの中で
生々しく残酷で不思議でしかも人生いかに生きるべきか 戒めありの
怖わーいおはなしをゾクゾクわくわくして読みながら
たくさんの妖怪たちや亡霊たちと向き合っています。      
                  s・y




夢の八橋

2010-07-12 | 画廊の様子
  昔、諸国を巡る旅の僧がいたそうな。

ある日、たどり着いた池のほとりに夢のような典雅な花が
香り高く風に舞っていたという。
この花の群れを愛でていると女が一人現れて、ここは三河の国の八橋というところだと
教えたとか。
僧はそれなら古歌に詠まれていて知っていると答えると、女は「からごろも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」と謡い、
唐衣、着、妻、遥、旅と五文字を歌の句の上において旅の心を詠んだ業平の故事を語ったそうな。

旅僧は導かれた庵でこの女が雅な初冠と唐衣を纏った美しい花の精と化して伊勢物語の東下りの段を舞う中に業平の華麗な恋愛模様の幻をみたそうな。

この幻想的なシーンは能の「杜若 かきつばた」でシテ(花の精)とワキ(僧)が舞います。
大和言葉の美しさと雅な貴族の夢のような世界が展開されます。

遠い古代から私たちの今の時まで、杜若、あやめ、花菖蒲の典雅な花たちが
夏の訪れを告げて、今を盛りとその衣の袖を反しながら香り高く風に舞って、
まるで業平の形見の花たちではないかと見まごうばかりの美しさで咲いています。
花たちはその長い美の歴史をしっかりと今に伝えて来てくれているのです。   
                               s・y

今日の一枚      「菖蒲」(あやめ)         宮下 柚葵    肉筆
                   
                      重ねの色目  淡萌黄の着物に淡紅梅の帯

星に願いを

2010-07-02 | 取り扱い作品のご紹介


夏の星達の美しさは目映いばかりです。
彼らは赤く白く、大きく小さくそして遠くに近くにと
夜空にその美しさを際立たせます。

夏、太陽は力を増してせっせと大地の命を育てます。
一方、一日の仕事を終えて太陽が去って行き
涼やかな風が吹き渡る時刻になると
星達がゆっくりと天の彼方から昇ってきます。

暑かった一日の終わり、夜の庭に出て天を仰ぐと
白樺の黒い影の枝先にお星さまが密やかに温かく親しみをこめて
瞬いていました。
一粒一粒の光が慎ましやかで美しく清らかでした。
唯、じっと見つめているだけで満ち足りた思いが心の片隅から湧いてきました。

春から夏の間、毎晩、南の空から赤く輝く麦星と白く輝く真珠星のご夫婦が
仲良く手をつないで登場します。
麦星は牛飼い座の一等星でさみだれ星ともよばれ稲の穂を育む雨を降らせる星です。
真珠星はおとめ座の一等星スピカで農耕の女神、麦の穂を片手に持っています。
このお二人がいつまでもずっと仲良しの夫婦星で夏の夜空をハートで焦がしてくれますように。
そうすると毎年、畑の収穫には大いに恵まれることになりましょう。


願い事はたくさんあるけれど、とりあえず(笑)このお星さまのご夫婦には今年の
豊作の喜びを叶えて下さるようにお願いをいたしましょう。

                           s・y

     今日の一枚   「あやめ」 蕗谷 虹児      絵葉書