白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

蝶になる

2015-09-03 | 画廊の様子
九月、新しい季節のカーテンがさあっと引かれてトンボが舞い始めました。
深々と茂った夏草はまだまだ勢いがあります。
それでも道行く足元からは秋の虫の小さな歌が聞こえてきます。
花畑や草原に陽がたっぷり注がれた昼下がりには小さな白や黄色の蝶々が
ひらひらと円を描いて遊ぶ姿の可愛らしいこと。
刈り取られたひまわり畑を歩いていると私の胸元に美しい緑色のバッタが
留まりました。ブローチにして帰ろうと思ったらぽんとどこかに飛んで
行ってしまいました。
ふと振り返ると今歩いてきた道を元気に横断中の……これはほんとに、
ほんとうの蛍光色緑の青虫が。
思わずキャッと悲鳴をあげてしまいました。

平安時代の物語、堤中納言物語の中の誰もが知っている「虫めづる姫君」を
読み返してみることにしました。

「蝶めづる姫君」のお隣には按察使の大納言が住んでおられました。
この方の一人娘は手のひらにいろいろな虫を乗せて飽かず眺めるのが大好きな
お姫様でした。下男どもに(けらお)とか(いなごまろ)とか(ひきまろ)
とか言う名前をつけて思いっきり奇妙な虫を集めさせては褒美を与えてやり
ましたからもう大変。この「虫めづる姫君」の評判はずんずんわるくなる
ばかりです。おまけに長い髪の手入れもせず、眉毛も整えずぼさぼさの
毛虫のよう、おはぐろも嫌いですからご両親も周りの者も嘆くばかりです。
姫君は中でも毛虫が大好きでそれぞれを籠に飼ってそれらが形を変えていく
様を見守り観察をするのでした。
世間の評判なんぞなんのその、「ものごとの初めから終わりまでを調べてこそ
真実の姿に出会うことが出来るのだという信念を曲げませんでした。
  
    万のこと、もとを尋ねて末を見ればこそ、事はゆゑあれ。


ある貴公子がそっと垣間見た姫は薄黄色の袿に機織り虫(キリギリス)の
模様の小袿を重ね、白袴をつけた清々しい姿でありました。

明日は名残の夏と秋の気配を二つほど楽しみにでかけましょう。
                      s・y
   
  今日の一枚の絵  「虫篭」 宮下壽紀    肉筆




  今日のお菓子は「にんじんちゃん」