白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

「ち」「た」「ぷ」「ぽ」

2013-07-26 | 画廊の様子
この四つの音の響きを持っているのは日本の古典楽器の一つ、
小鼓です。鼓を打つ音と「いよーっ」「ほーっ」「よーっ」と
言う掛け声は相まって演奏にメリハリをつけて確かな緊張感を
創り出します。
様々な古典芸能の舞台を他の楽器の音と共に華やかに厳かに彩り
観る人聴く人の魂を幽玄の空間へと知らぬ間に導いて往きます。

日本画家上村松園(1875-1949)は聡明で心の清らかな女性を敬愛し、
一点の卑俗なところもない清澄な香り高い珠玉のような絵をその
芸術目標にしていると語っています。
今日の一枚の絵「鼓の音」は松園さんが一打ちで響く鼓の音色を
絵にしたいという心を込めた作品です。
美しく結い上げた高島田、気品に満ちた令嬢のほのかな紅色に
染められた指先が弾け、そこからは心地よい澄んだ音色が聴こえて
くるようです。
上村松園はなにものにも侵しがたい気品と優しさ、強い意志を備えた
女性の姿を生涯描き続けました。
「鼓の音」 上村松園 1940年 シルクスクリーン
 

  六月、札幌にての市川亀治郎改め四代目猿之助襲名披露公演  
     演目 「義経千本桜」 川連法眼館の場~ 四の切り
桜満開の吉野山、恋しい義経の元に急ぐ静とそれに従う忠信の主従の
道行は~恋と忠義はいづれが重いと始まります。
静の携えた初音の鼓は桓武天皇の世に雨乞いのために千年の寿命を
持つ雌と雄の狐の生皮で作られたものでこの忠信はその鼓の子の
化身でした。
道中、静が鼓を打つと狐の化身の忠信が必ず現れて静を守り
無事に義経の元へ送り届けたのでした。
義経は親を慕う子狐の身の上に我が身を重ねて哀れに思い源九郎という
自分の名とこの宝物の鼓を与えたのでした。

舞台は襲名披露口上と共にとても美しく躍動感に溢れ、物語の中に深い
人の情と魂の輝きを見た思いがしました。
                    s・y

吉野山峰の白雪踏み分けて入りにし人のあとぞ恋しき 
                      静御前