白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

光と影

2010-12-31 | 画廊の様子
 今日の一枚  上村 松園 「夕暮れ」シルクスクリーン

一年中そして一日中、光と影は追いかけっこをしています。光は影を追いかけて影は光を追いかけて
くるくると回ります。光は真昼の白色ですべての色彩の源でありそこからすべての色を発し、
影は真の闇夜の黒色ですべての色彩がそこに溶け込みそれで完結されるのです。
それぞれ純白と漆黒という美しい日本語で表されています。                                     夕暮れはちょうどその真ん中に位置していて黄昏・・・たそがれともいいます。

松園さんの「眉の記」~
 (略) 西陽はもう傾いてあたりはうすぼんやりと昏れそめても、
  母は気づかぬげにやはり縫い続けて居られる。(略)
  ふと静かな母の針の運びが止まる。
「もうちょっと、ほんのこれだけ縫うたらしまいやさかいに‥‥‥ほんに
 陽のめが昏ろうなった‥‥‥」(略)
その姿が私の幼心にも、この上なくひとすじに真剣な、あらたかなものに
想われたものでした。

そしてこの母の深い理解と支えのもとに最高の芸術家として花を開くことになるのです。

今日はNew Year's Eve 大晦日です。早々と陽が落ちていきました。
忘れられないこと、忘れたいことがたくさんあります。
光と影があふれています。
夜の闇が迫ってきても必ずどこからか一筋の光が心を照らしてくれると
いつも信じています。
あと少しの時間で去っていくこの年がとてもいとおしく想われます。

イギリスのある詩人が謳ったように天に一番近くに響く厳粛で感動的な鐘の音でこの年を
送り出し新年を迎え入れましょう。

                        s・y
 
 
 
               

ローラのクリスマス

2010-12-20 | 画廊の様子
ローラは夕ごはんのあと原っぱの星明りの中でとうさんの弾く
バイオリンの音を聴くのが大好きでした。
大きなお星さまがゆれながら降りてきてローラに歌ってくれるのです。

夜がとても長くなって寒くなってきた冬の日にとうさんは森の奥から
一本のちいさなもみの木を切って帰って来ました。
暖かな部屋に良い香りが漂いました。
もみの木のてっぺんは十字の形をしていてローラはそこに一つ
大きなお星様を銀紙で作って飾りました。
三人の博士を導いたベツレヘムの星です。
紅いりんごとキヤンドルそれからきらきらのベルもつるしました。
あとは真っ白な雪を待つだけです。

クリスマスの前の晩というのに森のそばのクリークは烈しい雨で
ゴーゴーあふれそうです。
とうさんの友達のエドワーズさんは独り者なのでかあさんは
ディナーに招待していたのです。
こんなお天気ではエドワーズさんもサンタクロースもあのクリークを
渡れっこありません。
でもとうさんはお祝いの七面鳥を森で撃って帰ってきました。
ローラはもうクリスマスは来ないわとあきらめてメアリーねえさんと
ベッドに入りました。
私たちにはとうさんとかあさんがいるし暖かな家やご馳走もいただけるし
幸せなのだと自分に言い聞かせました。
かあさんはそれでも洗いたての靴下を片方ずつベッドのはしに
つるしてくれました。

夜が明けた頃にガタガタと音がしてずぶぬれのエドワーズさんが
やって来たのです。
頭には着ていた物をくくりつけ体が浮かないようにお土産の9本の
さつまいもを股引のあいだに挟んでクリークを渡ったのです。
クリークの向うで赤い服のサンタクロースに会ってローラたちへの
贈り物を預かって来たというのです。
かあさんは夕べの靴下にその包みをそれぞれに積めて渡してくれました。
甘い棒のキャンデーやハートのクッキー、ブリキのコップを一つづつ
それに銅貨が一枚づつ入っていてまるで夢のようでした。
二人はあれやこれやエドワーズさんを質問攻めにしてしまいました。

みんなで七面鳥の丸焼きとホカホカのさつまいもとふかふかのパンを
お祝いにいただきました。

なんて幸せなクリスマスなのでしょう。
サンタクロースのおじいさん、エドワーズさんありがとうございます。
ローラとメアリーねえさんはささやかだけど温かな愛に包まれた
クリスマスに感謝でいっぱいでした。
   
     大草原の小さな家  ローラ インガルス ワイルダー 作 より
       もうひとつのローラのものがたり  by s・y
  
   この地球が今も未来も世界中の子ども達にとって愛に満ちた場所で
                          ありますように。




雪の音

2010-12-11 | 画廊の様子
ただただ、深々と降り積もる雪の夜、
水辺の葦もそれに寄り添う柳の枝も
微動だにしません。

妄執の雲晴れやらぬ朧夜の
       恋に迷いしわが心

天の闇から一筋の光が射した夜の底に
綿帽子に白無垢姿の娘がしょんぼりと佇んでいます。
可愛らしく片足で立ち片方の爪先を下ろしては小さく歩きます。

この世のものとも思えない美しい舞台が繰り広げられていきます。
「柳雛諸鳥囀り」の鷺娘の踊りです。

濡れる雫と消ゆるもの‥‥と白鷺の精が目が醒めるような
紅いちりめんの衣裳を纏った町娘に変り、次々と引き抜きで
衣裳を変えながら苦しい娘心を踊り尽くします。
とけて逢瀬の嬉しさも、余る色香の恥ずかしや‥‥

最後のくだりは添うも添われずあまつさえ、邪慳の刃に‥‥
鷺の羽根に火焔模様の銀糸縫いの着物で狂乱の中に身を落とす
凄絶な場面になります。

ここに愛するものを得られない苦しみが魂を破滅に誘うのは
日本人が持っている独特の恋愛観として表れているのでは
ないでしょうか。

「鷺娘」では雪音の鳴物、唄、三味線が踊りと競うように
舞台を盛り上げます。

静かな冬の夜に目をつぶり降る雪の音に耳を澄ませると
純白の衣裳、引き抜いて深紅の衣裳に包まれた玉三郎の
「鷺娘」の気品に満ちた舞姿が浮かんできます。

その時々の心模様に響く雪の音はそれぞれに違ってはいても
しみじみと優しく人の心を包み込んでくれるはずだと思います。

                      s・y

今日の一枚の絵   「鷺娘」  多美子  肉筆