白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

カムイユーカラを世に送り出した少女

2020-07-20 | 画廊の様子
緑の森の葉陰から誰かが口ずさみながらやってきます。
  「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに……♪」
小さな足音を立てて歌っています。それは一人の美しい少女~ピリカメノコ~
でした。
日本名は知里幸恵17才です。
国語学者金田一京助博士の指導のもと、その驚くべき記憶力とすぐれた文学の才能で
文字を持たないアイヌ民族の口伝の謡とお話をローマ字で表し、美しい日本語に訳して
アイヌ神謡集ー「カムイユーカラ」にまとめました。
その序文には~その昔、この広い北海道は私たちの先祖の自由の天地でした。~
とあります。
叔母や祖母から語り聞かせられた昔の人の逞しく美しい魂の輝きを消してはならない
と思いました。
1922年(大正11年)五月、それまでに書きためた「アイヌ神謡集」の
草稿執筆をはじめ、校正を済ませたばかりの九月に持病の心臓病が悪化して九月18日、
亡くなりました。19才でした。

「カムイユーカラ」~アイヌ神謡集は1923年(大正12年)に
金田一博士の尽力により上梓、出版されました。
              
知里幸恵 (1903~1922年)
幸恵は心の底からこう語っています。
 愛するわたしたちの祖先が起伏す日頃、互いに意を通ずる為に用いた多くの言語、
言い古し、残し伝えた多くの美しい言葉、それらのものもみんな果敢なく、
滅びゆく弱きものと共に消え失せてしまうのでしょうか。
おお、それはあまりにもいたましい名残惜しいことです。
雨の夜、雪の夜に語り興じた物語をみなさまに読んでいただけたら
無限、無上の歓びです。     知里幸恵  大正十一年 三月一日


ユーカラの謡には狐や兎、蛙や梟、熊など動物神が物語を進めていきます。
人はいかに生きていくべきなのかを面白おかしく語ります。自然の
美しさ、残酷さを語ります。自然を敬う心があふれています。」
生まれ置かれた場所で楽しく、逞しく生きてゆく知恵を授けてくれるお話が満載です。

梟の神の自ら歌った謡
  
  銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまはりにという歌を私は歌いながら
  流れに沿って下り、人間の村の上を通りながら下を眺めると
  ……子供らが「美しい鳥!神さまの鳥!さあ、矢を射てあの鳥を射当てたものは
ほんとうの勇者、ほんとうの強者だぞ。」……つづく……


えぞきすげ   初夏の散歩道の深い緑の中で清楚な頬笑みを投げかけてくれました。   
                                s・y
     
ピリカメノコ   槐(えんじゅ)の木     白珠画廊 所蔵  工芸品