白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

卯の花曇り

2014-06-20 | 画廊の様子
青時雨が通り過ぎる度に木々の枝が濡れた若葉をふるわせながら
深い緑に染まっていきます。

卯の花、ほととぎす、忍び音、早乙女、五月雨、玉苗、蛍、川辺、
夕月、五月闇……歌にちりばめられた一つ一つの言葉は清々しく、
そして美しく、日本の初夏の情景を余すところなく歌い上げています。

青葉に降り注ぐ雨の音は優しくつぶやくように聴こえます。
この時期は陰暦の五月、陽暦では今の六月にあたります。
雨が曳きも切らず降り続くと梅雨の空がちょっと恨めしくなります。
雨が止んだほんの少しの間におもてに出てみると、もやが立ち込めて
ひんやりとした中に白い影があちらこちらに揺れています。

「夏は来ぬ」と初夏の訪れを待ちかねて咲き始めるのは何故か
白い花たちです。

緑の雨にそぼ濡れる蝶の翅のような純白の花びらを散らすのはニセ
アカシヤ。
並木の花房が風に揺れるとロマンチックなランタンの燈が灯ったようです。
この純白の花はたくさんの小説や歌の中で甘くせつなく薫ります。

今日は近くの土手で卯の花に似た源平空木が満開なのを見ました。
初めは白い花びら、それがピンクに、そして真紅に染まっていく
花、今日はもう、すっかり紅白の源平の二色が混じりあって
初夏の晴れ着の装いでした。
なんだか佳いことがあるかしらと重くなりかけた心がいっぺんに
軽くなりました。
そうそう、蛍も源氏蛍と平家蛍がいましたわ。紅白でおめでたい。

  卯の花の咲き散る丘ゆほととぎす鳴きてさ渡る君は聴きつや
  
  聴きつやと君が問はせるほととぎすしののにぬれて此ゆ鳴き渡る
                         万葉集
今日の一枚の絵  「蛍」 宮下柚葵    肉筆 






  近くの農場にて、散歩中の一瞬の晴れ間に…  アカシヤの花房、白菫、white clover
                                         s・y
卯の花襲  表は白  裏は青・・・緑の葉に純白の花
                           


紫匂う

2014-06-05 | 画廊の様子
~この花のひとり立ちおくれて、夏に咲きかかるほどなん、あやしく
心にくく、あはれにおぼえ侍る~と紫のゆかり深い「源氏物語」には
藤の花についてこのように描いています。
春の風に花のつぼみがうながされ、夏の風に揺すられてやっと花房が
目を覚ます、季節のはざまの中でいたずらっぽく微笑む藤の花を待ち
わびる心なのでしょう。
明石から都に還った光源氏が朧月夜の君に再会する藤の花の宴では
 沈みしも忘れぬ物をこりずまに身も投げつべき宿の藤波 と詠います。
なんと甘くしっとりとした大人の愛の告白でしょうか。

「枕草子」には八十八段の”めでたきもの”の中の一つに、~いろあひ
ふかく、花房ながく咲きたる藤の花の、松にかかりたる~と述べて、
色は藍深く、花房は長くと、きっぱり定めています。

平安時代には桜と並んで藤は華やかで格が高く霊力を持った樹木として
大切にされ、この花にまつわるたくさんの伝説や物語が生み出されて
きました。

明かりをすべて落とした真っ暗な場内に杵の音が響くと、ぱっと舞台に
ライトがあたり、松に絡まった大きな藤の木の下で藤の花の精がほろ酔い
ながら*藤の花房色よく長く*と藤音頭に合わせて娘心を踊ります。
藤の花房が舞台の端から端まで美しく揺れて、それはそれは華やかな
歌舞伎踊りの骨頂ともいえる六代目菊五郎の創作でした。
「藤娘」は以後多くの踊り手によってさまざまに工夫され魅力ある演目
として今にいたっています。

藤は千年生きるといわれるそうです。
逞しい幹と枝は驚くばかりで、その先には紫匂う花房をまるで
さざ波を立てるように揺らすのです。

ここ北国では五月の半ばから咲き始めた藤の花は少しづつ花びらを
散らしながら艶やかに薫りを放ちその藤色は一層、辺りを優しい景色に
染めています。

みどりなる松にかかれる藤なれどおのが頃とぞ花は咲きける
                    紀貫之
今日の一枚の絵  「晩春麗姿」 高畠華宵  ポスター
               


    近くの公園の藤棚、甘い香りに酔いました。  s・y 



    今日のお菓子  カトルカール カラメルソースをかけて焼きました。