眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

後輩

2024-06-05 | 
君の哀しみと虚無と絶望に
 僕は答える術を持たなかった
  夕暮れ時の赤い太陽が沈む頃
   黒猫のハルシオンと戯れながらビールを飲んだ
    何気ない日常
     何気ない生活

     切り取られた記憶の一部で君が微笑んでいる
      昨日の作為的に虚飾された現存で
       君が泣いていた様な気がしていた

        先輩、シャワー貸して。

         ショートカットの君が
          いつもの様に深夜に僕のアパートに辿り着いた
           ウイスキーを舐めながらギターを悪戯していた僕は
            半場呆れ返りながら少女の訪問を受諾する

             ご勝手に。

              後輩は勝手知ったシャワールームの温度調節に余念がない
               歯ブラシを咥えながら
                ビートルズのMr、ムーンライトを口笛で吹きながら
                 僕の存在を無視し
                  まるで自分の部屋の様にバスタブにお湯を張った
                   僕にはまるで分らない
                    ネパールの塩という怪しげな物体を湯船に撒き散らかした

                    ねえ、 
                     どうして君はいつもこの部屋にいるのさ?

                      不思議に尋ねる僕に
                       ドライヤーで髪を乾かしながら君は答えた

                       だって
                        寮の門限が早すぎるのよ。
                         おちおちビールも飲めやしないんだから。

                          そう云って勝手に冷蔵庫から冷えたビールを取り出した

                           それに
                            先輩、あたしが来なければまた独りぼっちでお酒飲んでたんでしょう?
                             寂しいよ、それ。
                              大丈夫。
                               あたしが一緒に飲んであげるから。

                                実に勝手な言い分で君は三本目のビールの蓋を開けた

                                 大抵後輩は酔っぱらっていた
                                  もちろん僕も負けずに酔っぱらっていた
                                   ビールを飲みながら
                                    窓から零れる青い月明かりに照らされた

                                    後輩は付き合っている彼氏の文句をぶつぶつ云いながら
                                     僕からギターを奪い取って勝手気ままに弾き始める
                                      中学からクラッシックを習っていた後輩の指先を
                                       感嘆の面持ちで眺めながら
                                        僕はお酒を飲み続けた

                                         後輩はビートルズの曲を
                                          片っ端から弾き飛ばした
                                           当時の僕には理解できない
                                            難解なジャズコードで
                                             信じられないくらい
                                              難解な運指を披露した

                                             どうしてさ、
                                            そんな難しい曲が弾けるのさ?

                                           呆れ返る僕の言葉に
                                          後輩は鼻で笑って、簡単よこんなの。
                                         とすっとぼけてた

                                        ある日の深夜二時の出来事だった
                                       秘蔵のウイスキーのボトルを出して
                                      僕は後輩にレッスンをお願いした
                                     後輩は悪戯っぽく微笑みながら
                                    はっか煙草を口に咥える 
                                   その煙草に愛用のジッポで灯をつけた
                                  美味そうに煙を吸い込み
                                 君は僕にテンションコードの理屈を説明してくれた

                                先輩はどうしてギター弾いてるの?

                               う~ん。
                              他にやることもないし。
                             学校の講義にも興味は惹かれないし。
 
                            それだけ?

                           音楽は好きだよ、わりと。

                          女の子には?

                         どうかな?
                        相手にも相手の都合があるだろうし。

                       先輩、好きな人いないの?

                      後輩は不思議そうに云った

                     いるよ、もちろん。
                    でもしっかり彼氏がいるしね。

                   それでもその人の事、好きなの?

                  割とね。

                 ふ~ん。

                つまらなさそうに後輩は煙に目を細めた
 
               君はどうしていつも一人でギター弾いてるのさ?
              そのくらい腕があるならおいらだったらプロを目指すけどね

             後輩は退屈そうにあくびをした

            プロって職業的音楽家のこと?

           まあ、そうだね。

          興味ない。

         後輩はグラスのウイスキーを一息で飲み干した
        
        あたしの音楽はこんな感じ

      そう云って少女は歌い始めた

     スザンヌ・ヴェガの曲だった

    青い月夜が濡れる

   少女の切ない歌声に包まれた夜

  君は眠れない夜を音楽とお酒で紛らわせていた

 僕が酔い潰れて眠りにつく朝に
君は優しく歌い続けてくれた
 難破船がやっと港にたどり着いく様に
  苦しみを抱いて
   君はこの部屋に辿り着いていたんだ
    
    だから
     眠らない君の記憶の為に
      僕は今でも歌い続けるんだ

       ごめんね

        君の哀しみと虚無と絶望に

         無頓着だった僕を

          どうか許してね

           ごめんね

            ごめんなさい

             青い月夜

              届かない

               記憶の羅列


                何気ない日常

         
                 何気ない夜に























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