眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

消毒

2022-10-07 | 
哀しいほど嘘つきだった
 誰かを裏切り
  一杯のバーボンと煙草を手にした
   不思議といくら飲んでも酔わなかった
    酒の味が消毒された病室の匂いに似ていた

     どうして君はあの時あの問いに答えなかったんだい?

     猫のハルシオンが奇妙な物を見るように尋ねた

      あの時
       答えを探し出すのは苦痛だった
        そうして其の問いは今だって僕の心を締め付ける
         苦しい類の切なさの味がする
          ねえ
           どうして君はあの時黙って姿を消したの?
            足跡を丁寧に消しゴムで消し去るかの様に
             連絡も手掛かり一つ残してくれなかった
              僕の時間はあの瞬間に永遠の化石になった

             美しい午後の日差しの森の中
            僕等はサンドウィッチをかじりながら
           氷をいれたピーチティーを飲んだ
          微かに甘ったるい吐息がした
         僕ははっか煙草に火をつけ
        煙を青い空に浮かばせて遊んだ
       木漏れ日が世界を優しく彩った
      君は黙ってお茶を飲んだ
     僕は永遠を想った

    数知れぬ記憶の階層で
   今夜は路に迷い込んでしまった
  何故か冷たい風が吹き抜ける度
 雑居ビルの屋上から眺めた天体を想い出し
あまりにも苦しくて泣こうとした
 けれども泣くことがどうしても出来なかった
  泣く事すら許されなかったのだ
   永遠に

   バーボンをさ
    10分で三本空けたんだ
     苦しくてね
      色んな想いに疲れちゃったんだ
       その頃は空軍のパイロットでね
        バーで心停止して救急隊員が電気ショックをした
         心臓がまた動き始めたんだろうね
          気が付くと病室の白いベットに寝かされていた
           だから今生きている
            もうあんな事はしないよ
             だからお酒には気をつけな
              駄目になる
               後悔するよ、きっと

               アメリカ国籍の従兄弟が僕を諭した

               からん、と
              グラスの氷が転がった
             君がいた夏
            永遠に埋没された記憶
           通信網が遮断されたのだ
          もう帰れない

         どうして君はあの時あの問いに答えなかったんだい?

        ハルシオンが緑のソファーで眠たげに尋ねた
       僕は裏切ったのだろうか?
      僕は忘れ去られてしまったのだろうか?
     忘却と沈黙は死よりも冷徹だ
    君の視界から僕の世界が完璧に除外された
   沢山のアルコール消毒をもって
  僕は動けない
 もう動けないんだ
どうかお願いだ
 何処かの空の下でしあわせでありますように
  希望的観測で魂を占い
   虚空を徘徊する深夜
    常識で拘束された想いは砕け散る
     永遠に

     永遠?

    ハルシオンが赤い舌で世界を嘗め回す

   それは永遠じゃない

  必然だよ

あんたは嘘つきなのさ

 孤独は
  虚無の隙間はその報いさ

   不思議といくら飲んでも酔わなかった
    従兄弟の忠告が耳に残った
     それでも意識をアルコール消毒しなければ
      僕は君を忘れられない
       ごめんね
        それだけを伝えたい


        ごめんね

       苦しいけれど

      きっとあなたのことを忘れないから


        ごめんね  


        

      哀しいほど嘘つきだった






      消毒された君の足跡  








  




       
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原罪

2022-10-07 | 
薬を頂戴
 そう云って彼女は僕のテーブルをあさった
  それからすぐにボルタレンを見つけ
   2錠まとめて口に放り込みバーボンで飲み干した
    僕は黙って彼女が描きかけた水彩画を眺めながら煙草を吹かせていた
     やるせない記憶の断層
      僕にとって君じゃなく
       君にとって僕じゃなかった
        ただ同じ空気を吸い同じ時代を生きていただけだった

        外は台風の影響で酷い有様だった
         停電した部屋でお酒を舐め続けた
          お腹が空くとフランスパンを齧り
           ワインの瓶が2本空になった
            雨風の音が凄かった
             
            彼女も僕もひどい頭痛持ちだった
             天候の変わり目には僕等は残り少ない薬を分け合った
              世界はまるで僕等の存在を無視し
               僕等はそもそも世界自体に関心が無かった
                彼女は売れない絵描きで
                 ただ楽しそうに植物の絵ばかり描いていた
                  そんな彼女の後ろ姿を眺めながら
                   ぼんやりとジョー・パスのレコードを聴いていた
                    僕は一体何をしているんだろう?

                    雨は止まなかった
                     僕等はレコードを流し続けた
                      タック・アンドレス
                       イヴェット・ヤング
                        宇宙コンビニ

                       或いはスザンヌ・ベガ
                      中村由利子
                     マイク・オールドフィールド
                    片っ端から聴いていた

                   君はどうして植物しか描かないんだい?
                  僕は彼女にぼんやり尋ねた

                 植物は誰も傷つけないの
                人は人を傷つける生き物でしょう?
               だから嫌いなの
              その意見には同感だった

             僕等は神さまも人も思想も信じなかった
            ただ音楽と絵を愛した

           僕と彼女の孤独が雨の日に柔らかく重なった
          雨の音が優しく我々を包み込んだ

         原罪なの

        原罪?

      そう。人は人を激しく罵ったり馬鹿にしたり無視したりするでしょう?
     悪気がある訳じゃないの。
    それは私たちの原罪なの。

   彼女はそう云って煙草を吹かした

  僕等はこの雨が止む頃離れ離れになる

 それは決して哀しい事じゃないのだ

ただ

 ただ雨の夜に君と僕のはその時同じ空気を吸い

   同じ時代を生きているだけなのだ

    原罪なの

     たぶん雨の夜に

      彼女が告げた言葉を想い出すだろう

       雨の

        雨の夜に


































       
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