優しい平行線で
青い海と空が広がっている
僕は海岸でじっと立ち尽くしている
波の音が大きく小さくを繰り返す
ポケットの中から煙草を引っ張り出して
深呼吸をする様に深く煙を吸い込んだ
天気の良い日には
波打ち際まで訪れて水筒のウイスキーを舐めた
見上げた空が
とてつもなく遠い世界を垣間見せ
僕はそうっと誰かの名前を呼んでいる
たどり着けない永遠の理想郷に
君は存在の寝床を見つけたのだろうか?
君がいない日に
僕が生き延びて煙草を吹かす毎日が続くなんて
あの時想像すらしなかった
優しい平行線
理科室の準備室で
僕等は珈琲を飲んでいた
君が準備する豆は決まってマンデリンで
僕はクッキーの缶と煙草を準備した
黒板に白墨で数式を描いて
君は何度もうなずいたりむつかしい顔をした
煙草の灰が行き場を失くした様に床に落ちた
たぶん僕がかたずける筈の煙草の灰
クッキーを齧りながら珈琲を飲んでいると
君が突然振り向いた
世界の構成物質を君はいくつ知ってる?
僕は途方に暮れて煙草を灰皿で揉み消した
わからないよ。
だって僕は自分自身のことだって曖昧なのに
世界のことなんて皆目見当がつかないよ。
君はとても面白そうに僕の表情を伺った
君は空想科学の本には夢中なのに
どうしてこの世界にまるで興味がわかないんだろう、ね。
くすくす微笑みながら君は珈琲の残りを飲んだ
それから黒板に落書きをして
またくすくす微笑んだ
僕は黒いギターケースから楽器を取り出し
調弦して音を出した
少し迷ってからヘンツェの「緑の木陰にて」を弾いた
黙って聴いていた君は
僕から楽器を取り上げ
同じように曲を弾いた
不思議だね。
僕は呟いた
何が?
だって僕と君の弾き方がまるで違うんだもの
君はくすくす微笑んだ
世界が違うのさ。
世界?
そう
君と僕の世界が違うのさ。
ところで君は大人になったら何になるつもりだい?
僕はクッキーを齧ってひとしきり考え込んだ
わからないね。僕は僕のままじゃないかな。
それで君は何になるんだい?
君は哀しそうに僕を見つめた
僕は大人にはならないんだ
ずうっとここで数式を解いているんだよ。
そんなの答えになっていないよ
それなら僕だってここで音楽を弾き続けるよ。
残念だけど
君はここには残れない
君は大人になってここを出てゆくんだ。
そういう決まりなんだ。
僕にそれ以上なにも云えなくする様に
君はギターを弾いた
「カヴァティーナ」
僕は黙って聴いていた
とても繊細で哀しみに満ちた演奏だった
僕は大人にはならないんだ
君の面影が脳裏をよぎる
波打ち際で立ち尽くし
大人になり損ねた僕は
青い海と空の
優しい平行線を眺めているんだ
いつまでも
青い海と空が広がっている
僕は海岸でじっと立ち尽くしている
波の音が大きく小さくを繰り返す
ポケットの中から煙草を引っ張り出して
深呼吸をする様に深く煙を吸い込んだ
天気の良い日には
波打ち際まで訪れて水筒のウイスキーを舐めた
見上げた空が
とてつもなく遠い世界を垣間見せ
僕はそうっと誰かの名前を呼んでいる
たどり着けない永遠の理想郷に
君は存在の寝床を見つけたのだろうか?
君がいない日に
僕が生き延びて煙草を吹かす毎日が続くなんて
あの時想像すらしなかった
優しい平行線
理科室の準備室で
僕等は珈琲を飲んでいた
君が準備する豆は決まってマンデリンで
僕はクッキーの缶と煙草を準備した
黒板に白墨で数式を描いて
君は何度もうなずいたりむつかしい顔をした
煙草の灰が行き場を失くした様に床に落ちた
たぶん僕がかたずける筈の煙草の灰
クッキーを齧りながら珈琲を飲んでいると
君が突然振り向いた
世界の構成物質を君はいくつ知ってる?
僕は途方に暮れて煙草を灰皿で揉み消した
わからないよ。
だって僕は自分自身のことだって曖昧なのに
世界のことなんて皆目見当がつかないよ。
君はとても面白そうに僕の表情を伺った
君は空想科学の本には夢中なのに
どうしてこの世界にまるで興味がわかないんだろう、ね。
くすくす微笑みながら君は珈琲の残りを飲んだ
それから黒板に落書きをして
またくすくす微笑んだ
僕は黒いギターケースから楽器を取り出し
調弦して音を出した
少し迷ってからヘンツェの「緑の木陰にて」を弾いた
黙って聴いていた君は
僕から楽器を取り上げ
同じように曲を弾いた
不思議だね。
僕は呟いた
何が?
だって僕と君の弾き方がまるで違うんだもの
君はくすくす微笑んだ
世界が違うのさ。
世界?
そう
君と僕の世界が違うのさ。
ところで君は大人になったら何になるつもりだい?
僕はクッキーを齧ってひとしきり考え込んだ
わからないね。僕は僕のままじゃないかな。
それで君は何になるんだい?
君は哀しそうに僕を見つめた
僕は大人にはならないんだ
ずうっとここで数式を解いているんだよ。
そんなの答えになっていないよ
それなら僕だってここで音楽を弾き続けるよ。
残念だけど
君はここには残れない
君は大人になってここを出てゆくんだ。
そういう決まりなんだ。
僕にそれ以上なにも云えなくする様に
君はギターを弾いた
「カヴァティーナ」
僕は黙って聴いていた
とても繊細で哀しみに満ちた演奏だった
僕は大人にはならないんだ
君の面影が脳裏をよぎる
波打ち際で立ち尽くし
大人になり損ねた僕は
青い海と空の
優しい平行線を眺めているんだ
いつまでも
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