眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

草原の出来事

2024-09-12 | 
永遠は何処にあるの?
 少女が呟く
  凛とした彼女の横顔を眺め煙草を吹かした
   緑の草原には風が吹いていた
    柔らかな日差しが僕等を憩う
     緑色の瓶ビールを飲みながらあの青の時代を想った
    
      僕等は寄る辺ない流浪の旅人で
       此の世界が旅の途中なのだと知っていた
        それでもビールを浴び
         楽器をかき鳴らした
          永遠に続く緩衝の此の地に於いて
    
           ね
            ビールを頼んで
             君がカウンターで告げた
              12本目の瓶が厳かに運ばれた
               マスターは苦笑し僕にもビールは必要かと尋ねた
                意識を失いかけた僕は急いでハイネケンの残りを飲み干した
                 珈琲が飲みたかった
                  彼女は平然とした面持ちで12本目のハイネケンに口をつけた
                   ビールを飲み干す彼女の口元を眺めた
                    まったく酔い潰れない彼女に僕は呆れて質問した

                     そんなに美味しそうに飲まれたらビールも本望だろうね

                      そうね。
                       美味しいわ。
                        
                        どうして君は酔い潰れないんだい?

                         僕の言葉に彼女は意外そうな表情をした

                          酔わないのよ。
                           いくら飲んでも。

                            そうしてフリップモーリスを咥えた
                             僕は煙草の先に灯を点けた
                              彼女は満足げに白い煙を吐いた
                               午前三時
                                店には僕と彼女とマスターだけが残された
                                 赤い花
                                  君はその頃皆にそう呼ばれていた
                                   そうして
                                    ギターを弾きながら寂しそうに歌う
                                     君の切ない声が僕はとてもとても好きだった

                                      君は現実界隈の行方に酔い潰れ
                                       誰もいない路地で三本足の野良猫の頭を
                                        撫でていた
                                         雨が降りしきる深夜に
                                          傘も差さずに
                                           僕は尋ねた

                                            ねえ
                                             音楽は好きかい?

                                         赤い花は不思議そうに僕の瞳を見つめた

                                        音楽が無ければおかしくなるわ。

                                       僕は彼女を行きつけの店に誘った
                                      難しそうな顔でビールを飲みながら
                                     彼女は僕の煙草を取り上げ
                                    美味しそうに煙を吹かせた
                                   酔いどれた僕がギターを取った時だけ
                                  気怠そうに云った

                                 ね
                                音楽好き?

                               僕は黙ってギターを弾いた
                              しばらく聴いていた彼女は
                             そっと歌ってくれた
                            ピンクフロイドの「あなたがここにいてほしい」
                           そして僕と赤い花は友達になった

                          皆がいつも不思議そうに尋ねた
                         どうして赤い花がお前とだけ歌うんだい?
                        と
                       赤い花はいつも一人きりでギターを抱えて歌っていた
                      舞台に人の気配がするとそっといなくなった
                     だから
                    彼女が僕の伴奏で歌う光景はたぶんめずらしかったのだ
                   ビールを飲み煙草を吹かし
                  君は僕が酔いどれて滅茶苦茶なコード進行で即興演奏すると
                 悪戯な詩を紡いで歌った
                飽きることなく何時間も僕等は演奏を続けた
               終わらない歌
              永遠を想った

             最後に君に会った時
            赤い花はこう呟いた

           あなたはもう行かなくちゃ。

         何処へ?

        此処以外の何処かよ

       どうしてさ?

      どうしてもよ。

     なら君も行こう。一緒に。

   赤い花は優しく哀し気に告げた

  此処に私は残るの。
 あなたはもう行かなくちゃ。

  僕は途方に暮れた
   
   どうして?
    僕は君といるんだ、ずっと。

     永遠は来ないのよ。あなたはあなたの世界に行き
      私は私の時間に生きるの。
       それはもう決まったことなの。

        時季外れの店の風鈴が鳴った

         あなたが寂しい時には想い出して

          私が歌っていることを
    
           僕は永遠に憧れるけれど永遠を信じない

            長い時間が流れ

             いつか僕は涙さえ忘れた

              君の声を忘れた

               ただ

                季節外れの風鈴の音だけが記憶に残った


                 永遠は何処にあるの?
                  ハムとレタスのサンドウィッチをほおばりながら少女が尋ねた

                   たぶん

                    たぶんあの深い井戸の底だよ
  
                     其処に鳥の化石が眠っているんだ

                      飛べなかった鳥の

                       記憶の化石

                        風がたなびく

                         緑の草原で

                          いつまでたっても止め切れない

                           煙草に僕は灯を点けた

                            友よ

                             いつだって

                              いつまでも




















       

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