眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

寝床

2010-11-02 | 
やはり青い月の夜
 少女は古ぼけた楽譜を丁寧にめくりながら
  時々想い出した様に音を出した
   バーボンを舐めながら聴いていたのだが
    その音が何のテンションを内包しているのか
     僕には皆目検討がつかなかった
      そんなにお酒を飲み過ぎたのだろうか?
       ぼんやりと音を眺めていた

       はっか煙草に灯を点け
        僕は試しに少女に尋ねてみる事にした

        ねえ
         その楽譜、誰の音楽?
          彼女は楽譜から顔も上げずに呟いた
           いまいいとこなのよ、邪魔しないで。
         
         僕はため息をついてまたお酒を飲んだ

        不思議な和音が流れる
       それはけして気持ちの悪い不協和音ではなかった
      なんだか遠い昔を思い出させるそんな音だった
     懐かしい誰かの後姿
    記憶の中の優しい郷愁
   曖昧なアリバイ
  誰かが記述してきた世界の境界線
 やがて消え行く刹那の夕暮れ
おれんじ色の夕映えのグランド
 音楽室から聴こえたチャイムの音
  足音すらも消え去った教室
   僕は黙って窓の外から皆が帰る光景を見送った
    
    帰る?
     一体何処へ?

     夕暮れが迫りやがて星空が建物の屋上に瞬く
      僕らは限りなく孤独だった
       この小惑星に唯の一人きりだった
        そんな記憶の夜
         青い月夜

        名前が無いのよ。

        少女が呟いた

        僕の名前?それとも君の?

       馬鹿ね、この曲の作者の、よ。

      少女はギターを緑色のソファーに置いて
     タンブラーグラスにバーボンを注いだ
    街の古本屋の隅に落ちてたのよ
   古本屋?まだそんなものがあったのかい?
  あるわよ。ちゃあんと探せばね。
 大体のところ、
少女はバーボンを舐めながら話し続ける
 大体のところ、失くした物は在るのよ。ちゃあんと探せばね。
  でもだれも探そうとはしないの。
   
   どうして?
    僕には皆が失くしたものを探して一生懸命に見えるけれど。
     もちろん僕も含めてね。

     在るのよ。

     少女が僕の目を覗き込むように囁いた

     この音楽たちは
      誰かが音にしなければ誰にも気付かれない
       でも
        この世界に存在するの
         
        存在しないものは何もないのよ

       
      僕は少女が拾い集めてきた楽譜の山を見つめた

     それで

    それで君はわざわざ青い月夜に世界を表出させるんだね?

   失ったものを探しているのよ。

  少女は丁寧に僕の言葉を云い直した

 少女がそおっとささやく

「美わしき悦びに満てる
  真の魂は
   穢れることなし」

    ギターを手に取って
  
     少女は世界を現世に表出さす

      彼女が表現者で

       僕が創造物なのだろうか

        青い月の夜


       誰かの憂える魂に

      ただ安かれと願う

     ただ安かれと


    魂の寝床

   

 
      

         
 
  
       
コメント (6)
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