「老いて新鮮」松ひさし

捨てられる用心棒

 

駅のトイレで壁にもたれ

ぽつんと立っている用心棒

ひとりぼっちだ

主に忘れられたか　置いていかれたか

 

今日は朝から晴れて心配なさそうな日

身軽な格好で家を出ると

思いがけず困った事態が発生

主は急いで用心棒を雇い入れ難を逃れた

ほどなく困った事態がおさまり

主は連れ歩く用心棒が邪魔になった

 

安い雇い入れ金で働くいい奴

文句を言わず黙って働くいい奴

大事にすれば長く働くいい奴

こんないい奴を

その時その場で用がなくなれば

あっさり手放して捨てる主たち

雇い入れた用心棒は大事にしようよ

はて　この思いは古くて遅れているのか

今どきの前向きな思いだって知ってるさ

用心棒でも何でも簡単に手に入るものは使い捨てよう

どんどん消費して新しいものを買えば景気がよくなる

 

お分かりかな

用心棒の正体はビニール傘

えっ　あなたはお連れ合いの用心棒役だと

役を続けるあなたはお連れ合いい信頼されている

「川柳歳事記」

肩

肩の荷の重さは言わぬ父のせな

息をのむ惨状肩が震えだす

肩幅に父の昭和はまだ褪せず