「老いて新鮮」 （松ひさし）

モノが変わる

楽しいから絵をかく
面白いから陶器をつくる
絵や陶器という物ができる
物は消えないで残る

楽しいから旅にいく
面白いからスポーツをする
風景や人に出会い試合をして思い出ができる
思い出は薄れたり忘れたり　はかない
でも　写真に撮ればアルバムという物ができる

つくった物できた物は愛着がある　たいせつなモノ
たいせつなモノが他の人にもたいせつなモノと感じられれば　タカラモノ
たいせつなモノが他の人にもたいせつなモノと感じられれば　タカラモノ
たいせつなモノがいろいろあるけれど
見回してタカラモノはなさそうだ
我が身が絶えた途端
たいせつなモノが要らない物　邪魔物　ゴミに変わる

たいせつなモノたちがゴミに変わる準備を始めたか
がらくたに見えてくる
我が身までゴミに変わる兆候か　目が弱り足が衰えていく
身が絶えてゴミに変わっても
他の人の思い出になるか　思い出からも消えるか
名を残すとか　跡を濁さずとか
立派な言葉が縁のない身にもかすかに聞こえてくる

「繰り言」より