風とともに消える
遠くから見ていた著名人が逝く
年を重ねた人 これからも活躍を期待されていた中年の人
広い舞台で脚光をあびた人達
マスコミが報じ いっとき世間に風が吹く
風は世間が忘れかけていた人にも吹き
そうだったかと業績を思い起こさせる
観客だった世人が惜しみ
本人も無念な思いだろうけれど消えていく人
手腕があっても莫大な資力があっても消えていく人
悔しい病気 不意の事故 残念な身の衰え
逝く人に なぜですかと問うてもむなしい
世間に吹いた風がほどなく静まる
逝った人のことは風とともに消えて
世間には風が吹く前と変わらない日常がある
身近に見ていた人が逝く
勤めていたころの先輩が 元気だった現役の後輩が
近所のほがらかだったおばさんが
我が家の道を主と散歩していたワンちゃんが
狭い路地や空き地で
走ってころんだり 汗をかき 泣いたり笑ったりしていた人達
みんなから好かれだれにもやさしかったけれど消えていく人
路地に束の間微風が流れる
逝った人のことは微風とともに消えて
路地には微風の流れる前と変わらない時間が過ぎる
逝ってしまった人は語らない
自分に吹いた風に何を思っただろう 吹く風は人さまざま
大きな風 小さな風 かすかな風 風のない静けさ
「戯れ言」より(原文)
(完)