毎日新聞
日米欧と新興国の主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議は17日、2日間の日程を終えて閉幕した。中国が設立を主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は正式議題ではなかったが、会議期間中、歓迎する声が新興国だけでなく、英国などからも上がった。米国に対しては「新興国への配慮が乏しい」などの批判が目立ち、経済成長を背景に影響力を増す中国と、守勢に回る米国の構図が鮮明になった。AIIB参加に慎重で米国と歩調を合わせる日本も難しい立場に追い込まれている。
「国際通貨基金(IMF)が世界経済の安定を推進する第一の国際金融機関であることは変わらない」。ルー米財務長官はG20閉幕後に出した声明で、AIIBに対する強い対抗意識を示した。麻生太郎財務相も記者会見で「AIIBがノウハウを持っているとは言い難い」と、融資能力に疑問を表明。しかし、そうした意見は少数派だった。
G20直前の15日に中国が発表したAIIBの創設メンバーは57カ国にのぼり、G20では英国など14カ国が名を連ねた。英国のオズボーン財務相は「新興勢力を取り込んでいく英国の良き伝統の表れだ」と胸を張った。アジアやアフリカの新興国や途上国もワシントンに乗り込み、AIIBを歓迎する声明を発表。IMFのラガルド専務理事も「協力が期待できる国際金融機関だ」と述べた。
中国の朱光耀財政次官は「AIIBは(IMFなど既存機関の)補完的な役割を果たす」と現地での講演で語り、世界銀行など米国主導の国際金融体制に挑戦する意図はないことを強調。G20の共同声明はAIIBには直接触れず、17日の議論でも中国などが簡潔に触れただけだった。それでも中国の当局者らには余裕すら漂っていた。
逆に、強い批判を受けたのは、米国が原因で宙に浮いたままのIMF改革。IMFの運営方針を決める投票権は、各国の出資比率に応じて割り当てられる。中国などの経済成長に伴い、新興国の出資比率を引き上げる改革案が2010年にIMFで承認されたものの、事実上の拒否権を持つ米議会の反対で頓挫したままだ。共同声明では「引き続き深い失望」と明記され、中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は「加盟国は挫折感を味わっている」と米国の対応を批判した。
声明はIMF改革を「最優先課題」と明記し、新興国の発言権を暫定的に引き上げる「つなぎの解決策」を求めた。しかし、「有効な代替策は見当たらない」(財務省幹部)のが現状。こうした不満がAIIB設立の追い風になっている。
日本政府内では「AIIBは運営体制が不透明なうえ、出資金の負担を考えれば参加メリットは乏しい」との見方が根強い。米国と連携しつつ、参加の是非を引き続き慎重に検討する。
一方で、中国は日米が中心になって進めている環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に対して、「中国抜きで貿易・投資のルール作りが進む」と警戒感を隠さない。16日には米議会に、TPP交渉合意に不可欠とされる大統領貿易促進権限(TPA)法案が提出された。大統領に通商交渉の権限を一任して、各国との交渉を加速させることが可能になる。オバマ大統領は17日、「(TPPが妥結しなければアジア市場で)中国が中国人労働者や中国企業に有利なルールを設定するだろう」と訴え、中国への対抗意識をむき出しにした。世界1、2位の経済大国がせめぎ合う中で、3位の日本は両大国の間で翻弄(ほんろう)されているようでもある。