よろずにいみじくとも、色好まざらん男はいとさうざうしく、玉の巵の当なきここちぞすべき。
露霜にしほたれて、所さだめずまどひ歩き、親のいさめ世の謗りをつつむに心のいとまなく、あふさきるさに思ひみだれ、さるは、独り寝がちにまどろむ夜なきこそをかしけれ。
さりとて、ひたすらたはれたる方にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。
<口語訳>
すべてにすばらしくても恋なき男はひどくさびしい、玉のさかずきの底がないかのように感じられる。
露霜にしたたれて、所さだめず迷い歩き、親の戒め世のそしりで気後れして心安らかになれない、何とも言えない思いに乱れて、それで、独り寝ばかりでまどろむ夜しかない事のおかしさ。
しかし、ひたすらたわむれるだけの男ではなく、女に並大抵の者ではないと思われてこそ、あぁ望みの技である。
<意訳>
いかに完璧な男でも、失恋経験の一つもないような奴はいささか寂しい。高価な宝石を削って、せっかく杯を造ったのに、最後に手元が狂って底が抜けちゃったみたいなかんじだ。
夜露に濡れ、行き先も定まらぬまま一晩中ほっつき歩く。好きでそんな事をしているはずなのに親の小言や世間の評判を心配して何とも言えない思いに心がかき乱れる、そんな事を繰り返していながら、独り寝で悶々とするばかりの毎日に自分で自分がおかしくなる。
しかしだ。こんな男でも、女に並大抵の男ではなさそうだと一瞬でも思われたなら、まぁ最高だよね。
<感想>
恋に仕事にと大成功している男は、たしかにうらやましいが、失恋だらけでセンズリが彼女みたいな男の目から見ると、どこか大切ななにかが彼には欠けているように思われる時もある。
なんて事を兼好法師はこの文章で言いたいのではないかと想像する。
橋本治の「絵本徒然草」の解説を参照させていただくと、この第三段は、夜ばいが失敗した時の気持ちを書いているのではないかと言う事だ。
いくら、鎌倉時代な大昔でも、勝手にひとんちに不法侵入して、ソコの家の娘を犯したら強姦で犯罪である。夜ばいにも段取りが必要なのだ。
恋の歌を何度もお気に入りのお屋敷の娘に送り、ついでにお屋敷の召使いとも仲良くなっておく。やがて、恋の歌にも返事が来るようになれば「脈あり!」だ。
そこで召使いに、彼女にお目どおり願いたいんだけど、一役買ってくれないかなと根回しをはかる。召使い、おめあての彼女の下女は言う。「じゃ。気持ちだけはお嬢様に伝えときますんで」そこまで、下女から引き出せればしめたもの。
やったー。
おめあての彼女の生顔すら拝んだ事のない超童貞くんは天にも昇る気持ち。
二三日して、屋敷に行き下女を呼び出すと、「お嬢様はお会いになられても良いかも。と、申しております。とりあえず、私の一存で、今夜はこの門のカギを閉めずにおいておきましょう。ただ、お嬢様にも都合がございますゆえ、あまりご期待はなさらぬ方が良いかもしれません」
もう、チンコはこの段階でピーチクパーチク。
浮かれ気分で、もう夜が待ち遠しくて仕方ない。
夜になり、屋敷に行くと、門にはかんぬきがささっている。おしても引いてもビクともしない。あれー。来るのが早すぎたのかなー。
下女が門を開けてくれるのをひたすらに待つ。街灯もない暗闇の中で口臭チェック。ふところには、最新の愛の歌。
長い長すぎる。いくらなんでもこれはありえんだろうと思えるほど長いあいだ門の前で立ち尽くしていた。いつの間にやら空は白みはじめ、一張羅の自慢の着物は朝露に濡れている。
そしてやっと悟る。あー。今夜は彼女は都合が悪かったんだ。そして、ありとあらゆる都合を考え、自分の惨めさをやっと知る。
俺なんか、誰にも必要とされてない。俺はいらない。俺は不良で腐ったミカンだ。
とりあえず、うちに帰ってセンズリでもかこう。抜けば、スッキリして眠くなる。
足取りは重く、頭は徹夜で疲労しきっている。そして、それでも最後の最後にこう考える。こんな惨めな俺でもすごいと言って好きになってくれる女がどこかにはいるかもしれない。
なんて思いをした兼好法師が中年になってから書いたのが、この第三段なのではなかろうか。
原作 兼好法師
現代語訳 protozoa
参考図書
「徒然草」吉澤貞人 中道館
「絵本徒然草」橋本治 河出書房新書
露霜にしほたれて、所さだめずまどひ歩き、親のいさめ世の謗りをつつむに心のいとまなく、あふさきるさに思ひみだれ、さるは、独り寝がちにまどろむ夜なきこそをかしけれ。
さりとて、ひたすらたはれたる方にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。
<口語訳>
すべてにすばらしくても恋なき男はひどくさびしい、玉のさかずきの底がないかのように感じられる。
露霜にしたたれて、所さだめず迷い歩き、親の戒め世のそしりで気後れして心安らかになれない、何とも言えない思いに乱れて、それで、独り寝ばかりでまどろむ夜しかない事のおかしさ。
しかし、ひたすらたわむれるだけの男ではなく、女に並大抵の者ではないと思われてこそ、あぁ望みの技である。
<意訳>
いかに完璧な男でも、失恋経験の一つもないような奴はいささか寂しい。高価な宝石を削って、せっかく杯を造ったのに、最後に手元が狂って底が抜けちゃったみたいなかんじだ。
夜露に濡れ、行き先も定まらぬまま一晩中ほっつき歩く。好きでそんな事をしているはずなのに親の小言や世間の評判を心配して何とも言えない思いに心がかき乱れる、そんな事を繰り返していながら、独り寝で悶々とするばかりの毎日に自分で自分がおかしくなる。
しかしだ。こんな男でも、女に並大抵の男ではなさそうだと一瞬でも思われたなら、まぁ最高だよね。
<感想>
恋に仕事にと大成功している男は、たしかにうらやましいが、失恋だらけでセンズリが彼女みたいな男の目から見ると、どこか大切ななにかが彼には欠けているように思われる時もある。
なんて事を兼好法師はこの文章で言いたいのではないかと想像する。
橋本治の「絵本徒然草」の解説を参照させていただくと、この第三段は、夜ばいが失敗した時の気持ちを書いているのではないかと言う事だ。
いくら、鎌倉時代な大昔でも、勝手にひとんちに不法侵入して、ソコの家の娘を犯したら強姦で犯罪である。夜ばいにも段取りが必要なのだ。
恋の歌を何度もお気に入りのお屋敷の娘に送り、ついでにお屋敷の召使いとも仲良くなっておく。やがて、恋の歌にも返事が来るようになれば「脈あり!」だ。
そこで召使いに、彼女にお目どおり願いたいんだけど、一役買ってくれないかなと根回しをはかる。召使い、おめあての彼女の下女は言う。「じゃ。気持ちだけはお嬢様に伝えときますんで」そこまで、下女から引き出せればしめたもの。
やったー。
おめあての彼女の生顔すら拝んだ事のない超童貞くんは天にも昇る気持ち。
二三日して、屋敷に行き下女を呼び出すと、「お嬢様はお会いになられても良いかも。と、申しております。とりあえず、私の一存で、今夜はこの門のカギを閉めずにおいておきましょう。ただ、お嬢様にも都合がございますゆえ、あまりご期待はなさらぬ方が良いかもしれません」
もう、チンコはこの段階でピーチクパーチク。
浮かれ気分で、もう夜が待ち遠しくて仕方ない。
夜になり、屋敷に行くと、門にはかんぬきがささっている。おしても引いてもビクともしない。あれー。来るのが早すぎたのかなー。
下女が門を開けてくれるのをひたすらに待つ。街灯もない暗闇の中で口臭チェック。ふところには、最新の愛の歌。
長い長すぎる。いくらなんでもこれはありえんだろうと思えるほど長いあいだ門の前で立ち尽くしていた。いつの間にやら空は白みはじめ、一張羅の自慢の着物は朝露に濡れている。
そしてやっと悟る。あー。今夜は彼女は都合が悪かったんだ。そして、ありとあらゆる都合を考え、自分の惨めさをやっと知る。
俺なんか、誰にも必要とされてない。俺はいらない。俺は不良で腐ったミカンだ。
とりあえず、うちに帰ってセンズリでもかこう。抜けば、スッキリして眠くなる。
足取りは重く、頭は徹夜で疲労しきっている。そして、それでも最後の最後にこう考える。こんな惨めな俺でもすごいと言って好きになってくれる女がどこかにはいるかもしれない。
なんて思いをした兼好法師が中年になってから書いたのが、この第三段なのではなかろうか。
原作 兼好法師
現代語訳 protozoa
参考図書
「徒然草」吉澤貞人 中道館
「絵本徒然草」橋本治 河出書房新書